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空駆ける黒妖犬は死者を弔う  作者: 若取キエフ
第三章 水の都 海底に渦巻く狂乱編
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118話 全員集合


 ――ああ、体から力が抜けていく……。血も、魔力も、気力も……すべてを吸い取られていくのが分かる……。


 意識が朦朧する中、アデルは確実に近づいてくる死を、ただ静かに待っていた。


 ハイデルに植え付けられた『宿り木の種(ミストルティンシード)』は、もはやアデルの全身を覆う程にツルを伸ばし、アデル本体を飲み込もうと体中に巻き付く。


 ――私は……僕は、どこで違えてしまったのだろう。腹違いであろうと、ハイデルは僕の弟に変わりなく、何より大事にしてきたつもりだったのだが……。


 取り戻せぬ過去に、アデルは後悔の念を抱いた。








 海棲種族の多いテティシアで、人間であるアデルの父が王になったのは例外中の例外。

 過去に海の悪魔、巨大烏賊クラーケンを討伐し、英雄として名を遺したからである。


 そんな父が正妻とは別に、側妻として選んだのは、かつて父の世話係をしていた、人間の侍女だった。


 そしてその胎から生まれたハイデルは、父の経歴を聞かされた時、自分も功績を残せば、いつか王位継承も夢ではないのではないか……そう思うようになる。


 しかし世間の目は単純ではなく、たとえ王子であろうとも純血の人間は下で見られ、後ろ指を差されるのがこの国の在り方である。


 ならば実績を残せばいいのかと闇雲に努力をするが、自分には戦闘技術はおろか、経済を回す才能もない。


 ただの人間の、二番目の王子として小さく名が残るだけ。


 ハイデルは、国を、種族を、家族を恨んだ。









 ――ハイデルは……海女精ネレイドの血が混ざった僕を、ずっと妬んでいたのか……。


 そう思い、アデルは自身の死を受け入れた。


 ――僕がいなくなれば、ハイデルが次期王となる。……これで良かったのだ、これで……。


 そして、アデルは静かに目を閉じると……。



「アデル様っ!」



 遠くで、女性の声がした。

 それはつい最近耳にした声。

 決して主張はしないが芯のある、穏やかな声。


「今助けます! 【解呪の波動(ディスペル)】!」


 詠唱が聞こえると同時に、アデルは自身に纏わりつく植物が力を失ってゆく感覚に心地よさを覚え。

 そのまま意識を失った。









 気がつくと、アデルはアルミスの膝の上で目を覚ました。


「……あ、アルミス様」


 周囲を向けば、ポロ、サイカ、リミナ、彼女の付き人達も彼を見下ろしている。


 皆無事ではあるが、服の破れや鎧の汚れ具合を見て、何かしらの危険に巻き込まれたのだと、アデルは自責の念に苛まれた。


「良かった……ご無事で何よりです」


 そんな自分をそっと自分を抱きしめるアルミスに、アデルはバツが悪そうに謝罪をする。


「……申し訳、ございません。私の身内の問題に、あなた方を巻き込んでしまった」


 謝っても許される問題ではないと知りつつも、アデルは己の不甲斐なさから悔し涙を流し、何度も謝罪を口にした。


 するとアルミスは首を振り言った。


「アデル様のせいではありません。どうかご自身を責めないで下さい」


「ですがっ……私は!」


「初めてお会いした時から感じておりました。あなたはとても心の清らかな方だと……」


「……っ!」


 屈託のない笑みでアデルを見つめながら。


「……教えて下さい。あなたはこれからどうするのか。私に出来ることならば何なりと仰って下さい。この国の内乱を止める為に、私も全力でご助力させて頂きます。他でもないあなただからこそ、私はその指示に従います」


 ハイデルとゴルゴアの野望を食い止める為、両国で戦争を起こさぬ為。


 アルミスは、今この国で一番信頼出来る権力者に回答を委ねる。


「……城に戻りましょう。来た道は覚えております。城に戻り、王にこの事を伝えるのです。私と、アルミス様の二人で」


 決心したアデルに、アルミスも静かに頷いた。


 と、そんな時。

 ポロはスンスンと鼻を伸ばし、周囲の匂いを嗅ぎだす。


「バルタ……それにリノさん達の匂いが近づいてくる」


 その言葉通り、程なくしてバルタ達が早足でポロ達の元へやって来た。


「ようポロ、ここにいたか。それにナナも。なんだ、お前ら一緒にいたのか」


 すると、端にいたナナはそそくさとバルタの隣を陣取り、ぴったりとくっついて離れない。


「うはは、なんだよ、慣れない奴らばっかりで気疲れしたか?」


「うるさい」


 ナナは頬を膨らませながらバルタの二の腕をつねる。


 そんなやり取りをする中、ポロはバルタに尋ねた。


「バルタ、パルさんは?」


「ああ、その事なんだがな……さっき、もにたーるーむ? って部屋に向かったんだが、すでにもぬけの殻だった」


 バルタの言葉に、一同は一層の不安がよぎる。


「そんで、『転映石てんえいせき』の映像で足取りを確認したんだが、どうやらもれなく全員、城の天辺にいらっしゃるらしい」


「お城の?」


「ああ、そこにパルネとグラシエ、あとはメイラーって女が捕まっている。どうにもヤバイ魔法陣があるみたいでな。早めに対処したほうがいい」


 どのみちアルミス達も城に戻らなければならない為、目的地は同じである。


 再会した一同は、取り急ぎ城に戻る為、アデルが通った地下通路を逆走していった。





ご覧頂き有難うございます。

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