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空駆ける黒妖犬は死者を弔う  作者: 若取キエフ
第一章 世界の支柱、『黒龍の巣穴』攻略編
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10話 暗躍する者


 情報漏えいダダ漏れなバルタの一言で騒ぎになりそうだと感じたポロとリミナは、彼を連れて早々に店を出ることに。





 そして夜も更けた頃、酒場はそろそろクローズ作業を始めようかという時だった。


「レイちゃん、後は僕がやっておくから君はもう上がっていいよ」


 マスターは従業員の少女に退勤許可を出す。


「え、でもまだお客さんが……」


 店にはカウンターにたった一人、先程の黒服の女性だけが残っていた。


「彼女は僕の知り合いなんだ。店を閉めてから二人で飲もうと思ってね」


 と、気さくに話すマスターに従業員の女性も納得した。


「そうなんですね。ならお言葉に甘えて……ふふ、ごゆっくり」


 二人の関係が気になり妄想を膨らませながら、女性は笑みを浮かべて店を出て行った。



 そして二人だけの店内で、黒服の女性はマスターに問う。


「オニキス、あの子達の話、あなたも聞いていたでしょ?」


「ああ、もちろんだとも、ルピナス」


 あの子達、とは紛れもなくポロ達のことである。


「今日はやけに城への来客が多いと思ってね、彼らの後を追って来てみれば……案の定。どうする? あの子達の話が本当だとしたら、近々『黒龍の巣穴』が荒らされるわよ」


 オニキスと呼ばれたマスターは「う~ん」と考えながら葡萄酒を注ぎ、ルピナスと呼ばれた黒服の女性の前にグラスを置く。


「ルピナス、君は鑑定スキルを持っていたよね? 彼らの強さはどれくらいだった?」


 ルピナスは葡萄酒を一口飲み、一息吐くと。


「冒険家の二人、お嬢ちゃんと竜人ドラゴニュートの子はさすがね。純粋な身体能力だけなら私達に匹敵するわ。Sランクの称号は伊達じゃないみたい」


 芳しくないといった表情で、彼らのステータスを覗き見た結果を伝える。


「それだけならまだいいのだけど……私の隣にいたワンちゃん」

「ああ、フリングホルンの飛行士と言っていたね」


 先程のポロの姿を想像する。


「冒険家でもないのに、あの子もなかなかに強いの。しかも能力が不明」


「不明?」


「鑑定出来なかったのよ、私のスキルでも。こんなの初めてだわ……」


「未知数か……なるほど」


 オニキスは再び考える。状況の打開策を。


「まあ、この国の『浮遊石』枯渇問題は前々から噂になっていたからね。いずれは『世界の支柱』に手を延ばすことは予想していた。どうやらロアルグ王も手段を選んでいられない状況らしいね」


 そしてオニキスはショットグラスに蒸留酒を注ぎ、一気にあおる。


「わりと住み易かったんだけど、この町ともお別れだ。僕は一足先に『黒龍の巣穴』に潜るよ」


「私も行くわ。さすがにあなた一人では荷が重いもの」


 しかしオニキスは首を横に振る。


「いや、君は予定通り西の町へ向かってくれ。あの人(・・・)の話が正しければ、新たにこの世界へやってきた転生者がいるはずだ。仲間への勧誘は君が適任だからね」


 彼の言動にルピナスは溜息を吐いた。


「それはいいけれど、またロクでもない奴が仲間になるかもしれないわよ?」


「その時はその時さ。……ああそうそう、たしかにルピナスの言う通り、僕一人では難しい仕事になる。だから代わりとして君の使役している統治者(アーク)級の魔物を三体程借りてもいいかな?」


「好きに使って。その代わり、絶対に魔鉱石を奪われないでね。あれを維持しなければ私達が元の世界へ帰る手段が潰えるのだから」


「分かっているさ」


 そしてオニキスはグラスを持ち、ルピナスのグラスに軽く当てる。



「これは僕達転生者とこの世界の者達による、陣取り合戦だ」










 一方、セシルグニム城内でも、人知れず密会が行われる。


 就寝前の読書を楽しんでいたアルミスの元に、突然扉のノック音が聞こえた。


「どうぞ」


 姫の許可が下り、入ってきたのは騎士団の一人、オーグレイという中堅格の男だった。


「失礼致します。この度は私めのわがままにお付き合い頂き大変嬉しく思います」


 オーグレイが敬礼すると、アルミスは部屋のソファーへ腰を下ろす。


「構いません、それで? 話というのは?」


 オーグレイは昼間のうちに、人目につかない場所でアルミスとの面会を所望した。

 二人にとって利点のある話だと持ち掛けて。


「はっ、六日後に行われる『黒龍の巣穴』攻略部隊に私めも参加させて頂きたく、姫様のお力を借りたく思い参上しました。どうか私めを推薦してもらえるよう、姫様から陛下に口添えをお願い出来ないでしょうか?」


 アルミスは静かに頷きオーグレイに返す。


「それはいいのだけれど、あなたが攻略部隊に加わることで私にどんな利点があるの?」


 すると、オーグレイはニヤリと笑みを零す。


「はっ、失礼ながら姫様は以前より『黒龍の巣穴』へ向かわれたいと仰っておりましたので、その手助けを致しましょうかと」


 その言葉を聞き、アルミスは目の色を変えオーグレイに顔を近づける。


「えっ! 私を連れてってくれるの?」


「もちろんでございます。最深部にあるという、特別な力を持つ魔鉱石……姫様がその魔鉱石に魅了されるには理由があるのですから」


「理由?」


 アルミスは食い気味にオーグレイの話を聞き入れる。


「はい、姫様が執拗に『世界の支柱』の魔鉱石に執着するのは、あなた様が魔鉱石に呼ばれているのではないか、と」

「……? どうして私が?」


 アルミスは首を傾げた。


「それは姫様が世界中のマナから愛される素質をお持ちだからですよ。あなた様は特別なのです。神に選ばれた特別なあなたを、特別な力を持つ魔鉱石が離れた土地で魅了し、いざなっている。そう私めは考えます」


「……そんな、私は特別なんかじゃ」


「ご謙遜をなされますな、あなた様は選ばれた存在。いつまでも城の中でくすぶっていてはお辛いだけでしょう?」


 オーグレイはもう一押しと言わんばかりに畳みかける。


「採掘された後の魔鉱石など抜け殻同然。ダンジョン内にあるからこそその力は輝くのです。姫様もご覧になりたいでしょう? 坑道の中で生き続ける宝石の輝きを」


 アルミスはしばし考え。そして答えを出した。


「……分かりました。私はあなたを支持します。だから私を連れて行って、『黒龍の巣穴』へ」


「かしこまりました。必ずや姫様をお連れすると約束致しましょう」


 オーグレイは一礼をしながら、下げた頭の死角で笑みを零す。





 それぞれの思惑が渦巻く大規模なダンジョン攻略。

 国の救済か、支柱の守護か、はたまた個人の私欲か……。


 神の采は勝者に向けて傾き始める。





ご覧頂き有難うございます。

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