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空駆ける黒妖犬は死者を弔う  作者: 若取キエフ
第一章 世界の支柱、『黒龍の巣穴』攻略編
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14話 不意を突かれる氷姫の魔剣士


 それから数時間、順調に進んだ彼らは、間もなく『黒龍の巣穴』へ到着しようとしていた。

 メティアはポロを呼ぼうと船長室へ入ると。


「ポロ、そろそろ着くみたいだから準備しな…………って」


 女性船員に膝枕をしてもらいながら、気持ち良さそうに寝息を立てる船長の姿。


「これから危険地帯に向かおうって時に、何のん気に寝てんのよ……」

「あはは……暇だからって船長に膝枕を要求されまして」


 女性船員は苦笑いをしながらポロの頭を撫でる。


「これでよく船長やってられるわねホント……」

「いいじゃないですか、可愛いし」


 と、二人が話していると、ムニャムニャと寝言を言い始めるポロ。


「んん~メティア~」


 自分の名前を呼ばれたことに、メティアは若干頬を赤く染める。


「おっぱい、かたい……」

「あっ?!」


 だが、次の瞬間彼女の表情は怒気に変わり。



「さっさと起きろぉおおおお!!」



 魔物の咆哮にも似た彼女の怒号は、飛行船全域を震撼させた。










 程なくして、ようやく辿り着いた『黒龍の巣穴』。


 鋭く尖った山脈の頂上に巨大な空洞が真下へ深く続いており、そこから光の柱が天へ向かって真っすぐ発光している。


 その空洞を通れば一直線に最深部まで行けるだろうが、深層までの距離が分からないうえに、黒龍が巣から飛び立つ場所である為、山頂から向かうのはあまりにも危険である。

 リスクを考えて、攻略班は山の下層にある洞穴から最深部を目指すこととなる。




 そして現在、洞穴近くにある平原で、彼らはダンジョンへ潜る準備をしていた。


「ここら辺なら魔物も少ないし、滞在するには丁度いいわね」


 メティアは遠眼鏡で周りを見渡しながらサイカに安全を伝える。


「ふむ、入り口からも左程遠くはないな。感謝する」


 サイカは出発前のコーヒーを啜りながら、最後の小休止をとっていた。

 そして近くにいるアルミスに向けて念を押す。


「姫様、分かっているとお思いでしょうが、私共が戻るまで絶対に船の中から出ませんようにお願い致します」


 アルミスは体育座りをしながら面白くなさそうな表情を浮かべる。


「ねえ、やっぱりダメ? せっかくここまで来たのに、直前でお預けを食らうなんてあんまりです」

「絶対ダメ!」


 強調して返すサイカ。


 と、そこへオーグレイが寄ってきた。


「副団長、少しよろしいでしょうか?」

「なんだ? オーグレイ」

「本作戦に向けて、少々ご内密な話があるので、ここではなんですので向こうのほうでも?」


 と言いながら、オーグレイは茂みのほうを指差す。


「ここでは言えぬというのか? 何を企んでいる?」

「企んでいるなど人聞きの悪い……、私はただ探索を有利に進める為に考えた作戦があるのです」


 あまりにも胡散臭い、そう思うには十分だった。

 しかし、警戒を解かなければ実力でオーグレイに負けることはない。そう思い、サイカはオーグレイの話に乗った。


「ったく、間もなくダンジョンに潜るのだ。早々に済ませろ」


 そう言って、サイカは彼が指定した場所へ歩を進める。

 その様子を見て、アルミスは違和感を覚えた。


 去り際に見たオーグレイの表情が、歪んだような笑みを浮かべていたから。






「それで、内密な話とは?」


 改めてオーグレイに問うと、彼は先程までサイカに向けていた畏まった態度とは違い、獲物を捕らえたような不敵な笑みを浮かべていた。


「それは、あなたがここで不慮の事故に遭い、戦線離脱する……というシナリオを思いたのですが、いかがでしょう?」


 サイカは溜息を吐いた。


「まあ想像通りだな。貴様がまともに作戦を遂行するなど、微塵も考えていなかった」


 そしてサイカは腰に下げていた剣を握る。


「言い残すことはあるか? 貴様は作戦中に魔物に襲われ亡くなった。そう陛下には伝えておこう」


 居合の構えでオーグレイを捉える。

 だがその時。


「っっ…………?」


 突如、サイカは全身に痺れを覚え、不気味に笑うオーグレイを見つめた。


「ようやく効いてきたか、麻痺耐性の強い体だな」


 そして周囲を見渡す。すると、そこには一見目で捉えることの出来ない微粒子の粉が舞っていることに気づいた。


「き……さま、なに……を……?」


麻痺毒粉塵(パラライズダスト)、あらかじめ解毒剤を打ってなけりゃ、数分で全身に痺れを起こさせる毒さ」


 やがて立てなくなったサイカはその場に膝をついた。


「お前は毒に対しての訓練を受けていただろうから念を入れて、さっき飲んでいたコーヒーカップにも塗り込んでおいたんだよ」


 そう言うと、オーグレイはポニーテールでまとめたサイカの髪を掴み、無理やり上体を起こさせる。


「安心しろ、お前の体なら致死量にはならないからよ。それに今殺っちまったら他の奴らに怪しまれるからな」


「……おーぐれ……い」


「だが、俺達がダンジョンにいる間は大人しくしてもらいたいからな、ちょっとばかし痛い思いはしてもらう……ぜっ!」


 そして、オーグレイはもう片方の手で、サイカの腹部を思いきり殴打した。


「がはっっっ!」


 無防備な状態でめり込む拳。腹部に強烈な痛みが走る。


「お前、俺を舐めてただろ? 階級が上がったくらいで調子に乗るなよガキがっ!」


 殴打、殴打、殴打。


「うぐぁっ! ごはっ! ぐぁっ!」


「周囲に認められたと思って増長したんだよな? 先王から処罰を受けた俺を蔑んだ目で見ていたんだろ? 目上に対する配慮がなってねえぞ小娘がよっ!」


 殴打、殴打、殴打。


 幾度となく殴りつけられるも、意識が飛ばないようサイカは歯を食いしばる。


「ぐ、くっ……」

「まだそんな目が出来るのか。どんだけ忍耐タフなんだこの女」


 呆れたように呟くオーグレイは、吐血するサイカをその場に放り投げ、魔力のこもった黒い手袋をはめた。


「これは雷のマナが付与された魔道具でな、握ったものに電撃を流し込むグローブだ。まあ、殺傷能力は低いが相手の意識を飛ばす武器としては優秀だぜ? こんなふうにな」


 そう言って、オーグレイはサイカの首を握り締めると、全身に電流が流し込まれる。


「は……あっ…………!」


 声も出せず、ほとばしる電流に意識が遠のき、とうとうサイカはその場で気絶した。


「ようやく寝たか」


 そしてオーグレイは倒れたサイカを担ぎ、皆の元まで駆けて行った。


「これで邪魔な奴はいなくなった。お前は俺を庇って魔物に襲われた……。そういう騎士の鑑のようなシナリオにしてやろう。有り難く思えよ、副団長殿」


 自分の望んだ状況になったことで、気分を良くするオーグレイ。



 ダンジョンへ挑む攻略部隊は、早くも瓦解し始める。





ご覧頂き有難うございます。


明日、明後日はお休みさせていただきます。

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