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空駆ける黒妖犬は死者を弔う  作者: 若取キエフ
第四章 空中都市、セシルグニム防衛編
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145話 暗黒召喚


 突如魔導飛行船から現れた襲撃者達は、瞬く間に空の国の平穏を脅かした。


「はっはっ~! 高みに浮かれた俗物共、死にたくなかったら金目の物を置いてきな!」


 逃げ惑う人々を見ながら愉悦に浸り、少しでも抵抗しようものならば、容赦なく町の者をその手にかける。


 そんな理不尽な鬼ごっこが開始される光景を、ショウヤは不快な表情で見つめた。


「……なんだよ、これ」


 飛行船の搭乗口から映る、無慈悲な殺戮。

 無法地帯にはびこる、ゴロツキと変わらぬ所業。


 ――たしかに俺はこの国に報復を誓った。奴らを村のみんなと同じ目に遭わせてやると……。だけど、これじゃあまるで……。


 村を滅ぼした兵団と変わらない。


 どころか、国が介入していない分、自分達がやっていることは単なる私利私欲と大差なく、目の前に映る戦闘員達は、この国の兵士より悪質な輩に見えた。


 ふと、搭乗口の階段に腰を下ろすハジャはショウヤに問う。


「気が変わったか?」


 彼の心境を察しながら、唐突に出る言葉。


「君はセシルグニムを包囲する結界を作り、十分私達に貢献してくれた。これ以上の無理強いはしないさ」


「……俺は、この国の奴らに、復讐を……」


「君が望むならそうするといい。後悔しないのであればな」


 耳に入るハジャの言葉は、執拗にショウヤの心を揺さぶった。


 と、飛行船の入り口で決断を決めあぐねるショウヤの前を、ルピナスが横切る。


「彼らは陽動が目的なの。町中をかく乱させて、手薄になったところで、魔鉱石が眠っている地下道へ私が侵入する」


 落ち着いた様子で歩みを進め、離れてゆく間際にショウヤに告げた。


「あなたは自由に動いていいわ。村を襲った兵士や、それを命じた国王を討つなら城に向かいなさい。ただしこの国の騎士団長、レオテルス・マグナだけは相手にしないこと」


「騎士団長?」


「そう。彼はセシルグニム最強の騎士。同時に世界でも指折りの剣豪よ。いくら身体能力を底上げされた転生者と言えども、正面から戦ったんじゃまるで勝ち目がないわ」


「そんなに強いのか?」


「一度鑑定スキルでステータスを覗いたことがあるの。魔法スキルを一切習得していない代わりに、気を練る能力が飛び抜けて高いわ。私とあなたが二人がかりでも歯が立たないくらいにはね」


 ルピナスは忠告を済ませると。


「だから無理せず、相手の力量を図りながら戦いなさい。いいわね?」


 彼女もまた、戦闘員達と同じ方向へ去っていった。



「彼女が言った通り、君は自由に行動するといい。船に残るなら私が守る。死地へ向かうのも止はしない」


 ハジャの言葉に、ショウヤは一つ尋ねた。


「……仲間を妨害するのは?」


 すると、ハジャは一度ショウヤに視線を向け、そして微笑を浮かべる。


「それも一つの選択だ。好きにしなさい」


 そう返すと、ショウヤは何も言わず町の中へ駆けていった。



 ハジャは彼を見送りながら、ふと。


「……かくも人は面白い。強大な力を得ようとも傲慢に浸る事無く、復讐心に囚われようとも己の秩序を貫ける、彼のような希少個体もいるのだから」


 人の成長に関心を抱きながら。


「オールドワンよ、ただイズリス様の意志に従うだけの我々は、いずれ世界から淘汰される運命なのかもしれんぞ」


 誰に聞かせるでもなく、独り言ちながら遠くの空を仰いだ。

 そんな時。


「動くな! 貴様ら、なんの目的で我が国を襲う?」


 駆け付けた兵士らによって、たちまち魔導飛行船は全方位を囲まれた。


 数にして二十。皆戦闘慣れした武装兵である。

 その数を前にして尚、ハジャは腰を下ろしたまま動かず。


「……私に挑むかね? 若き戦士達よ」


 手の平を地に向け、召喚魔法を唱えた。



「【暗黒召喚ダークオーダー黒妖犬(ヘルハウンド)】」



 すると突然、地面から無数の黒い影が現れ、それは唸り声をあげる獰猛な犬に変形してゆく。


「なっ……召喚魔法か?」


 兵士と同じ数の黒き妖犬が生み出されると、ハジャはペンダントを握り祈りを捧げた。


「罪無き魂に救済を……」


 そう呟くと、妖犬達は一斉に咆哮を放ち。


 それを聞いた周囲の兵士達は、バタバタとその場に倒れてゆく。


 同時に兵士の体から球体の光が浮き上がり。


 妖犬達は息を吸い込むように、その球体を喉奥へ飲み込んだ。


「どうか次に転生する時は、彼らに安らかなる死が与えられんことを……」


 急死した彼らを眺め、ハジャは静かに祈りを捧げる。


 争いの止まぬこの世界で、彼は幾年月も殺めた命に敬意を込めて。


 慰め程度にしかならぬと知りつつも、せめてもの罪滅ぼしと自身に言い聞かせ。


 彼は死者を弔うのだった。





ご覧頂き有難うございます。

ブックマークと評価を下さり大変感謝致します。

これからもご拝読頂けると嬉しいです。

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