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空駆ける黒妖犬は死者を弔う  作者: 若取キエフ
第三章 水の都 海底に渦巻く狂乱編
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113話 小さな世界樹(リトルユグドラシル)


 まどろみの中、アルミスは自身の首元に針のようなものが刺さる感覚で目を覚ました。


「うぅ……」

「おっと、お目覚めですか、アルミス様」


 目の前には先程いた白衣の男。

 その男の手に持つ注射器を見て、今しがたの痛みが何なのかを理解する。


「わたしに……なにを……?」


「ご安心を。ただの栄養剤です。あなた様の健康状態に支障がありますと、良質なマナを採取出来ませんので」


 その言葉でアルミスは完全に意識を覚醒させ、先程の苦痛を思い出した。


 全身に流し込まれる電流に、体から魔力を吸い取られる気持ち悪さ。

 逃げようにも、両手足を拘束されている為抵抗出来ず。


 男は手慣れたようにアルミスの瞼や口の中を開き、体の状態を確認すると。


「ふむ、特に問題はなさそうですな。では先程の続きを致しましょう」


 淡白にそう告げ、奥にある装置を稼働させる。


「ひっ……いや……!」


 再び受ける激痛を前にして、アルミスは恐怖のあまり拘束具を外そうと暴れるが、彼女に取り付けられた機械はビクともせず。


 そして、アルミスは二度目のマナ吸引を強要された。


「うああああああああああ!!」


 体中が痺れる感覚と、魔力が吸収され力が抜ける感覚。

 慣れようもない激痛に、体の防衛本能は再び意識を閉ざそうと、アルミスの脳しょうへ信号を送り。


 ――もう……やめて……たすけ……。


 頭が真っ白になり、早くこの苦痛から逃れようと、意識を飛ばし痛覚を遮断させる。

 誰でもいいから、この地獄から解放してほしいと懇願しながら……。


 その時――。



「稲妻」



 突如薄暗い室内に、紫電の雷光がほとばしった。

 それと同時に、部屋にある全ての機器が停止し、辺りは暗闇に包まれる。


「なっ……なんだ?」


 突然の停電に、研究員の男は慌てふためく。


「くそっ! こんな時に……!」


 男は手探りで予備電源のスイッチを入れ、室内を赤いランプで照らした。

 その瞬間。

 いつからいたのか、彼の眼前には黒髪の少女が立っていた。


「ひっ! うあああ!」


 気配を全く感じさせず現れたナナに、男は驚愕しながら尻餅をつく。


「な……誰だお前は!」

「……ナナ」

「はあ?!」


 ぼそりと名乗り。


「声、大きい。黙って」


 ナナは無詠唱で【沈黙サイレント】の魔法をかけ、男から発せられる声音を無効化した。


「~~~……!」


 何を訴えても無音になる男へ、さらにナナは魔法で生成した鎖を巻き付け拘束。


「~~~!」


 言葉に加え、身動きも封じられた男を端に追いやると、ナナは一息吐いてアルミスの元へ近寄る。


「…………あ、あなた……は?」


 衰弱し、怯えた目で見つめるアルミスをじっと凝視するナナ。

 すると、ナナは無言でアルミスの胸に手を当て、自身の魔力をアルミスに流し込む。


「っっっ!」


 徐々に回復する体内のマナに、アルミスは若干の心地良さを覚えながら、意識を再び覚醒させてゆく。


 そしてアルミスの体に魔力が満たされた後、ナナは彼女を拘束する機器を魔法で溶解し、彼女を解放した。


 アルミスは目の前の少女が誰なのか、何故自分を助けたのか分からず。


「あの……ありがとう、ございます」


 ただ無表情ながらも、自分の拘束を解いてくれた彼女に感謝を示す。


「いい。この装置、壊しに来たついで」


 ナナはアルミスの言葉にそっぽを向き、黙々と奥の装置へ向けて、先程の稲妻を放った。


「~~~~!!」


 拘束された男は『何をしているんだ』『やめろ』と無音の叫びを連呼するが、ナナは止まらず。


 やがてマナ吸引機はプスプスと煙を立てながら大破した。


「~~~~~……!」


 大事な機器が壊された男は、長年の悲願を成し遂げられぬ悲しみに涙を流しながら項垂れるが。

 ナナはその男に近づき言った。


「あなたの悲しみなんかより、多くの犠牲者が受けた苦しみのほうが、ずっと辛い」


 無表情ながらも、たしかな怒気を込めて。


「あなた達のわがままを邪魔されたくらいで、被害者面しないで」


 そう言い捨てて、彼女はアルミスの元へ戻る。


「……立てる?」

「はい、大丈夫です」


 弱り切ったアルミスに肩を貸しながら、二人は『魔原子炉マナタンク制御室』を後にした。














 その様子をモニタールームで見ていたゴルゴアとコルデュークは。


「ああ……あの女! また私の邪魔を……!」


「くひひ……暴れてんなぁ~ナナちゃん」


 それぞれ切実な怒りと陽気な傍観で二人はモニターを眺めていた。


「笑い事ではございません! なんなのですか、無詠唱でポンポン放てるあの魔力は!」


 もはやゴルゴアの表情に余裕はない。

 ポロ達の反撃に加え、グラシエの逆襲、そしてバルタとナナの侵攻。

 順調に進んでいたはずの計画が、みるみると瓦解してゆく状況に苛立ちを隠せずにいた。


「あれが俺と同じ、転生者の力だ。あのガキは特に良い『固有能力ユニークスキル』をもらったからな」


「『固有能力ユニークスキル』?」


 聞き慣れない言葉に首を傾げるゴルゴア。


「転生特典ってやつだ。地球の、日本って国から来た人間はもれなくうちらのリーダーから、自分に合ったオリジナルの力を授けられるんだよ」


「……では、あの黒髪の女の能力は……」


「『小さな世界樹(リトルユグドラシル)』。体内で無限のマナを生成出来る、世界で唯一無二の存在だ」


 モニターを見ながら、コルデュークは愉快気に笑みを浮かべる。

 自分と再会した時、彼女はどのような憎しみに満ちた表情を見せるのか。

 そんなことを想像しながら。





ご覧頂き有難うございます。

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