表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
空駆ける黒妖犬は死者を弔う  作者: 若取キエフ
第四章 空中都市、セシルグニム防衛編
152/307

151話 悪い知らせ


 テティシア領での一件を終えて、セシルグニムへ進路を向けるポロ達。


 帰路を飛行している最中に、サイカは自国から支給された、緊急連絡用『テレパスストーン』の反応を感知する。


「ん、国からだ。……帰りが遅れるとの文は送ったのだが、届いていなかったか?」


 突然の連絡にサイカは不思議に思い。


『国からの連絡ならば、奥の空き部屋を使うといい』


 機密事項かもしれないとタロスは気を遣い、彼女を部屋へ誘導する。


「すまん、少し借りるぞ」


 そして『テレパスストーン』のスイッチを押すと。


『サイカ、俺だ』


 出たのはレオテルスだった。


「レオテルスか。要件は分かっている。私達の帰還が遅いという話だろう? すまないが向こうで色々あってな、少し帰りが遅れそうなのだ」


 と、早急に理由を伝えると。


『そうか、なら好都合だ』


 予想外の返答にサイカは首を傾げた。


「……? 好都合?」


 すると、レオテルスは少しの沈黙の後。


『……セシルグニムが襲撃を受けた』


 さらに予想だにしない言葉が返ってきた。


「おい、どういうことだ、レオテルス!」


『言った通りだよ。今セシルグニムは無国籍の一団に侵攻を受けている。魔導飛行船に乗っているのなら、今すぐ引き返すか、別の国に向かい匿ってもらえ』


 突然告げられた母国の危機。

 当然サイカは聞き捨てならぬ案件であり。


「馬鹿言え! そのような状況で引き返せるか。私も今すぐ援護に向かうぞ!」


『君こそ、馬鹿を言うな。今船には姫様も乗っているんだろう? 君は姫様の護衛の任がある』


「だがっ! わざわざ緊急連絡を寄越すくらいだ、戦況は芳しくないのだろう?」


『君達が相対したという、例の転生者を見かけた。おそらく少人数でも勝てると自負しているのだろう。国全体を覆う結界や、統治者アーク級の魔物を複数召喚出来る術者もいるあたり、まんざらでもなさそうだ』


「ならば尚更だ! 転生者と名乗る者は皆異常な強さを持っている。お前だけでは勝てないぞ」


 レオテルスに食い下がるサイカだが。


『俺は負けない。誰にもな』


 その言葉に、今までにない力強さを感じた。


 いつも一線を引いて、含みを帯びて、本気を見せないように振る舞う彼が。


 この時初めて、サイカはレオテルスの素の声を聞いた気がした。


「レオテルス……」


『それに、姫様が知ったら必ずこの戦場へ行くと言い出すだろう。それを止めるのがサイカの仕事だ』


 国の為なら見境なく暴走しがちになるアルミスを、二人は知っている。

 だからこそ、彼女に知られるわけにはいかないと、サイカも仕方なく折れた。


『こっちは俺が何とかする。くれぐれもこの事を姫様に告げるなよ?』


「分かっている。……その、他国からの援軍は呼べないのか?」


『相手はたったの魔導飛行船一隻、百人にも満たない数だ。傍から見ればこちらが圧倒的有利な状況で他国に援軍を求めてみろ。逆にその数も凌げぬ弱小国だと公表するようなものだ。他国に舐められれば戦争に発展することもある』


「だが相手が違う。普通の軍隊ではないのだぞ?」


『多くの者は転生者についての事情は知らない。負ける理由にはならないよ。どのみち今セシルグニムは強力な結界に閉じ込められている。援軍が来たとしても中に入る事は出来ないさ』


「…………それは」


『心配するな、俺が必ず守る。だからサイカ、そっちはさり気なく進路を変えてもらうよう飛行士に伝えるんだ。姫様を頼んだぞ』


 彼は負けないと言った。

 サイカはその言葉を信じて、彼の判断に委ねた。


「ああ……お前も、武運を祈る」


 そして、伝声は切れた。

 サイカは部屋のテーブルを叩き、奥歯を噛み締める。


「くそ、国の危機に、駆け付けることも出来ないのか……」


 やるせない思いを募らせ。

 深呼吸をして平静を装い、彼女は部屋から出た。












「あっ、戻ってきた」


 中央部屋へ踏み入ると、一同はサイカに目をやり何気なく国へのやり取りを尋ねる。


「国からの連絡って聞いたけど、なんかあったの?」


「あ……いや」


 ストローでドリンクを吸いながら尋ねるリミナに、サイカはぎこちなく話を逸らす。


「その……私が送った手紙が届いていなかったようでな、帰還が遅れたことによる催促の連絡だった。もう大丈夫だ」


 冷や汗を流しながら嘘を言うサイカに。

 アルミスはホッとしたように手を叩いた。


「よかった~、国からの連絡と聞いて心配してたの。お父様とお母様の身に何かあったのかと思った」


 安心したアルミスは、水桶の中で水着のまま、ポロと水遊びを再開する。


 その様子を見て、一層汗が止まらなくなるサイカ。


 ――どうしよう……余計に真実を伝え辛くなってしまった。せめてポロには事情を話しておきたいが……。


 と、この艦の船長であるポロに視線を向けるが。

 絶賛アルミスと水遊びに興じている為、話しかけることは出来ず。


 ――バカ犬、国の一大事だというのに、呑気に姫様と遊びおって……。


 致し方なく、サイカは操縦者であるタロスの元へ行き、そっと耳打ちする。


「タロス、ちょっと話がある」

『ん? ああ』


 タロスは飛行船を自動操縦モードにして、サイカと隣の部屋へ向かった。



 ポロはそんな二人をチラリと見ながら、さり気なく聞き耳を立てていた。





ご覧頂き有難うございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ