148話 告げられる真実
セシルグニムの大地を支える『浮遊石』の管理場所を探して、ルピナスは城の周辺を探索していた。
その傍ら、彼女は上空を見上げながら戦況を窺い。
「……ウソでしょ、統治者級が三体よ? 場合によってはあのドラゴン達だけで城を壊滅させられると思ったのに……」
予想に反してレオテルスの影響力は強大であり、召喚した三体のドラゴンは、駆け付けた彼の手によって早々に討ち取られた。
「せめてもう少し戦力を削ぎたかったのだけれど……今日はもう撤退したほうがいいかしら?」
などと呟いていると。
背後から、一人の人物が近づき彼女に呼びかける。
「ここにいたか、ルピナス」
彼女が振り返ると、そこには服が血で汚れたオニキスの姿があった。
「……オニキス? あなた、どうしてここにいるの?」
本作戦において、今回オニキスは要請に応じなかった。
その彼が何故ここにいるのか、ルピナスは疑問に思う。
「一つ、君に伝えないといけない事があってね」
「……何?」
ルピナスが問うと。
「君達がやろうとしていることは、君の理想と合致しないってことさ」
含みのある言い方で、オニキスは返した。
「どういう意味かしら?」
自身の行動原理に否定的な返しをする発言に、ルピナスは不機嫌な様子で問う。
「つい先日、『世界の支柱』の一つ、『冥界の谷底』へ行ったんだ」
オニキスの言う『冥界の谷底』とは、死者の国と繋がっていると噂される、魑魅魍魎はびこるアンデッドの巣窟である。
「あそこはハジャ様が管理してる場所でしょ? 勝手に入ったの?」
「いや、ちゃんとハジャ様に許可は取ったよ。過去の偉人と話がしたいと言ったら快く了承してくれた」
「……情報共有がされていないのだけど?」
さらに不機嫌気味にルピナスは返す。
「僕が黙っていてほしいと頼んだんだ。一人で『冥界の谷底』へ入ったことで、オールドワンに下手に勘繰られるのを避けたかったから」
「へえ~、私らのリーダーにも言えない事なの? というか、あんな死霊だらけの場所によく一人で入ったわね。あなたって心霊スポットにも一人で行けるタイプだったの?」
冗談交じりでルピナスは問うと、オニキスも彼女に話を合わせ。
「いや、生前の僕はお化け屋敷にも入れないくらいホラーは苦手だったよ。ただ、どうしても知りたいことがあってね。恐怖よりも知的好奇心が勝ったんだ」
彼はさり気なく話を本題に戻す。
「ルピナス、簡潔に言うよ。『エドゥルアンキ』で別世界の道を開こうとも、僕達はあの頃育った日本には、もう帰れないんだ」
「っっっ!」
気まずそうに告げるオニキスに、ルピナスは困惑した。
「……何を言っているの? あれは世界を繋ぐ装置でしょ?」
動揺するルピナスに、オニキスは続けて伝える。
「『冥界の谷底』でね、この世界の一人目の転生者、カザミ・タクマさんに話を伺ったんだ」
「死者の声を聞いたの? 顔も性格も知らない人の声を」
「うん、百年以上も前の先輩だからすでに成仏したと思っていたけど、まだ残留思念が残っていてね。色々教わったよ」
ルピナスは呆れたように息を吐き。
「それで? 曖昧な精神体の、不確定な話を鵜呑みにしたの?」
オニキスの話は核心的ではないと知り、彼女は心なしか安堵していた。
正直彼を認めたくなかったという気持ちが強い。
認めてしまえば、自分の今までやってきた事が、すべて無意味となるからだ。
「ルピナス、考えたことはなかったか? 僕達が死んだ後、その死体となった器はどうなる? 長い間、ホルマリン漬けにでもして丁寧に保存されていると思うか?」
「…………」
「そうはならない。日本では弔いの意を込めて、綺麗に火葬されるはずだ。つまりはその時点で、僕達という存在は世界からなくなったんだ」
「……だから、なんなの? あの世界と繋がればなんの問題もないじゃない」
「矛盾が生じるんだよ。滅んだはずの肉体で知人に会った時、皆はどう思う?」
「どうって?」
「何年も前に亡くなった人間が突然蘇ったら、普通はおかしいと感じる。現実では考えられない超常現象に、世間だって騒ぎ立てることだろう。……何より、そんな矛盾を世界が黙って傍観するはずがない」
オニキスの説得に、次第にルピナスの心が揺れる。
「だから……そこまで言って、あなたは私をどうしたいのよ?」
するとオニキスは、一枚の地図を彼女に渡した。
「『世界の支柱』の一つ、『時空の暴流』へ僕と一緒に来てほしい」
彼の言う『時空の暴流』とは、常時その一帯に空間の歪みが生じている場所であり、不安定な【空間の扉】が不規則に開いては閉じ、それを繰り返す、世界で最も危険な区域とされている孤島だった。
「あんな危険な場所で、一体何をすると言うの?」
「それはーー」
と、オニキスが言いかけた時。
突如、上空から無数の斬撃の波動が雨のように降り注いできた。
「っっ!」
二人は同時にそれを回避すると、遅れて一騎の竜騎兵が接近する。
それは三体のドラゴンを沈めて尚、余力を残したレオテルスの姿だった。
「……うそ、あの距離から私達を捉えたの?」
「まずいな」
二人は戦慄しながら、真っ直ぐ向かってくるレオテルスから距離を取るが。
彼の乗っていた飛竜は二人の方向へ先回りし、レオテルスは二人の前に飛び降りた。
「見つけたぞ。手配書の転生者」
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