表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
空駆ける黒妖犬は死者を弔う  作者: 若取キエフ
第四章 空中都市、セシルグニム防衛編
150/307

149話 一時撤退


 突如現れたレオテルスは、自身の間合いまで二人へにじり寄る。


「いつかはセシルグニムに戻ると思っていた。我が国の領地、『黒龍の巣穴』はお前らにとっても重要な場所らしいからな」


 レオテルスに隙はなく、二人を逃がすまいと居合の構えを見せる。


「今の僕は中立の立場なんだけどな。……仕方ない、ルピナス、話は後にして今は二人で彼を…………ルピナス?」


 と、金属を剣に変えて戦闘態勢を取るオニキスの横で。


 ルピナスは【空間の扉(ポータル)】を展開する。


「ごめんなさいね。指揮官として、ここでやられるわけにはいかないの。話の続きがしたいのなら、ここから私を逃がしてくれる? そして明日までどうにかして生き延びなさい。そしたら、もう一度あなたの妄言を聞いてあげる」


 撤退準備をするルピナスに、オニキスは頬を掻きながら「薄情だな……」と呟く。


「逃がすと思うか?」


 レオテルスは空間移動するルピナスに気の斬撃を飛ばすが。


 寸前でオニキスはアダマンタイトを盾のように変形させ、ルピナスを庇った。


「すまないね、団長殿。今ここで彼女を死なせるわけにはいかないんだ」


「民の命を奪っておいて、虫が良すぎやしないか?」


 瞬間、レオテルスはオニキスの眼前まで接近し、首を刎ねようと剣を振り。


「っっっ!」


 寸前でオニキスは、地面から金属の棘を放ちカウンターを狙うが。

 瞬時にレオテルスは察知し、そして互いに距離をとる。


 その間にルピナスは【空間の扉(ポータル)】の中へ入り、振り向いた時には二人の前から姿を消していた。



「逃がしたか……」


 面倒そうに息を吐くレオテルスは。


「せめてお前だけでも……」


 と、オニキスを睨み付け、再び居合の構えをとった。


 するとオニキスは両手を上げ、無抵抗の意を示す。


「降参だ。抵抗する気はないよ。だからここで斬り捨てるのは勘弁してもらえないか?」


 突然の降伏にレオテルスは疑念を抱くが。


「お前、何か企んでいるな」


 そう言って、しばらく硬直が続いた後、彼は剣を収めた。


「いいさ、乗ってやる。お前の持つ情報を話せ」


「話の分かる相手で助かるよ」


 そしてオニキスは自ら投降し、地下牢へ収監された。










 日が傾き始めた頃、ルピナスは魔導飛行船の上空に狼煙ビーコンを立たせると、それが合図となり、町にいた戦闘員は皆引き返していった。


 セシルグニム側も、住民や旅行客の大半は避難が完了したが、亡くなった者達の被害は少なくない。


 たった一隻のテロ集団に、よもやここまでの被害が出るとは、国の者達は誰も予想などしていなかった。


 空へ飛び去る魔導飛行船の追撃も、ハジャの防御魔法で防がれ、撤退を許してしまい。


 国を覆う結界を、彼らだけが素通り出来る現状に、兵士達は不安を覚えた。


 彼らは再び準備を整えて、この国を襲うであろうと。


 次はさらに増援して来るかもしれない。


 そんな不安に苛まれ、兵士達は休む間もなく警護に当たった。








 そして、魔導飛行船の中では。


「てめえ、さっきはよくも邪魔してくれたな!」


「新入りが出しゃばってんじゃねえぞ!」


 彼らの無差別な殺戮を軒並み邪魔したショウヤは、部屋の隅でリンチを受けていた。


「てめえが余計なことしなけりゃ、もっと侵攻が進んだんだよ! 救助に兵を回させて敵の数も減らせた。そうすりゃ全員が動き易い状況になったんだ。分かってんのか?! おい!」


「ガキが調子乗んな!」


 皆ショウヤを取り囲み、何度も殴り、蹴り飛ばす。


 一通り殴られたたショウヤは、唾を吐くように血を飛ばし、馬鹿にしたように笑った。


「……へっ、無抵抗の奴にしか強気になれねえ小物が」


「ああ?!」


「……それらしい理由掲げて自分らを正当化すんじゃねえよ、クソザコ共」


「んの野郎!」


 男はショウヤを思い切り殴り飛ばし、部屋の壁に叩き付けた。


 すると、船内の騒ぎに気づいたライラは、彼らのいる部屋をそっと覗き。


 ショウヤの腫れた顔を見るや否や、血相を変えて彼の元へ駆け付けた。


「な……やめて下さい!」


 ショウヤに覆い被さるように男達の壁になると、その内の一人が彼女の白い髪を掴み。


「近づくんじゃねえよ、死体の分際でよ!」


 言いながら、ライラを投げ飛ばそうと力を込めると。


 途端、空間から現れた一本の剣が、ライラを掴んでいた男の腕を斬り落とした。


「っっっ?! う、ぐあああああ!」


 突然腕を斬られた男は、噴き出す血にパニックを起こし地面にのたうち回る。


 男の腕を斬り落とした剣は、ショウヤが召喚した神聖武器だった。


 ショウヤは顔の血を拭いながら上体を起こし、男を睨み付け。


「おい……てめえ今なんつった?」


 鋭い殺気を放ちながら、周囲に幾つも神器を召喚し、彼を取り巻く全員にその武器を突き付ける。


「妨害した事についての制裁は受けてやる。だが、ライラを傷付けるなら話は別だ」


「ひっ……!」


 のたうち回っていた男は、ショウヤの殺気にビクリと背筋を凍らせた。


「なんなら今ここで全員殺してやってもいいんだぞ? そしたらもれなく全員、死体仲間の完成だ。これで差別は出来ねえよな?」


「くっ……この!」


 全員がショウヤに牽制する一室。



 と、その時、突然ルピナスが部屋に顔を出してきた。


「みんな、争うのはやめなさい」


 そして喧嘩を仲裁するべく、彼女は皆の間に立つ。


「けど、こいつが邪魔しなきゃ……」


「この子を止められなかったあなた達の実力不足よ。認めなさい」


 その一言で、男達は皆沈黙した。

 そしてルピナスはショウヤに目を向け。


「それからショウヤ、……一つ勘違いしているようだから教えてあげる」


「あ? 勘違い?」


 すると、ルピナスは魔力を放出し。


「ライラちゃん、ショウヤの顔を思い切り殴って」


「えっ……?」


 急に言われたルピナスの言葉に困惑するライラ。


 しかし、彼女の体は自分の意に反して勝手に動き。


 ショウヤの目の前に立つと、彼を力の限り拳で殴っていた。


「っっ! え、いや、私、なんで?」


 そして困惑する二人に、ルピナスは種明かしをする。


「言ったでしょ? 【死霊術ネクロマンシー】は蘇生じゃなく、魂を操る魔法だって。そして操る権限は術者の私にある」


「は! ……お前」


 彼女は脅している。


 ライラを蘇らせたのは、最初から人質にするつもりだったのだと。


 そう気づいた時にはすでに遅かった。


「私がその気になれば、いつでも彼女の体と魂を分離させられるのよ。二度とライラちゃんに会えなくなってもいいの?」


「ルピナス! てめえ……」


「私だって本当はこんな真似したくないの。分かったなら、もう邪魔はしないで。明日からはあなたもちゃんと働いてもらうわよ? 探索が遅れた分、巻き返しをしたいの」


 そう言い残しルピナスは部屋を出ていき、男達も舌打ち交じりにゾロゾロと去っていった。


「……ショウヤ様、すみません、私…………」


 涙も出ない体で、身を震わせながら深々と謝罪をするライラに。


「……お前は悪くねえだろ。待ってろ、必ずお前を自由にしてやるから。絶対俺がなんとかするから」


 自分に言い聞かせるように、ショウヤは彼女の頭を撫でる。


 味方のいない戦場で、誰の手も借りず、己の目的を果たしてみせると心に決めて。




ご覧頂き有難うございます。


明日、明後日は休載致します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ