124話 一時休戦、そして共闘
外見に加え、纏っているオーラも禍々しく変貌したコルデュークに、バルタはただならぬ気配を感じた。
「こいつはまた……凶悪そうな面になったな」
見た目だけではない。彼の纏う気配だけで、先程と比べようもない程に力が向上していることが見て取れた。
コルデュークはその赤く光る眼光を向け告げる。
「悪いな、この強化スキルは長くもたねえからよ、遊んでやる余裕がねえんだ」
そして黒い翼を大きく広げ飛び上がると、コルデュークは剣に魔力を集中させ、大きく振り上げた。
「まずいな……こっちも強化しとくか。【竜血の滾り】!」
「さらに、上乗せする。……強化」
バルタとナナは互いに身体強化スキルを使いコルデュークの攻撃に備えるが。
「秒で終わらせてやるよ……【漆黒の神罰】!!」
剣から放たれる黒き斬撃は、最上階全域に巨大な斬痕を残す程の波動がほとばしり。
爆撃のような轟音を響かせ、神獣の化身諸共、多くの者達が葬り去られた。
一方その頃、地下で乱戦を繰り広げるサイカは。
――なんだ今の音は? それにこの振動……上で何が起きている?
カナンと斬り合いながら、今しがた起きた轟音に意識を向けた。
「よそ見とは余裕ですね。副団長様」
その隙を突いて、カナンはサイカにレイピアの刺突を振るが。
サイカは片手でその一撃を軽く受け流した。
「っっっ?!」
「たしかに、勝負の最中に無礼だった。だが、ミュレイヤと一戦を交えた後ではどうも貴様の剣が軽く思えてな」
と、挑発するサイカ。
「自慢の樹木魔法も、使う隙がなければ一介の剣士よりも技術は劣る。今の貴様に勝ち目はないぞ。死にたくなければ武器を捨て降伏しろ」
「くっ……!」
壁際に追い詰められ、なす術もないカナンだが、それでも武器を構えたままサイカを捉える。
「……そうか、ではその首、もらい受ける!」
そして、仕方なくといった様子で、サイカは剣を振り上げた。
その時。
「そこまでにしなさい」
地下へ続く階段から声がした。
現れたのは、サイカの一撃に敗れたミュレイヤの姿。
「なっ……ミュレイヤ、もう動けるのか?」
「ええ、あなたの慈悲で、致命傷を免れたおかげで」
突然現れた強者に、サイカはより一層気を高ぶらせ彼女に構える。
しかし。
「剣を下ろしなさい。キメラ隊、あなた達も」
当のミュレイヤに戦う意思はなく。
「今はもう戦っている場合ではないの。全員殺気を鎮めなさい」
争い合う皆に停戦を促した。
「……どういうことだ?」
「モニタールームから地上の様子を見たの。……テティシア領の上空で、神獣が復活したわ」
「何っ?!」
驚くサイカに、さらに悪い知らせを告げる。
「おまけにその神獣、私達の国に向けて攻撃してるの。早く手を打たないと最悪城諸共国が滅びる。……だから、今は私達と共闘してほしいのよ。神獣を止める為に」
「……その話を信じろと?」
「別に信じなくてもいいわ。私はハイデル様を傷つけたコルデュークを殺すのが目的だから。けど、このままだとアルミス王女やあなたのお仲間達も命の危険にさらされるわよ?」
「ぐ…………!」
身内の名を出され、剣先に迷いが生じるサイカ。
「それからキメラ隊、あなた達の指揮官であるメイラーも、ゴルゴアに拘束され神獣復活に利用された。もはやあの男に無理やり従う必要もないと思うけど?」
「そんな……メイラーが?」
さらに告げられる言葉に、キメラ隊のメルティナも動揺する。
「そこの脱獄キメラ達もね。あなた達のお仲間二人もメイラー同様、神獣復活の糧となったわ」
「……まさか、姉御とパルネか?」
リノの問いに、ミュレイヤは静かに頷く。
「おそらく、全員死んではいない。獣人の坊やが皆を避難させてくれたみたいだから」
その言葉を聞き、避難させた獣人とはポロのことだと察し、リノ達は安堵の息を漏らす。
「向かうべき場所も、倒すべき敵も今は一緒。だから一旦、手を組みましょう」
ミュレイヤの提案に迷いを抱きながらも、一同は皆武器を下ろした。
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