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空駆ける黒妖犬は死者を弔う  作者: 若取キエフ
第四章 空中都市、セシルグニム防衛編
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152話 サイカの決断


 魔導飛行船の一室で、サイカはタロスに国の事情を話した。


「……というわけでな、この事を姫様に知られることなく、さり気なく進路を変えてほしいのだ」


『なるほど。しかし、セシルグニムのほうは大丈夫なのか?』


 無機質な表情で、セシルグニムの戦況を憂うタロス。


 もはや浅い付き合いではない間柄、あわよくば国に加勢してやりたいものの。

 やはりサイカも、そして送迎を手伝うタロスも、優先されるのは王女の安全。

 アルミスを戦火に巻き込むわけにはいかないのだ。


「向こうにはレオテルスがいる。そうそう国が敗れることはない」


 と言いつつも、サイカは『黒龍の巣穴』で対峙したオニキスとルピナスが気にかかっていた。


 底知れない強さを持つ転生者がいる中で、はたして自国の騎士達はどこまでやり合えるだろうかと。


『ふむ、そういうことならば、一度アスピドへ戻り、アルミス王女に何人か護衛を残してしばらく滞在してもらおう。その間、俺達でセシルグニムへ向かうというのはどうだ?』


 サイカの心情を理解したタロスは、どちらも丸く収まるであろう解決策を提案した。


「正直、そうしてもらえると助かる。私としても、国の危機に何も出来ないのは心苦しいのでな」


 そしてサイカは、タロスの提案に賛成の意を示した。

 その直後。



「その気持ちはアルミスも同じなんじゃない?」



 ふと、サイカの後ろからポロの声がした。


 彼女は驚き振り向くと、そこには床から上半身だけ突き出たポロの姿。


「なっ、お前いつの間に……というかなんだそれは」


 はたから見れば床に半分刺さったような状態のポロに驚くサイカ。


「これ? 神獣の思念を取り込んでから急に使えるようになった空間魔法。ちなみにこの僕はスキュラの力で生成した分身体ね」


 と言って、床からピョンと這い上がるポロに、サイカは心配そうに尋ねる。


「お前また魔物の思念を取り込んだのか? しかも神獣だと? 精神を支配されたりはしないのか?」


「みんな優しいから大丈夫だよ。三姉妹のお姉ちゃん達に、神獣はお父さんって感じかな」


「自分の体で歪な家族構成を築くな!」


 得体の知れない魔物に、簡単に精神を預けるポロ。

 そんな考えなしの彼に、より一層不安になるサイカだった。


 ポロは気にせず話を進め。


「まあそれはともかく、話は聞かせてもらったよ。セシルグニムの件、僕達も加勢に行ったほうがいいね」


 船長直々の判断で、サイカに助力の意を示す。


「ああ、お前の口からそう言ってもらえるのは嬉しいが、その前に姫様を船から降ろす必要がある。だから一度アスピドに戻り――」


「それは、アルミス本人に聞いてから実行するべきだよ」


 言いかけるサイカに、ポロは言葉を遮って説いた。


「サイカ、さっき君から不安と動揺の匂いがしたんだ。だから気になって二人の話を聞いていたんだけど……君の焦りは、アルミスにも伝わっているみたいだよ」


「何?」


「長い付き合いだから分かるんじゃないかな。サイカの表情を見た後、明らかにアルミスからも不安の匂いが伝わってきた」


「…………そんな」


 見事に平静を装っていたと自負していたサイカの、痛恨の思い違い。

 何よりアルミスに気を遣わせてしまった事に、気まずさがにじみ出る。


「しかし……本当のことを言えば、きっと姫様は我らに付いてくるはず。国の王女を戦場へ向かわせるなど言語道断だ」


「ならサイカが守ってあげればいい」


「はっ?」


「国にもしもの事があった時、後から真実を告げられて、何も知らず待たされた過去を悔やむのは、サイカも嫌でしょう?」


「いや……私とは立場が違うのだ! 姫様の身に何かあったらどうするつもりだ!」


「だから守るんでしょ? アルミスと、セシルグニムに暮らすみんなを」


「気持ちでどうにかなる問題ではない、わざわざ危険な場所へ向かわせる事などない!」


「別にアルミスを戦わせるわけじゃない。ただ、せめてみんなと意志を共有させてもいいんじゃないの? 両親の安否も確認したいだろうし」


「…………」


 気持ちはわかる。サイカ自身、国の民を心配する気持ちは変わらないのだ。


 しかし、合理的ではない精神論に同調することは出来ない。


 アルミスに恨まれてでも、ここは彼女に引いてもらうしか道はないと。


 そう決断したはずだった。


 しかしサイカの気持ちは揺れ。


「……わかったよ、姫様に真実は告げよう。同行を認めはしないがな」


 出てきたのは裏腹な言葉。


 心を鬼にすることは出来す、せめて事情だけでも知る権利はあってもいいと、ポロの説得に渋々応じたのだ。


「だってさ、どうする?」


 すると、ポロは扉に向かって尋ね、分身体の体は黒い液状となって消える。


 そして直後、扉の外から本体のポロとアルミスが入ってきた。


「な、あ……姫様?」


 突然現れたアルミスに、気まずい表情を見せるサイカ。


「聞いておられましたか?」

「ええ、全部」


 サイカは一息吐いて、そして彼女から非難を受ける覚悟を決めた。


「申し上げた通りです。私は姫様の安全を第一に考え――」

「サイカ」


 だがアルミスは言いかけるサイカに待ったをかけ。


「ありがとう、心配してくれて」


 笑みを浮かべて彼女に感謝を述べた。


「感謝など…………それに姫様、そのお顔は、引く気がないように思えます」


「ええ、もちろん」


 そして、アルミスは告げる。


「今回は『黒龍の巣穴』攻略の時とは違う。敵前へ出ることはしないわ。だから私を、お父様とお母様の元まで護衛して。私は国の未来を、この目で見届けたいの」


 少し大人びた表情で、足手まといになるであろう自分を示唆して、妥協案のわがままを彼女に問う。


 サイカは額に手を当てながら溜息を吐き。

 そして仕方なしに決意を固め、くるりと視線を変える。


「……タロス、ポロ、進路の変更は取り止めだ。このままセシルグニムへ向かってくれ」


『ああ、了解した』

「任せて、僕達が必ず守るよ」


 そう告げて部屋を出るサイカに、アルミスは小さく「ありがとう」と言った。


 真面目で厳しく、そして優しい彼女に感謝して。



『ポロ、うちには非戦闘員も多い。リミナも今回は無関係だ。真っ向からの戦闘は避け、戦う者だけを戦場に送るように、目立たぬ場所へ停泊させるぞ』


「うん、それでいいよ。多分リミナは黙ってても戦うと思うけど」


 そして新たな依頼を受けたポロとタロスは、来たる戦闘に向け準備を始めた。





ご覧頂き有難うございます。

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