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空駆ける黒妖犬は死者を弔う  作者: 若取キエフ
第三章 水の都 海底に渦巻く狂乱編
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125話 神獣を討つ方法


 コルデュークの一撃により、城中に轟音と振動が伝う同時刻。


 その被害は城内にも伝染し、所々天上が崩れ、中に避難した者達に容赦なく岩盤が降り注ぐ。


「ぐああ! 天上が!」

「もっと下へ逃げろ!」


 そんな中、王室を目指していたアデル、アルミス、リミナの三人は、窓から見える巨大な魚影に一層の不安がよぎる。


「ちょっと……あれ大丈夫なの? 今のってあの化け物の仕業なんじゃ?」


 通路を駆け抜けながらリミナが問うと。


「わかりません、おそらくあれが神獣とやらなのでしょうが……。弟は、国を滅ぼすことが目的だったのか、本人に聞かないうちはなんとも……」


 アデルは申し訳なさそうに返した。


「あ、別に、王子様を責めてるわけじゃないから……」


 言いかけた時、彼らの進む天上が崩れ、岩盤が三人を襲う直前。

 リミナは瞬時に飛び上がり、降り注ぐ岩の塊をハルバードで両断した。


「……だから気にしないで。今はアタシ達に出来ることをしましょう」


 両脇に逸れた岩盤の落下を確認し、アデルに弁解するリミナ。


「あ……ああ」


 一瞬で落下物を切り裂く判断力と身体能力に、一兵卒では決して真似出来ない芸当だと、アデルは驚いた表情で眺めた。


 ――セシルグニムに仕える者達は、あのような幼い少女でもこれ程の力を持っているのか?


 と、セシルグニムの兵力を危惧し、同時に、彼らが味方でいてくれて良かったと心底思った。












 神獣復活の影響で、自分達を足止めする暇などなくなった兵士達は、アルミスを見ても気にせず下へ逃げてゆく。


 状況を鑑みるに、国王も安全な場所へ避難したと考えるのが妥当だが、何かのトラブルにより逃げ遅れている可能性もある。


 アデルはそんな一抹の不安を抱きながらも、一先ずは予定通り王室へ向かった。


「ここです。状況的に別の場所に避難している可能性もありますが……」


 と言いながら王室の扉を開けると。


 そこには今も逃げることなく、王と王妃が玉座に腰かけていた。

 いたが、目の前に広がっていたのは、死屍累々と倒れる兵士の山と。

 玉座に縛られた王と王妃の姿。


「父上! 母上!」


 思わず声を上げるアデルに、王と王妃は弱々しく叫んだ。


「アデル! 今すぐアルミス王女を連れて逃げろ!」


「え……?」


「私達のことはいいから、アルミス王女をお守りしなさい!」


「父上……母上……」


 すると、玉座の後ろで待機していた一人の女性が、ひょっこりと顔を出す。


「あら~ようやくおいでになりましたか~、アデル王子、そしてアルミス王女」


 妖艶な笑みを浮かべ、手に持ったナイフをペロリと舐める女。

 リミナは苦い顔をしながらそれを見つめる。


「クロナ・バゼラ……姿が見えないと思ったらこんなところに……」


 兵士の死体をよく見ると、彼女が使っていた手投剣(スローナイフ)が至るところに刺さっており、この惨状は彼女の仕業なのだと理解する。


「アハッ、さっきぶりねぇ~、リミナ・ハルチェット。また会えて嬉しいわ」


「こっちは顔も見たくないっての!」


 と、リミナがハルバードを構えると。


「はい、動かないで~。私の手元が狂っちゃうわよ?」


 クロナは拘束された二人の椅子の間に立ち、王と王妃二人の首元にナイフを突きつける。


「ぐっ……こいつ!」


「そんな怖い顔しないで。あなたと二回戦目をおっぱじめるのも魅力的だけど、今はそんな状況じゃないの」


 だが、クロナに争う意思はなく、あくまでも話し合いの為に二人を人質とした。


「言っておくけど、この二人を拘束したの、私じゃないから」


「えっ?」


「そこに転がってる兵士達。ハイデル王子の側に付いた勢力よ。まあ正確には、研究所の所長、ゴルゴアに付いた悪~い裏切り者さん達。予め王さまの自由を奪って、国外に情報を漏らさないように手を回したようね」


 愉快気に笑みを浮かべながら説明するクロナに。


「いや、あんたもそっち側でしょうが!」


 クロナもゴルゴアに雇われた人間だと反論するリミナ。


「契約上はね。けれど私と、地下で氷漬けにされてるドルチェスは別の目的があってこの国に来たの」


「別の、目的?」


「この国にある、魔導兵器の調査。それが別の雇い主からの依頼ね」


「っっ!?」


 すると、王は難しい表情で目を逸らした。


「父上……魔導兵器とは?」


 何も知らされていないアデルは疑問を浮かべ王に問うと。


「……他国と争いが起きた際、それを迎撃する為、極秘裏に作られた魔導砲だ……」


 躊躇いながらも、何をしでかすか読めないクロナを警戒し、王は包み隠さず真実を伝えた。


「そうそれ~。ねえ王さまぁ、その兵器が隠されてる場所教えてくれない?」


 クロナは突き付けたナイフの先をチョンと皮膚に当てる。


「……知ってどうする? あれは人の手に余る殺戮兵器だ。各国で違法とされた技術で作られ、他国に知れればそれだけで争いの種になりかねん代物……。だから我が国も明るみに出さず、関係者以外誰にも口にしなかったのだ」


「知ってるわ。けれど今はその力を必要としているの。私だけじゃなく、この国自体がね」


「……何?」


「わからない? 今このテティシア領は滅亡の危機に瀕しているのよ。あなたの次男坊が余計な人に余計な加担をしてしまったせいでね」


「…………」


 王は神獣が復活した事実を知らない。

 知らないが、城内の騒ぎようから、ただならぬ事態であることが予想出来た。


「このままただ国が滅ぶのを見ているだけなんてつまらないでしょう? だから早急に用意をお願いしたいの~」


「だが、魔導砲には大量の魔力を必要とする。すぐに集められるものではないのだ!」


 王が言うと、クロナはアルミスに目を向ける。


「そこは、王女さまにお願いするしかないわね~。『統一する者(フルコンダクター)』さん?」


「え……私、ですか?」


 クロナはニヤニヤと笑みを漏らし。


「どちらも早急に決めなさい。このまま神獣によって国ごと全滅させられるか、少しでも可能性に賭けて抗うか……。悩む時間が増える分、死人が増えていくわよ?」


 迷っている時間はないと、この状況を愉しみながら皆に選択を迫るのだった。





ご覧頂き有難うございます。

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