115話 心を開いて
ポロ、リミナ、アルミスの三人は、一先ずの再会に喜ぶ中。
蚊帳の外に追いやられながらも、依然として戦闘の構えを崩さぬドルチェスを、ナナは冷めた目で見つめる。
「おじさん、いつまでそうやってるの?」
「お兄さんだ! だが触れてくれたことに感謝する!」
と、怒りながらも自分に話を振ってくれたことに喜ぶドルチェスは、この空気感を脱却するべく主張強めに彼らに告げる。
「俺は賞金稼ぎのドルチェス! 元Sランク冒険家だ! ここを通りたくば、この俺を倒していくが――」
「稲妻」
だが言い切る前に、面倒だと思ったナナは彼に雷の上級魔法を頭上から浴びせた。
「ぐああああああ!」
「いい加減、しつこい……」
ぼそりと不満を漏らすナナだが、その思いを裏切るように、ドルチェスは不死鳥の如く立ち上がる。
「まだだ、これしきでくたばる俺ではない! 貴様らの息の根を止めるまで、この鉄壁の体は決して砕けん!」
と豪語しながら、仁王立ちで彼らに立ち塞がるドルチェス。
そんな時、ふと彼は後ろからの気配に気づき振り返ると。
「ならば、少しの間氷塊の中で眠れ」
そこにはミュレイヤとの一戦を終えたサイカが立っていた。
「な、お前いつの間に……」
「【永久凍土】」
そう唱え、ドルチェスに有無を言わさず巨大な氷塊の中に閉じ込めた。
そして、サイカは一息漏らし、アルミスを見つめる。
「サイカっ!」
「姫様……ご無事でしたか」
優し気に笑いかけるサイカに、アルミスは安堵の中涙を流し、サイカに抱き着いた。
「良かった……みんなが無事で……本当に良かった!」
泣き崩れるアルミスの頭を、そっと撫でるサイカ。
「まだ、パルネが捕まっているけどね」
「え……パルネさんが?」
と、リミナの一言にアルミスは再び不安な表情を向ける。
「彼女は今どこに?」
心配そうに尋ねると、ポロは「大丈夫」とアルミスを落ち着かせる。
「今バルタがここに来ているんだ。先に行ってパルさんの救出に向かってるよ」
「バルタさんって……あのバルタさん?」
アルミスはキョトンとしながらポロに返した。
そんな会話を続ける中。
内々の輪の中にいるナナは、居心地悪そうにそっぽを向くと。
スタスタと一人で先へ進みだす。
「お前は、バルタの連れの……。先程は世話になった」
「いい。バルタに頼まれたからやっただけ」
彼女を気遣うサイカだが、ナナは彼らを見もせず歩を進める。
「ナナと言ったな。行く先は同じなのだろう? 一緒に行かないか?」
すると、ナナは一瞬足を止め振り返るが。
「別に、あなた達に同行するメリットがない。ついて来たければ勝手にすればいい」
そう言って、再び一人で歩き出した。
人見知りな彼女にとって、ポロ達と同じ空間にいるのは敵地に乗り込むのと同定義。
自らがアウェイな存在であると思い込み、決して心を開こうとはしない。
すると、突然彼女に平行して、トテトテと横を歩くポロ。
「…………なに?」
「君、とってもいい匂いだね」
「だから、なに?」
「アルミスと同じ、優しい匂い」
「…………」
「ね、君がアルミスを助けてくれたんでしょ?」
「仕事の、ついで、だから」
「それでも見捨てなかった。だから僕は君のことを信頼するよ」
「え…………」
「一緒に行こうよ。僕、もっと君のこと知りたい」
ポロの止まない口説き文句に、ナナは溜息を吐きながら足を止め。
「私、他人と会話するの、苦手だから……つまらないと思う」
仕方なしにポロに歩幅を合わせた。
「いいよ。僕が勝手に喋るだけだから」
と、満面の笑みでナナに返した。
ポロの顔を眺めながら、ナナは以前バルタにも同じような会話をしたことを思い出す。
その時も、バルタはポロと同じようなことを言っていた。
『ああ? 別につまらなくねえだろ。俺が勝手に喋るだけだからよ』
そう言って、バルタも自分を見て笑いかけていたこと。
そして思う。バルタがポロに信頼を寄せているのは、二人はどこか似ているからなのだと。
タイプは違えど、人を寄せ付け引き込む力が二人にはある。
そう思い。
「分かった。一緒に行く」
ナナはポロの案に承諾し、共にパルネのいるモニタールームへ向かった。
ご覧頂き有難うございます。
間もなく第三章も佳境となります。ここから徐々にクライマックスへ向かっていきますので、お時間がある時にでもご覧頂けると嬉しいです。
明日、明後日はお休みします。