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空駆ける黒妖犬は死者を弔う  作者: 若取キエフ
第四章 空中都市、セシルグニム防衛編
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153話 二日目の襲撃


 夜が明けてからしばらく。


 ルピナス率いる魔導飛行船は、巨大な結界を素通りし、再びセシルグニムへ侵入した。

 彼女らの侵攻を夜通し見張っていた兵士達は、飛行船を撃ち落とそうと魔導砲の一斉射撃を開始するが。


「【暗黒障壁ダークプレート】」


 甲板で構えるハジャは、飛行船の周囲に幾つもの障壁を展開し、それを全て防ぐ。


 そして、ルピナス達は兵士の攻撃を難なく掻い潜り、昨日と同じ場所へ着陸した。


「みんな、今日も戦力の分散、お願いするわね」


 ルピナスは皆に指示を出しながら人数の確認をする。





 計六十五人いた戦闘員達は、昨日の内に二十人程減った。


 騎士の数に圧され命を落とした者や、オニキスの説得に応じなかった者、そしてショウヤが気絶させ、その間に町の兵士や冒険家などに取り押さえられた者などが該当する。


「こちらの戦力が減ってきているわ。出来れば今日中に『浮遊石』への場所を見つけたいところね。……ショウヤ、あなたには期待しているから」


「…………ふん」


 彼女の言葉を不機嫌気味に返すショウヤに、隣にいた戦闘員は舌打ちをしながら睨み付けた。


「そもそもてめえが余計な事しなけりゃここまで戦力が削がれることはなかった。お前のせいで無駄な犠牲が出たんだよ。せいぜい弾避けにでもなって、役に立つ死に方をしてくれよな」


 彼は昨日、激怒したショウヤに腕を斬られた男である。


 治癒魔法で繋がった腕を擦りながら、嫌味たらしく当てつける男にショウヤは睨み返し挑発した。


「腕を斬られて無様にのたうち回ってた奴が、ずいぶん強気だな」


「ああ?!」


「今度は両腕をやってやろうか?」


「っっ! こいつ……」


 と、険悪なムードになる二人の間にルピナスは杖を振り。


「二人共、いい加減にしなさい。ここはもう敵陣よ。内輪揉めに何の得もないわ」


 殺気を露わに、二人の喧嘩を止めた。


 ビクリと背筋を凍らせる男を尻目に、ショウヤは「分かったよ」と一人歩き出し。


「この国の王と、向こうの敵将が俺の村を襲わせたんだろ? ならどっちも俺が討ち取ってくるよ」


「まさか、レオテルス・マグナと戦うつもり?」


「お前にとっても厄介な相手なんだろ? そいつを討ち取れば十分貢献したことになるよな」


「それは……そうだけど」


 そう言うと、ショウヤは高速化のスキルを唱え、真っ直ぐ城へ走り抜けていった。


「今のあなたじゃ……まだ勝てないわ」


 ぼそりと呟くルピナスに、先程の男は「いいんじゃないっすか?」と軽く返した。


「あの騎士団長を足止めしてくれるってんだから、それだけでも好都合でしょう? なんなら相討ちになってくれれば最高だ」


「それはダメよ。これ以上転生者を減らすわけにはいかない。私達の依頼主、オルドマンもショウヤを高く買っているのだから」


 その言葉に、男は小さく舌打ちをして押し黙る。


「それじゃあ、今から侵略開始よ」


 そして、一同は昨日と同様、町の中へ散って行った。


 先程の男を残して。


 ――クソ、クソ! なんであんなガキが優遇されるんだ!


 憎悪渦巻く胸の内で、男は一人飛行船の中へ入っていった。











 我慢ならぬ怒りを発散させる為。

 男が向かったのは、ライラの部屋。


 扉を蹴破り、目の前にいた彼女を睨み付けると。


「えっ……あの、どうかされましたか?」


 息荒げに、男はいきなりライラの顔を殴り飛ばした。


「っっ!」


 地面に倒れる彼女へ、さらに腹部を蹴り飛ばす。


「けほっ! けほっ! な、何をなさるのですか?」


「うるさい黙れ、どうせ死体のお前はこれ以上死ぬことはないんだ。少し俺のストレス発散に付き合え」


 そう言って、男は理不尽にライラへ暴行を加えた。


 ショウヤの大事なものを壊す。


 ただそれだけの報復感情に愉悦を覚え、次第にそれはエスカレートしていった。


「なんだ、アンデッドのくせに痛みがあるのか? 生きてた頃の感覚が残ってんのかよ? とっくにお前は化け物だっていうのに!」


 時間が経てば自己再生するライラの体をいい事に、男はサンドバッグのような扱いで、ショウヤに対する怒りを彼女にぶつける。


「痛い! やめ……やめ、て……」


「ははは! このくらいで俺の怒りが収まるわけねえだろ! てめえがぐちゃぐちゃになった姿をあのガキの前に晒してやるんだ! 俺を怒らせたことを後悔させてやるんだよ!」


 気持ちが高ぶった男は、ライラの頭を撃ち抜こうと拳銃を構え。


 トリガーを引こうとした瞬間。



「やめなさい」



 突如、拳銃を持っていた男の腕は、黒い霧に包まれ。


 ぼとりと、腐ったように落ちた。


「へっ……あっ……ああああああああ!」


 突然自分の腕が溶け落ちたことに驚愕し、昨日ショウヤに斬られた激痛を思い出し、男は悲痛な叫びを上げる。


 そして恐る恐る振り返ると、そこには禍々しい殺気を放ったハジャが立っていた。


「ハジャ……様」


「目的も成さず、力なき者をいたぶり、憤怒を紛らわす傲慢な感情……」


「いえ……これは……」


「許容出来ぬ大罪は、万死に値する」


 そう言うと、ハジャは魔力を高め、床に闇の渦を発生させる。


「【闇葬ベリアルへの誘い(テンプテーション)】」


 すると、突如渦の中から無数の黒い手が這い出し、男の体を掴み中へ引き込んでゆく。


「うあああ待ってくれ! 謝る! 謝るから!」


「一時の後悔で償えるものではない。信用に足らぬ者を置いておく程、我々は寛容ではないのでね」


 そして、男は黒き手に引きずられ、闇の中へと沈んでいった。


「あ、あの……」


 突然の事に、ライラは言葉が出て来ず。


「すまない、私の監督不十分で君を傷つけてしまった」


「いえ、私は、大丈夫です」


 ライラは首を振ってハジャに返すと。


「少し、話をしないかね?」


「えっ?」


「船の守備を任されている為外での会話になるが、構わないか? 敵兵が来ても、君のことは私が責任を持って守ろう」


 そう言ってハジャは部屋を出ていき、ライラも戸惑いつつ、彼の後に続いた。





ご覧頂き有難うございます。

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