142話 必ず仇を討つと決めて
ルピナスと別れた後、ショウヤは未だハジャの言った言葉が気にかかっていた。
『今の君には恐れがあり、迷いもある。いずれこの船に乗ったことを後悔する羽目になるぞ』
そんなことを思い出し、モヤモヤしながら自室の扉を開けると。
部屋の奥から優しい笑みを浮かべたライラが出迎えてきて。
「お帰りなさいませ、ショウヤ様」
変わらぬ笑顔を向ける彼女に、ショウヤはハジャの言葉を一旦忘れ、自分も作り笑いで彼女に返した。
「ああ。……ライラ、具合はどうだ?」
彼女の体を見やり、心配そうに尋ねるショウヤ。
一度死んだ身であるライラは、ルピナスの力で再び魂と体を結合された。
それは本来の【蘇生術】とは異なり、一度離れた魂を、器に無理やり括り付ける【死霊術】である。
その為彼女の体と魂は一体化せず、血液は全て抜け落ち、肌も髪も白々と脱色していた。
彼女自身は食事も睡眠も必要としない、いくら動いても疲れない体になって楽だと笑っていたが、彼女はきっとやせ我慢で言っているのだろうと、ショウヤは内心居た堪れない気持ちが沸き上がる。
「ライラ、ごめんな……」
ふと、ショウヤはおもむろにライラを抱きしめた。
「ショウヤ様?」
「俺が村を離れたばっかりに……お前を、村のみんなを守れなかった」
「それはショウヤ様の所為では……」
「そればかりか、お前を中途半端な蘇生で蘇らせてしまった。嫌だろう? お前、自分の体を鏡で見る度に辛そうな顔してるもんな……。ごめん、本当にごめん」
彼女を抱く手が強まり、同時に自責の念が膨らんでゆく。
そんなショウヤを見ながら、ライラはそっと彼の背に手を回した。
「違いますよ、ショウヤ様。どのような形であろうと、再びショウヤ様と共にいられるのですから、今の体に不満はございません」
「嘘言わなくていいんだって」
「嘘ではありません。私がそのような顔を見せてしまったのは、村のみんなを差し置いて、私だけ残った事への罪深さ故だと思います」
「罪って……」
「この間子供が生まれたばかりのアンナさん、いつも育てた野菜をお裾分けしてくれるゴコンさん、村興しの実行者を務めてくれるハイドナーさん、それに、いつか村の未来を託すはずだった子供達……」
ライラは切なそうに言った。
「みんなそれぞれの人生があったのに、あの日全てが無くなって……。それなのに、私だけがのうのうと生きていていいのかって……そんなことばかり思うのです」
それはショウヤ自身も思ったこと。
自分だけが取り残され、自分の都合でライラだけを特別に蘇らせたことへの自己嫌悪。
村の皆は、自分を恨むだろうか、と。
だが、たとえ皆に恨まれようとも、振り返りはしないと決めた。
代わりに皆の仇を、必ずこの手で討つと誓い。
「生き続けることに後悔しないでくれ。そこに罪があるとするなら、背負うべき責任は俺にある」
「そんな……私そういうつもりで言ったわけでは!」
「いいんだ。俺は生かすべき相手を個人の都合で選択した。村のみんなに恨まれても、お前と一緒にいたかった。エゴは承知の上だ」
「ショウヤ様……」
「だからその分、みんなの命を奪ったセシルグニムの奴らに報復するさ。村すべての命に釣り合うくらいには、あいつらを同じ目に遭わせてやる」
と、意気込むショウヤだが。
ライラはそんな彼を見て悲しそうな目を向ける。
彼の口から、そのような言葉を聞きたくはなかった。
優しい目をした彼の姿はそこには無く。
あるのは復讐心に染まった鬼の顔。
ライラが最も辛いのは、そんな彼を見ることだった。
「ショウヤ様、私は……」
「安心しろ、俺が必ずみんなの仇を討つから。それが終わったら、村に帰って全員分の墓を作ってあげよう。生き残った俺達で、みんなを弔ってあげるんだ」
ショウヤは空元気ながらも、彼女に精一杯笑って見せ。
「……はい」
そんな彼に、ライラは本音を言えなかった。
言えば余計に彼の負担になるだろうからと。
この気持ちを押し殺して。
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次回で幕間は終わり、第四章が始まります。
すき間時間にでも見て頂けると嬉しいです。




