147話 感謝される事への憤り
城へ続く中央街道にて。
戦闘員の男は両手に拳銃を構え、無差別に町民に弾丸を撃ち込んだ。
「きゃあああ!」
「ぐあああ!」
堂々と街道の真ん中を歩き、次々と道行く人へ発砲する男。
「あ~だりぃ、骨のある騎士もいねえし……これじゃあ害虫駆除と変わんねえよな……」
などと呟きながら。
「おっ、でけぇ的みっけ」
丁度人ごみになっている場所に向けて、再び弾丸を連射する。
と、その時。
「弾き返せ、『アイアスの盾』」
突如上空から円盤型の盾が落下し、町民を狙った男の弾は全てその盾に弾かれた。
直後、ショウヤも上空から舞い降り、町民を庇うように男の前に立ち塞がる。
「……おい新入り、こりゃあなんの真似だ?」
ショウヤは【聖戦武器召喚】を唱えており、彼の周囲には幾つもの神器が浮遊していた。
そしてショウヤはその中の一つを指名し。
「『魔弓アルテミス』、あいつの武器を射貫け」
銀色に輝く弓矢は独りでに弦を引き、男の持つ二丁の拳銃を寸分のズレもなく射貫いた。
「なっ……てめえ!」
男は激高し、懐から新たな拳銃を取り出すが。
銀の弓はそれをも貫き破壊する。
「っっ! おい、なんで邪魔すんだよ! ガキが余計なことしてんじゃねえぞ!」
「うるせえ、ザコが吠えてんじゃねえよ」
「ああん?!」
さらに激怒した男は手の平を向け魔法を唱えようとした時。
「【高速移動】」
ショウヤはそれよりも早く身体強化魔法を唱え。
自身を高速化するスキルによって、瞬時に男の懐まで潜り込む。
「はっ……?」
そして神器の剣を手に持ち。
柄の部分を向け、男の腹部へ強打した。
「かはっ!」
直撃を喰らった男は、嗚咽と共に意識が飛び、白目を向きながらその場に倒れた。
その様子を見た町民達は、ショウヤを味方だと思い。
「ありがとうございます! ありがとうございます!」
「あなたは命の恩人です」
涙ながらに彼へ感謝の意を示すのだった。
そんな言葉を敵国の者から言われたショウヤは。
抑えようのない怒りがこみ上げ、同時に、居た堪れない気持ちになった。
「うるせえ! 俺はお前らの敵だ。いいからさっさと行けよ、行かねえなら、俺がお前らを殺すぞ!」
敵国の者に感謝されたことが悔しかった。
彼らは報復すべき相手国の民であり、本当に守りたかったのはこの者達ではなかった。
村の人達を、同じように守りたかった。
これでは、村の者に顔向けが出来ない……。
嫉妬と憎悪と自己嫌悪が入り混じり。
だからこそ、ショウヤは彼らに感謝などされたくなくて。
怒鳴りを上げて、脅しをかけて、彼らを追い払った。
彼らに感謝される筋合いも、自分が感謝される資格も、何も無いのだからと、そう思い。
一方、セシルグニム上空では。
三体のドラゴンが縦横無尽に飛び回り、口から放つブレスで建物を破壊してゆく。
その巨体に立ち向かうは、セシルグニム騎士団の竜騎兵達。
さらには城からの魔導砲による砲撃で後方支援も担う。
国の最大戦力でドラゴン討伐に挑むが、相手は魔物階級が最も上に位置する統治者級。
いくら精鋭部隊と言えども、そう簡単には落とせない強敵である。
しかし、地上では戦闘員達が町民を襲撃している為、これ以上空に戦力は割けない。
「くそ……一体でも厄介なのに、三体を同時に相手取るには数が足りなすぎる」
圧倒的に戦力不足だと騎士の一人は嘆くが。
彼の横を猛スピードで飛び去る姿が見え。
それは一体のドラゴンへ真正面から突進してゆく。
「あ……団長?」
飛竜に乗ったレオテルスは、ドラゴンがブレスを吐く瞬間に急上昇し。
ドラゴンの頭上まで浮上すると、彼は飛竜から飛び降り垂直落下する。
「【一点突飛】」
そしてドラゴンの背に向けて、気を纏わせた剣で強力な刺突を放った。
その威力はサイカの比ではなく、ドラゴンの硬い鱗を易々貫き、その反動のままドラゴンはレオテルスと共に地に落下してゆく。
「グルルアアアアア!」
地面でのたうち回る雷光竜の背に立ったレオテルスは。
「電撃が厄介でな。お前を先に沈めることにした」
体内の気を込めて、思い切り剣を振り下ろした。
「【滅竜斬刃】」
硬い外皮を物ともせず、レオテルスの放った斬撃は、目の前の巨体を両断。
五十騎の竜騎兵にも引けを取らなかった一体の竜。
しかし彼の前ではその力は及ばず。
「あと二体……」
そしてレオテルスの乗っていた飛竜が彼の元へ戻ると、彼は再び空の戦場へ飛び立っていった。
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