表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
空駆ける黒妖犬は死者を弔う  作者: 若取キエフ
第三章 水の都 海底に渦巻く狂乱編
135/307

134話 次元渡りの巨大怪魚 天王バハムート【6】


 数分前。

 ポロとパルネが神獣と相対する中。


 城の頂上にて、アルミス達は巨大弩砲バリスタの発射準備に取り掛かった。


「アルミス、こっちでいい?」

「もう少し右……はい、大丈夫です」


 魔力を充填するアルミスが狙いを定め魔導砲を発射する係であり、リミナ達は彼女の指示に従い、巨大な歯車を上下左右に回しながら砲台の位置を動かしてゆく。


 リミナが左右に、アデルが上下にバリスタの向きを変え、神獣の中心部へ標準を合わせる中。

 クロナは愉快そうに葡萄酒の瓶に口をつけながらその姿を眺めていた。


「ちょっと! のん気に酒飲んでないで、あんたも手伝いなさいよ!」


「キャハハ、マジギレしたリミナちゃんカワイ~!」


「……殺すぞ変態女」


「そんな鋭い視線で見つめないでよ。濡れるじゃん」


 と、終始リミナを挑発するクロナは葡萄酒を飲み干すと。


「ぷは~、人手は足りてるんだから問題ないでしょ? それに……」


 クロナは周囲に目を向け、徐々に群がってくる神獣の化身を指差す。


「あんたらが準備する間、誰がこいつらの相手をするつもり?」


 そして衣類に隠し持っていた手投剣スローナイフを束で手に取ると。

 先端を指先で持ち、魔力を込めて神獣の化身へ投げ飛ばした。


「【炸裂斬エクスプロードエッジ】」


 ブーメランのように回転しながら神獣の化身の体に命中すると、スローナイフは真空波のように強烈な風圧を生みながら破裂し、たちまち半透明の体は弾け飛ぶ。


「という感じで、誰かが守ってあげないと集中出来ないでしょ?」


 勝ち誇ったように告げるクロナ。


「まあ魚類の相手は任せて、あんた達はキリキリ働きなさい」


「あんた、目の前で王子と王女を働かせといてよく言えるわね……」


 と、呆れたように吐きながら。

 神獣の化身の相手をクロナに任せ、三人は魔導砲の準備を整えた。


「標準、合わせました。けれどクロナさん、これで本当に神獣を射抜けるでしょうか?」


「知らないわよ。神獣も、この国の魔導砲も初めて見るんだもの」


 化身の相手を片手間に、欠伸をしながらアルミスに返すクロナ。


「けど、多分これが今ある最大火力なんだから、考える前に撃ってみたら?」


 クロナは軽く言うが、アルミスは未だ決心出来ずにいた。


 ――もし一撃で仕留められなかったら、この城に集中攻撃されるかも……。そうなったらみんなの命が……。


 と、不安に駆られながらも、アルミスは取っ手近くに設置されたスコープで神獣を捉えると。


「え……ポロちゃん? パルネさんも?」


 その巨体の周囲で舞うように、スコープに小さく映る二人。


「はあ? なんでポロ達がいるのよ?」


「わからない……ポロちゃん、神獣にずっと攻撃してる」


 幾度となく攻撃を繰り返し、幾度となく弾かれるポロの姿を眺め。


 ――ポロちゃんは、諦めていないんだ。あんなに巨大な怪物相手にも、一歩も怯まないで。


 ようやく、アルミスも覚悟を決めた。







 そして現在、アルミスは念話にてポロに砲撃の合図を告げ。


『撃ちます!』


 巨大な弦を引き、全魔力を注ぐ。

 その合図でパルネはポロを抱えながら距離を取り。


 直後、バリスタは極大レーザーのように光のラインを描きながら、神獣へ向けて矢が放たれた。



 その高出力の光の矢は、上級魔法を遥かに凌ぐ破壊力をほこり。

 神獣の体に直撃すると、その体に纏う魔力の壁を突き破り。


 上空を覆う巨体の胴に、城一つ分が埋まる規模の、巨大な風穴が開通した。




 一同は茫然と眺め。


「当たった……けど」


 神獣は微動だにせず、効いているのかどうかも分からない。

 しばらく時が止まったように静止する神獣……。


 すると突然。


 停止していた神獣が動き出し、テティシア全土に向けて、体中に突起した化身の卵を全弾投下した。


「っっ! そんな……」


 再び襲い来る化身の雨に、地上にいる者達は皆絶句する。


 一度放たれた千の魔物にも依然対処しきれず、島中を遊泳しては人を丸呑みにする怪魚達が、再び同じ数投下された。

 その事実に、多くの者は諦めと絶望を抱く。


「まだ…………もう一度、私が……」


 その中で、アルミスは再びバリスタに手をかけ、魔力を充填しようと試みるが。


「いけません! アルミス様の魔力はすでに尽きかけています」


 搾りカス程度しかないアルミスの魔力では到底バリスタを起動する量はなく。

 力なく魔力を注ぐアルミスを、アデルは止めた。


「残念ながら、今私達全員の魔力を注ごうとも、再び魔導砲を起動させる量は足りません……」


 どうにも出来ない無念に、アデルは自身の拳を握る。


「本当に、申し訳ない! 他国から来たあなた方をこのような事態に巻き込んでしまい……」


「諦めないで下さい! アデル様が諦めたら、この国に生きる民はどうするのですか!」


 と、アルミスはアデルに言い放つ。


「大陸を囲う、澄みきった青々しい海と、そこで暮らす海凄種族。町を案内して下さった時、私はとても美しい国だと思いました」


「……アルミス様」


「このような素敵な国を、失くしてはいけません……。だから、私は絶対に諦めない!」


 弱々しい力を振り絞り、アルミスは命を削って魔力を注ぐ。


「アルミス、もうやめて! あんたの体がもたない!」


 己の限界を越えて魔力を注ぐアルミスの体は、彼女の意志には付いて来れず。


 目から、鼻から、耳から血を滴らせ、その姿を見たリミナは彼女を無理やり引き剥がした。


「放してリミナ、私が、やらなくちゃ」


「それであんたが死んだら元も子もないでしょ! いいから休んでなさい」


 二人が言い合う中。


 クロナはある場所を見つめていた。


「あはっ! あの子ずっとこっち見てる。心配してんのかな〜?」


 それは遠くで神獣の化身を屠るナナの姿。


 ナナは片手間で神獣の化身を相手取りながら、アルミス達の状況を遠くから見つめ。


 上の状況を察したように【空間の扉(ポータル)】を生み出す。



 そして突如、空間転移でアルミス達の前に姿を現した。


「……ナナ、さん?」


「どいて。私やる」


 絶望的状況は変わらず。


 しかし、彼女達は未だ勝機を諦めない。




ご覧頂き有難うございます。

第三章のクライマックスが近づいて参りました。最後までご覧頂けると大変嬉しいです。


明日、明後日は休載致します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ