133話 次元渡りの巨大怪魚 天王バハムート【5】
一方、アスピド市街では。
『喰らえ』
神獣の化身に向け銃剣を構え、気を纏わせた弾丸を連射するタロス。
弾が当たるたびにその半透明の体は水のように波紋を残し、そして炸裂したように体が弾け飛ぶ化身だが。
破損個所が一定量に満たなければ活動維持が可能であり、自分の体積を減らすことで体を再生し、自身が動ける限り何度でも襲い掛かる。
『む……浅いか』
体を再生した神獣の化身は、大口を開けてタロスへ突進すると。
「【超刃爪術】!」
その頭上から、ミーシェルが魔力を込めた爪の斬撃を放ち、神獣の化身を仕留めた。
『ミーちゃん、強いな』
「ミーシェはご主人を守る為に生まれた猫妖精ニャ。これくらいどうってことニャい」
と、胸を張り自慢するミーシェルだが。
「後ろから来てるよ! 【疾風旋回】!」
背後から来るもう一体に気づかず、メティアは風魔法を付与した体でミーシェルを庇い、竜巻の如く回転しながら神獣の化身を切り裂いた。
「タロス、トドメ!」
『ああ』
体の半分を失った神獣の化身に、タロスは跳躍して飛び上がり。
化身の頭上から銃剣を向け、特大の気を纏わせた渾身の弾丸を撃ち込んだ。
『……これで、十体』
活動維持が出来なくなった神獣の化身は、水風船のように地面に弾け消滅。
そして周囲を見やる三人は、近くに魚影がないことを確かめホッと息を吐く。
「んにゃぁぁ……メティア、助かったニャ」
「いいよ。これで粗方片付いたし、あんたもそろそろ魔力を温存しな」
『しかし、上空には未だ巨大魚が留まっている。もしまた同じ攻撃を受けたら耐え切れるか分からんな』
タロスは空を見上げ、何を仕掛けてくるか読めない神獣に不安を抱く。
「町の人達も避難してるし、私らも一度飛行船に戻って、城にいるポロ達を拾って逃げたほうがいいかもね。許可なく城内に停めるのは無礼かもしれないけど、緊急時だし許してもらえるでしょ」
『ああ、この分だと城にも被害が出ていそうだ。皆も無事だといいが……』
と、二人が会話をする中。
ミーシェルはじっと神獣を見つめたまま動かず。
「ミーシェル、行くよ?」
催促するメティアを余所に、ミーシェルは呟いた。
「……ご主人」
「えっ?」
「空の上で、ご主人が戦っているニャ」
ミーシェルの眼は数十キロ先まで見通す『千里眼』のスキルを持っている。
そしてその瞳に映るは、パルネに抱えられながら幾度となく神獣に攻撃するポロの姿。
慌ててメティアも遠眼鏡で上空を見上げ、唖然とした。
「うそ……あの子、何やってんのよ」
神獣と比べれば羽虫程度の大きさで、刃を通さない強靭な体躯に、何度弾かれようとも突っ込んでゆくポロ。
『メティア、どうする?』
タロスが問うと、メティアは項垂れながら頭を掻き。
「すぐに船を出して! あそこに向かうよ!」
神獣を指差し、風魔法を付与した体で突風のように空港へ駆けていった。
『ポロのことになると忙しないな』
「メティアにとってご主人は弟みたいニャ存在ニャ。いくつになっても世話焼きニャところは変わらニャい、ブラコンエルフニャ」
『……そうだな。だがそれはポロだけじゃない、船員の皆に向けた優しさだ。だから俺はあいつを信頼している』
ぼそりと言いながら二人もメティアの後を追い、魔導飛行船に乗り込んだ。
向かうはポロのいる上空へ。
そして現在、ポロはパルネに抱えられ神獣の周りを飛行する。
「【螺旋の牙】」
体を捻り、回転を加えた斬撃を繰り出すも、神獣の体はビクともせず。
代わりに、神獣に纏う魔力の壁に弾かれ吹き飛ばされるポロ。
すかさずパルネは彼をキャッチし、再び攻撃を仕掛ける。
「【直下強襲】」
弾かれ。
「【烈波殲牙】」
また弾かれ。
「【幻影分身】……からの、【三頭犬の牙】」
それでも弾かれる。
何度攻撃しても、神獣に傷一つ与えることは出来ず。
幾度となく弾かれるポロと、その衝撃を吸収しながら飛行するパルネは次第に疲労が溜まってゆく。
「はぁ……はぁ……パルさん……神獣さん、何か言ってる?」
「はぁ……はぁ……人の身で、我が器に傷を付けることは不可能だと、言ってます」
「くっそぉ……まだまだ!」
「付言です。これ以上は待てない…………えっ?」
と、通訳する途中でパルネは驚愕した。
「……今一度我が分身を解き放ち、早々に終わらせる……と言ってます……」
「待って! 僕はまだやれるから!」
神獣の決断にポロは待ったをかけるが。
ボコボコと、半透明の体から再び卵のような球体が無数に現れる。
「そんな……さっきのもまだ処理しきれてないのに……」
絶望的状況に悲観する二人。
と、その時だった。
『ポロちゃん、パルネさん』
二人の頭の中に、アルミスからの念話が飛んできた。
「……アルミス?」
突然の念話にポロは首を傾げた。
『私は今城の頂上にいます。……見えますか?』
と、尋ねるアルミスに、二人は城の天辺を見下ろす。
すると地上では、城の高台が真っ二つに割れていて、中から巨大な弓を模した砲台が設置されていた。
「あれは……巨大弩砲?」
『今から神獣に向けて砲撃します。危ないから二人は離れて』
その言葉と共に、城の砲台がゆっくりと移動し、巨大な弩の矢は神獣の体に標準を合わせる。
そして、アルミスは自身の全魔力を魔導砲に注入した。
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