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空駆ける黒妖犬は死者を弔う  作者: 若取キエフ
第三章 水の都 海底に渦巻く狂乱編
112/307

111話 共同戦線


 合成魔獣キメラモンスターを挟んで向き合うポロとバルタ。

 喉を鳴らし威嚇する魔獣達に、二人は前後からそれぞれ殲滅してゆく。


「いくぜっ! 【炎斬輪舞ブレイズアトラクター】!」


 バルタは炎を纏わせた手投げ斧(トマホーク)の連撃で魔獣を滅多切りにし。


「エキドナ、力を貸して……【多段鞭打ハンドレッドウィップ】」


 ポロは闇魔法で地面から無数の蛇の尻尾を生成し、向かい来る魔獣へ、鞭のようにしならせた尻尾の打撃を繰り出し怯ませる。


 双方からの猛撃により、十体のキメラモンスターの陣形は徐々に瓦解していき。

 リノはその様子を唖然としながら見つめていた。


 ――ポロの強さは知っていたけど……あの竜人ドラゴニュートも相当強いな。


 二人の連携により一気に戦況が変わる中。


「リノさん、こっちは僕とバルタでなんとかなりそうだから、他のみんなを助けてあげて」


 勝機を見出したポロは、後方にいる彼女達の援護をリノに任せた。


「あ、ああ、分かった。くれぐれも無茶はしないようにね」


 この二人の間に自分が加わっても逆に邪魔になるだけだと判断したリノは、躊躇いながらも後方の部下達の援護に回り。

 皆はそれぞれ残りの魔獣の掃討に当たる。















 しばらくして一同はキメラモンスターを全滅させると。


「【霊魂浄化パーフィケーション


 例の如くポロは討伐した魔獣達を浄化魔法にて弔う。


 数人負傷したものの、しかしバルタの介入により死者が出ることはなかった。

 浄化を終えたポロは、魔法の反動でふらつきながらもバルタに近寄り。


「ありがとう。バルタのおかげで助かったよ」


「気にすんな。どのみちここにいる魔獣は討伐する予定だったんだ。分担出来てむしろありがてえ」


「……それで、どうしてこんな場所にいるの?」


 思いもよらぬ場所での再会を不思議そうに尋ねた。


「ああ、それはな……」


 そして、バルタはこれまでの経緯を説明した。


 アスピドの各研究所の破壊テロは自分達の仕業である事。

 その過程で国に追われている事。その最中にメティア達と再会し、ポロ達がこの国にいるという情報を耳に入れた事。

 そして成り行きで出会ったグラシエと交戦の末和解し、共にこの研究所へ乗り込んだ事。


「……とまあ、城に繋がっているこの地下研究所が俺の探していた最後の場所でな。ここを破壊してキメラ実験の資料を全て燃やしてやろうと思ったわけよ」


「たしかに非人道的だけど、罪を背負ってまで君が破壊活動をするメリットってなに?」


 Sランク冒険家である彼が、これまでの履歴に泥を塗る理由はなんなのか、ポロは問うと。


「まあ、うちのパーティーメンバーの一人が決断した事だ。俺はその補佐」


 後悔なく軽い口調でバルタはそう言った。


「実際キメラ実験はこの世に存在するべきじゃねえ。罪のない人権疎外は闇に葬り去る必要がある。だから、その為ならいくらでも罪の上塗りをするさ」


 口調こそ軽いものの、決して信念は軽率なものではない。

 彼は目的の為ならば、自分の命さえも対価にするだけの覚悟があり、それ故揺るぎない正義がある。

 そんな感情がにじみ出る彼の言動に、ポロは「そっか」と、微笑を浮かべて言った。

 道を踏み外したわけではなく、自分自身で決めた道だと理解して。

 否定も肯定もせず、ポロはただ納得して頷いた。


 と、そんな二人の会話にリノも加わり、彼女は自分らのリーダーの居場所を尋ねる。


「バルタって言ったね。グラシエの姉御と行動していたなら、姉御が今どこにいるか分かるだろ?」


「ああ、ここより二つ上の階にある、モニタールームって場所に行ったよ。パルネって子供の救出に向かうんだと。で、そこにこの研究所の親玉もいるらしい。俺も今から参戦しに行くとこさ」


 そう返すと。


「ならあーしらも連れてってくれ。ここにいる子達は皆そいつと因縁があってね。姉御と一緒にあーしも決着をつけなきゃならないんだ」


 願ってもない好機だとリノは奮起し、バルタとの同行を願う。


「いいぜ、お前らが生きててグラシエも喜んでいたしな。仲間は多いほうがいい」


 二つ返事で了承するバルタにポロも乗っかり。


「パルさんがいるなら僕も行くよ。どこかにアルミスも捕まっているみたいだし、みんなを助けるために責任者を問い詰めないと……」


 そう言うと、バルタは「あ~」と微妙な返事をし。


「ポロ、それについては俺の仲間が対応中だ。場所も知ってるから助けに行くといい。だがその前にお前はあいつをなんとかしてやんな」


「あいつ?」


 その後のバルタから聞かされた言葉に、ポロは一度皆と別行動をし、全力で通路を駆けた。

 同じ階にいるリミナの元へ向かう為に。















 大部屋に入ると、そこには血まみれで倒れるリミナの姿があった。


「……リミナ」


 ゆっくりと近づき、そっと抱きかかえ彼女の胸に耳を当てると。


「……正常な鼓動。良かった、命に別状はなさそうだ」


 ほっと息を吐くと、ポロは軽くリミナを揺さぶる。

 すると。


「ん……んん……」


 寝ぼけ眼で、彼女は徐々に意識を覚醒させていく。


「……ポロ……ポロ?」

「うん、僕だよ」


 そして完全に目を覚ました彼女は大きく目を開き。

 涙を流しながら、がっしりとポロの体をホールドした。


「ポロっ! もう、なんであんたは……もう! 心配したんだから! すっごい心配したんだから!」


 目覚めた彼女の前に映る、無垢な顔を浮かべた獣人。


 あの時地下水路で流されていったポロの姿がフラッシュバックし、そして無事自分の前に現れたことに安堵して、リミナは怒りながらも嬉し泣きで、愛くるしい彼を強く抱きしめた。


「うん、ごめんね」


 ポロはリミナの頭を撫でながら謝罪をすると、自分の肩を貸しながら彼女を起こす。


「立てる? アルミスの居場所が分かったから助けに行こうと思うんだけど」


「平気、貧血気味だけどまだ戦える」


 明確な行き先を見出したポロにリミナは頷き、二人は再び歩き出した。

 だが部屋を出る途中、リミナは人型に崩れた壁を見て。


 ――クロナがいない…………。


 先程倒したクロナの姿がなく、戦った痕跡だけがその場に残っていたことに違和感を覚える。


 ――アタシが気絶してる最中に逃げたの? 無防備なアタシにトドメも刺さずに?


「リミナ?」


 キョトンとしながら見つめるポロに「なんでもない」と首を振り、リミナは一先ず疑問を保留にした。

 今はアルミスの救出が先であると、余計な思考を振り払い。





ご覧頂き有難うございます。

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