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空駆ける黒妖犬は死者を弔う  作者: 若取キエフ
第三章 水の都 海底に渦巻く狂乱編
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109話 一方その頃バルタ一行は……


 キメラ隊を逃れ、再び上層へ急ぐポロ達。

 その傍ら、彼らよりも先に上の階に向かったバルタ達は。


「約束通り、主犯の二人を連れてきたぞ」


 とある一室にて、グラシエはメイラーの前に二人を差し出す。


「くそっ、放せ! 放しやがれ!」

「た~すけて~」


 バルタとナナは各々それらしいと思う演技を見せメイラーを欺くが。


「……せめてそれっぽく振る舞ってくれない? あなた達から余裕の表情がにじみ出ているの」


 バレバレの演技にメイラーは溜息を吐く。

 その様子に、グラシエは「ふん!」とつまらなそうに漏らした。


「こいつらが自ら捕虜になりたがってたんだ。条件を破ってはいないだろ?」


「ええ、たしかに。二人を殺せとも命じてないしね」


「約束だ。オレの仲間を解放しろ」


 グラシエが言うと、メイラーは「ああ、それね」と微笑を浮かべた。


「もうその必要はないと思うけど……」


「どういうことだ?」


「脱走しちゃった。突然現れた犬獣人の子供に鍵を開けられちゃってね」


「獣人の……子供?」


「そう。おまけにとっても強くてね、なかなか手を焼いているのよ……」


 その言葉に、バルタは小さく笑った。

 メイラーの言う獣人は間違いなくポロであると。


「そうか……逃げられたか……」


 グラシエは安堵しながら静かに頷く。


「これであなたの懸念はなくなったでしょ? 良かったわね。そこで追加のお仕事を頼みたいのだけど……」


 と、メイラーが告げると。


「ああ……だがその前にいいか?」

「なに?」


 突然、グラシエはメイラーの腹部に強烈な拳を打ち込んだ。


「がはっっっ!」


 一瞬何が起きたか分からず、メイラーは宙を舞いながら地面に倒れた。


「うあっ……が……なん……で?」


「わりぃな、オレに付けたこの『服従の首輪』、もう効果がねえんだわ」


 ニヤリと笑みを浮かべ、グラシエは拳を鳴らす。


「これで心置きなくてめえもゴルゴアもぶっ潰せる。楽に死ねると思うなよ?」


「ま……待って! 私の話を――」


 と、言い切る前に、彼女はメイラーの顔面を殴り飛ばした。


「うあっっ!」


 メイラーは壁に衝突すると、体を震わせながらグラシエに訴える。


「待って……ホントに……大事な話、だから……」


 そんな彼女の胸倉を引っ張り上げると。


「ああ? なんだ、言ってみろ。どうせ今度はその獣人を始末しろとか言うんだろ? もしくは今更になって命乞いか? どのみち聞く気はねえけどな」


 と、凄むグラシエにメイラーはブルブルと首を振った。


「違う……違うの! あの子が、パルネがここに来てるのよ!」


「っっっ?!」


 途端、グラシエはメイラーを掴んでいた手を離す。


「なんで、あいつが……てめえまさかパルネも!」


「知らない! 知ってたら私だって止めたわよ! あの子は、私の唯一の友達だもの!」


 するとメイラーは突然、グラシエの前で土下座し懇願した。


「お願い……私はどうなってもいい! ただ、あの子だけは……パルネだけはゴルゴアから救ってあげて」


「お前……」


「あいつの言いなりになるのは私だけで十分。汚れ役は全部私が引き受ける! だから……お願い!」


 それは彼女の切なる願いだった。

 本来グラシエ達をこの研究所に捕らえたのも、ゴルゴアの企みを潰す為。

 あわよくば彼女が暴れて研究所を滅茶苦茶にしてくれると信じて。


 その為ならばかつての仲間に恨まれようとも、メイラーはゴルゴアの忠実な部下として振る舞った。

 心を削り、身を削り、いつの日かキメラ実験を終わらせようと、ずっと夢に見て……。


「あいつはどこにいる?」


 グラシエが問うと、メイラーは奥のモニター画面を指差した。

 そこには様々な部屋の様子が映されており。

 その中の一つ、主要モニタールームの画面にゴルゴアと、隣には眠った様子のパルネが映っていた。


「ここから一つ上の階に、あの子がいる。だから……」


 そう言うと、グラシエは呼吸を整え。


「バルタ、ナナ、オレはこれからダチを助けに行く。そこに研究所の親玉、ゴルゴアもいるんだが、お前らも来るかい?」


 無理強いはしないという意味合いを込めて二人に尋ねた。


「聞くまでもねえ、もちろん俺も行くが…………ん?」


 言いかけて、ふと、バルタは一つのモニターに目をやる。

 そこにはポロとリノ達が見たことのない魔獣の群れに襲われている光景が映されていた。


「リノ、みんなも……良かった、無事だったか」


 つられて見るグラシエも、仲間の姿を見つけたことで安堵するが。

 バルタは難しい顔を浮かべる。


「だがあの数……いくらポロでも厳しそうだな」


 苦戦しそうな戦況に、バルタは彼女と共に行くか躊躇いを見せた。

 するとナナも、バルタの袖をつまみながら別のモニターを見やり。


「……マナ、吸引具……」


 重いトーンで、そう口にした。

 ナナの見るモニターに映っていたのは、両手両足を拘束されたアルミスの姿。


「あ? なんで王女様がこんな場所で……」


 バルタが疑問を抱いているとメイラーは頭を下げながら答えた。


「ごめんなさい、私が捕らえたの。アルミス王女の持つ魔力は、常人よりもずば抜けて高いから……研究所のエネルギー源に利用されるのよ」


「はあ? 国の王女だぞ、見境なしかよ……」


 呆れたように返すバルタ。

 その横で、ナナは神妙な面持ちでその画面を凝視していた。

 そんなナナを見つめながら、バルタはこれからの行動指針を決める。


「グラシエ、お前は先に行ってくれ。俺はそこに映ってる獣人と、お前の仲間の助太刀に一度戻る」


「ああ、分かった。頼んだよ」


 グラシエが了承する中、ナナはバルタを見つめたまま。


「バルタ、私は?」


「ナナ、お前は……囚われの王女様を助けてやってくれ」


「私……が?」


「ああ、他人事じゃねえんだろ? お前の顔を見れば分かる」


 そう言われ、ナナは自分を顔をペタペタと触り、どうしてバレたのか疑問を抱く。


「その王女様も俺の知り合いなんだ。どうか頼むよ」


「バルタ、女の知り合い多い」


 と、頬を膨らませ不機嫌な様子を見せるが。


「でも、助ける。あの機械、二度と使えないようにする」


 思うところがある彼女は、「ふんす」と鼻息を漏らし意気込みを見せる。


「うはは、それでこそ俺の相棒だ」


 そして三人はそれぞれの救出の為、三手に分かれ散って行った。





ご覧頂き有難うございます。

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