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空駆ける黒妖犬は死者を弔う  作者: 若取キエフ
第一章 世界の支柱、『黒龍の巣穴』攻略編
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13話 お忍び王女様


 魔物を全滅させると、バルタは再び甲板へと戻った。


「ん〜まあまあ肩慣らしにはなったか」


 と、首を鳴らしながら皆の元へ。

 彼の戦いぶりを見ていた他の者達は、それぞれ憧れや戦慄などの感情を抱く。

 その中で、同じSランク冒険家であるリミナはあまり面白くないと言った表情でバルタに悪態を吐いた。


「大げさに見せつけちゃって。アタシならもっとスマートに殲滅してたわ」

「なら、お前さんに任せたほうがよかったか?」


 バルタはヘラヘラと笑いながらリミナの文句を受け流す。


「冗談、無駄な労力は使わない主義なの。それにアタシ近距離戦がメインだし」

「ははっ、いちゃもん付けるだけ付けて自分は何もしないやつだなそれ」

「違わいっ! あんたくらいの実力ならわざわざスキルを使わなくても倒せたでしょ。無駄に大技を披露する必要がないって言ってんのよ」


 などと言い合っていると、二人の間にポロが入ってきた。


「統率を取る為だよね? バルタのやり方は合理的だと思うよ」


 バルタに肯定的な態度をとるポロにリミナは首を傾げ、バルタは関心を示す。


「へえ~、話が分かるじゃねえの。さすがは船長様だ」


 一見派手なパフォーマンスとも取れる彼の戦いぶりは、リミナにとってはただ自分の力を見せびらかしているだけだと思っていた。


 だが、高い戦闘技術を目の当たりにした兵士や冒険家達は、中には頼り甲斐のある者だと安堵し、中には絶対に逆らってはいけない相手だと畏怖する。


 結果、バルタが力を誇示した事により、部隊の者達の結束は固くなった。

 サイカだけでは心許無かった統率力を、バルタも請け負う事でそのバランスを取ろうとしたのだ。




 理解者がいたことに気分を良くしたバルタは、そのまま室内へと戻って行った。

 それに釣られるようにして他の者達もぞろぞろと室内へ戻る中、ポロは一人甲板の手すりから下を見下ろし、黙祷を捧げる。


「あんた、何やってんの?」


 その様子を不思議に思ったリミナはポロに尋ねると。


巨大空蛇(スカイサーペント)の冥福を祈っているのさ」

「…………なんで?」

「食料にも生活品にも役立てられずに、無駄な殺生をしてしまったからね。せめて安らかに天へ昇れるように、ね」


 自分達を襲って来た魔物を弔うポロの姿を見て、リミナは変わった奴だと思った。

 同時に、汚れ切ったずる賢い者などより、ずっと純真な心を持った少年だとも……。







 ポロの黙祷を見届けたのち、二人も室内へと戻る。

 だが、広間ではまた別の問題が起きていた。


「な……な、な、姫様っ!?」


 ガタガタと身を震わせながら、サイカは目の前にいるハーフエルフを凝視していた。

 そこにはいるはずのないセシルグニムの王女、アルミスがいたのだから。


「何故っ! どうして姫様がここに? おいお前! 船内はちゃんと確認したのか!」


 近くにいた船員の胸倉を掴みながら、どこから忍び込んだかも分からぬアルミスの存在を追及する。


「ええっ! も、勿論です……私共は何度も内部点検をしておりましたから……」

「なら…………。姫様、どうやってここへ潜り込んだのです?」


 動転する気を抑えながら、サイカはアルミスへ尋ねた。

 言わずもがな、アルミスはオーグレイの持参した荷袋の中に忍び込んでいたのだが、直接言えばオーグレイが罰せられる為、言葉を濁す。


「ええっとぉ……それは、ですね……」


 ふと、アルミスは自分の足元で気持ちよさそうに寝ていた子猫に目をやると、そっと抱きかかえながら弁解をした。


「そう、この子! 見送りに参ろうかと思い飛行船の近くを通ったのですが、その際この子が飛行船の中へ忍び込んでしまいましたので……追いかけようと私も船内へ入ったらいつの間にか離陸していたのです……」


 すると、アルミスの近くにいた女性船員が気まずそうに返答する。


「あの、その子うちの飛行船で飼っている猫です。……名前は、シュリちゃん」


 硬直したアルミスから冷や汗が止まらない。

 さらに畳みかけるようにサイカはアルミスに問う。


「見送りになられるだけにしては、ずいぶんと旅支度万全の服装をしていらっしゃいますね?」


 今のアルミスの恰好は、城でのドレス姿ではなく冒険家のようなアウトドアな服装をしていた。


「姫様~これは冗談では済みませんよ? 城へお戻りになったらたっぷりと陛下にお叱り頂けるよう、今から安全にセシルグニムに帰還致します」


「そ、そんなぁ~、ここまで来て?」


「何か?」


 睨みを利かせるサイカの眼光に、アルミスは涙目になる。


「良いな? 船長」


 そしてポロに帰還命令を下すサイカ。

 と、その時。


「まあまあ副団長殿、ついて来てしまったものはしょうがないでしょう。このまま姫様を連れて『黒龍の巣穴』へ向かったほうが良いかと」


 知らん顔をしながら、オーグレイはサイカに意見する。


「正気か貴様! 今から向かう場所がどれだけ危険か知っての発言だろうな?」


 この部隊において、最も信用出来ない者に軽口を叩かれ、いよいよサイカのボルテージが高まる。

 彼女の殺気にゾクリと悪寒が走るオーグレイだが、平静を装いながら彼女に返した。


「……重々承知しておりますとも。しかし引き返すにしても、これまでに消費した燃料と時間が無駄になります故、飛行士の者もそれは望むところではないはず」


 オーグレイは周りの飛行士達に目を向けると。


『たしかにな。魔鉱石の燃料は馬鹿にならない。それに今更引き返すと部隊の士気も下がるのではないか?』


 代表してタロスが彼に向けて答えた。


「国の王女だぞ! 命の重さが違うのだ。船の燃料と姫様を天秤にかけるな!」


 食い下がるサイカだが、正直なところ船を引き返す案は皆乗り気ではない。


 収拾のつかなくなった場を眺めながら、ポロはサイカに告げる。


「引き返すのはたしかに僕も非効率だと思う。だから、サイカ達が魔鉱石の回収に向かっている間、僕らが飛行船と一緒にお姫様も守るよ。それでいいでしょ?」


「お前までそのようなことを……。万が一姫様の身に何かあった場合、どう責任を取るつもりだ?」


 怒りの矛先はポロへ向けられるが、ポロは平然とサイカを見つめる。


「その時は僕の首を刎ねていいよ。一応これでも死ぬ覚悟くらいはあるんだ。だから、この船にいるうちは命に代えても守ると誓う」


 表情は至って軽い。しかし、確固たる意志が彼から伝わる。


 サイカは押し黙り、そしてポロに返す。


「……何もない事を願うが、遺書の用意くらいはしておけ。無論、それは私にも言えることだがな」


 そう言って、サイカはポロの元を離れアルミスを別室へ先導した。





 落ち着いた船内で再びどよめきが起きる中、オーグレイは一人笑みを浮かべていた。


 ――これで誘導は成功した。後は…………。


 自分の思い描いたシナリオに近づく彼は、人知れず歓喜に身を震わせ復讐の一手を画策する。




ご覧頂き有難うございます。

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