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空駆ける黒妖犬は死者を弔う  作者: 若取キエフ
第三章 水の都 海底に渦巻く狂乱編
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117話 兄弟の決別


 テティシア城の頂上にて神獣復活の召喚儀式が行われる前のこと。




 第一王子アデルは、此度の騒動を父であるテティシア王に伝えたのち、負傷したという弟のハイデルの様態を伺いに向かっていた。


「カナン、何故地下に行く? ハイデルの部屋はあっちだが……」


 アデルは弟の部屋と反対方向へ進む給仕の女性に疑問を抱く。


「緊急を要する事態でしたので、地下の休憩所にてお休みになられております」


「……それ程までに重体なのか?」


 と、心配するアデルを他所に、黙々と歩を進めるカナン。



 そして、薄暗い地下通路を進むことしばらく。


「おい、この先は行き止まりだぞ?」


 道が途絶えている場所まで来たことに、一層の疑問が浮かぶアデル。


「いいえ、道はこちらにございます」


 すると、カナンは何もない壁に隠されたスイッチを押すと。

 目の前の壁が横に開き、隠し通路が現れた。


「な……なんだこの場所は! 長くこの城で生活してきたが、こんな道があるなど、今まで知らなかったぞ」


「この道が開通したのは数年前、ハイデル様のご要望で、海底に建てられた研究所と城を繋げたのです」


「ハイデルが? 何故?」


 アデルが投げかける疑問には答えず、「どうぞこちらへ」と、ただ誘導するだけのカナン。

 いぶかし気に思いながらも、アデルは誘われるがままに隠し通路の先へゆく。










 カナンの後ろを歩き、長い階段を下りながらアデルは思う。


 ――一体、どこまで下るんだ。こんな場所に、本当にハイデルはいるのか?


 城内から離れた研究所の通路を歩き続け、アデルは明らかな違和感を抱いた。

 いや、実際は城にいた時から感じてはいた。


 アルミスとその従者が暴挙に出たと聞かされたが、それにしては城内は至って静かであり、騒ぎなどまるで起こっていないようだと。


 ――カナンが、嘘をついている?


 そう思いながらも、長く城に仕えている彼女を疑りたくないという気持ちもあり。


 しかし、依然黙々と歩を進める彼女を問い質さずにはいられなかった。


「カナン……一体、どこまで行くつもりだ?」


 そう尋ねると、カナンはある扉の前でピタリと足を止めた。


「どうぞ、こちらへ」

「………………」


 しかし、アデルの質問には答えず。

 仕方なくアデルは勧められた部屋の中へ入った。


 すると。


「ハイデルっ!」


 扉の先には、ソファーに腰かけ優雅に茶を啜るハイデルの姿があった。


「おや、兄上。どうかしましたか?」


 見たところ外傷はなく、至って健康そうな姿でハイデルは尋ねる。


「お前……アルミス様の従者に襲われたと聞いたが、体は大丈夫なのか?」


 ハイデルは一瞬首を傾げるが。


「……ああ、なるほど、そういう設定か」


 すぐにカナンが用意した作り話だと理解し、納得したように頷いた。


「見ての通り、私は健康ですよ。むしろ兄上のほうが疲れたような顔をされておりますが?」


「あ、ああ……お前が無事ならいいんだ。それよりもハイデル、この施設はどういうことだ? 城に隠し通路まで作って、父上はこのことをご存じなのか?」


 と、アデルが問うと。

 突然、カナンはアデルに向かって拘束魔法を放った。


「【蔦触手縛り(テンタクルホールド)】」


 そう唱えた直後、地面から複数の植物のツルが伸び出ると、そのままアデルの両手足に巻き付き体の自由を奪うと。

 ツルはそのまま彼を引っ張り、思いきり壁に叩き付けた。


「がはっっ!」


 壁に磔となったアデルを、ハイデルは不敵な笑みを浮かべ立ち上がる。


「くく……いい様だな、兄上」


「ハ……イデル……これは、どういうことだ……?」


 何故自分を拘束するのか。

 意味が分からず、アデルは問うと。


「まだ分からないのですか? 騙されていることに」


「……何?」


「兄上、私が王位を継ぐ為には、あなたの存在が邪魔だったのです。生まれた頃から二番目と決められた人生、純血の人間が劣等となる種族カースト、このテティシア領にて私が王位の座を与えられる可能性は、限りなくゼロだった」


 言いながら、ハイデルはカナンから指先サイズの小さな種を受け取り、アデルの元へ近づく。


「だから、今回兄上の縁談が決まった時思ったのです。相手国の姫君に罪を被ってもらい、その責任を兄上に取ってもらおうと」


「ハイデル……お前は……」


「その他にも、アルミス王女には利用価値がありましたので、この地下研究所で監禁させて頂いております」


「何故だ! 彼女は関係ないだろ!」


「いえ、アルミス王女が持つ魔力には、神獣を呼び起こす貴重なエネルギー源となりますので、大変重宝される逸材ですよ。さすが、兄上の見立てに狂いはない」


「……神獣だと? 一体お前は…………ぐっ!」


 と、言いかけた時、眼前まで近づいたハイデルは、彼の首元にカナンから受け取った種を突き刺した。


「なんだ……これは……」


「カナンの体内で作られた、寄生型の種ですよ。『宿り木の種(ミストルティンシード)』と呼ぶらしいです」


 すると、アデルに刺さった種はたちまち芽を生やし、その芽は徐々に伸びてゆく。


「この種を植え付けられた宿主は、ゆっくり時間をかけて体内から血や魔力を吸い取られてゆくのです。宿主が死ぬまでね」


「あ……がっ……」


 体内から何かが抜けていく感覚に、アデルは徐々に衰弱していった。


「兄上は、城の秘宝を奪いに来たアルミス王女の従者に殺された……そういうシナリオにしましょう」


 と言って、ハイデルは懐から青く輝く魔鉱石を取り出す。


「それは……『海王石かいおうせき』……何故……」


「この研究所の所長、ゴルゴアという男に頼まれましてね。足りない分のエネルギーをこれで補うとか」


「ま、て……それは国の大事な……」


「知ってます。けれど、この国の守り神として呼び覚ます神獣のほうが圧倒的に価値がありますので、これはその為の対価として私が有効活用しましょう」


 そう言って、ハイデルはカナンと共に部屋を出てゆく。


「それでは兄上、今までお世話になりました。どうぞ安らかにお眠り下さい」


 歪んだ笑みを向けながら、最後の言葉を残し。


「ハイ……デル……」


 道を踏み外した弟を恨むでもなく、アデルはただ、彼の行く末を憂うのだった。





ご覧頂き有難うございます。

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