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空駆ける黒妖犬は死者を弔う  作者: 若取キエフ
幕間【3】 新人転生者の侵略
143/307

142話 必ず仇を討つと決めて


 ルピナスと別れた後、ショウヤは未だハジャの言った言葉が気にかかっていた。



『今の君には恐れがあり、迷いもある。いずれこの船に乗ったことを後悔する羽目になるぞ』



 そんなことを思い出し、モヤモヤしながら自室の扉を開けると。

 部屋の奥から優しい笑みを浮かべたライラが出迎えてきて。


「お帰りなさいませ、ショウヤ様」


 変わらぬ笑顔を向ける彼女に、ショウヤはハジャの言葉を一旦忘れ、自分も作り笑いで彼女に返した。


「ああ。……ライラ、具合はどうだ?」


 彼女の体を見やり、心配そうに尋ねるショウヤ。


 一度死んだ身であるライラは、ルピナスの力で再び魂と体を結合された。


 それは本来の【蘇生術リザレクション】とは異なり、一度離れた魂を、器に無理やり括り付ける【死霊術ネクロマンシー】である。


 その為彼女の体と魂は一体化せず、血液は全て抜け落ち、肌も髪も白々と脱色していた。


 彼女自身は食事も睡眠も必要としない、いくら動いても疲れない体になって楽だと笑っていたが、彼女はきっとやせ我慢で言っているのだろうと、ショウヤは内心居た堪れない気持ちが沸き上がる。


「ライラ、ごめんな……」


 ふと、ショウヤはおもむろにライラを抱きしめた。


「ショウヤ様?」


「俺が村を離れたばっかりに……お前を、村のみんなを守れなかった」


「それはショウヤ様の所為では……」


「そればかりか、お前を中途半端な蘇生で蘇らせてしまった。嫌だろう? お前、自分の体を鏡で見る度に辛そうな顔してるもんな……。ごめん、本当にごめん」


 彼女を抱く手が強まり、同時に自責の念が膨らんでゆく。


 そんなショウヤを見ながら、ライラはそっと彼の背に手を回した。


「違いますよ、ショウヤ様。どのような形であろうと、再びショウヤ様と共にいられるのですから、今の体に不満はございません」


「嘘言わなくていいんだって」


「嘘ではありません。私がそのような顔を見せてしまったのは、村のみんなを差し置いて、私だけ残った事への罪深さ故だと思います」


「罪って……」


「この間子供が生まれたばかりのアンナさん、いつも育てた野菜をお裾分けしてくれるゴコンさん、村興しの実行者を務めてくれるハイドナーさん、それに、いつか村の未来を託すはずだった子供達……」


 ライラは切なそうに言った。


「みんなそれぞれの人生があったのに、あの日全てが無くなって……。それなのに、私だけがのうのうと生きていていいのかって……そんなことばかり思うのです」


 それはショウヤ自身も思ったこと。


 自分だけが取り残され、自分の都合でライラだけを特別に蘇らせたことへの自己嫌悪。


 村の皆は、自分を恨むだろうか、と。


 だが、たとえ皆に恨まれようとも、振り返りはしないと決めた。


 代わりに皆の仇を、必ずこの手で討つと誓い。


「生き続けることに後悔しないでくれ。そこに罪があるとするなら、背負うべき責任は俺にある」


「そんな……私そういうつもりで言ったわけでは!」


「いいんだ。俺は生かすべき相手を個人の都合で選択した。村のみんなに恨まれても、お前と一緒にいたかった。エゴは承知の上だ」


「ショウヤ様……」


「だからその分、みんなの命を奪ったセシルグニムの奴らに報復するさ。村すべての命に釣り合うくらいには、あいつらを同じ目に遭わせてやる」


 と、意気込むショウヤだが。


 ライラはそんな彼を見て悲しそうな目を向ける。


 彼の口から、そのような言葉を聞きたくはなかった。


 優しい目をした彼の姿はそこには無く。


 あるのは復讐心に染まった鬼の顔。


 ライラが最も辛いのは、そんな彼を見ることだった。


「ショウヤ様、私は……」


「安心しろ、俺が必ずみんなの仇を討つから。それが終わったら、村に帰って全員分の墓を作ってあげよう。生き残った俺達で、みんなを弔ってあげるんだ」


 ショウヤは空元気ながらも、彼女に精一杯笑って見せ。


「……はい」


 そんな彼に、ライラは本音を言えなかった。


 言えば余計に彼の負担になるだろうからと。

 この気持ちを押し殺して。





ご覧頂き有難うございます。


次回で幕間は終わり、第四章が始まります。

すき間時間にでも見て頂けると嬉しいです。

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