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空駆ける黒妖犬は死者を弔う  作者: 若取キエフ
第三章 水の都 海底に渦巻く狂乱編
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102話 立ち塞がる騎士 サイカ、リミナサイド


 地下水路にてポロとはぐれたリミナとサイカは、彼らと合流出来ることを願いつつ、第二王子に連れていかれたアルミスの捜索にあたる。


「くそ、どれだけ広いんだここは!」


 地下水路から脱出して数時間、二人は見慣れない金属で出来た内装と、あまりにも広い研究所の空間にげんなりしていた。


「魔鉱石を用いた機械がそこら中にあるし、テティシアの技術力はアタシらの想像もつかない程進歩しているみたいね」


 辺りを見渡しながらリミナは歩を進めると。

 ふと、前方から甲冑の音が聞こえてきた。


「警備兵か? こうも殺風景だと隠れる場所もないな……」

「戻っても出口はないしね」


 現在二人のいる場所は、宴会でも開けるくらいの大広間。

 加えて周囲には監視カメラ以外何もない寂しい空間。

 逃げも隠れも出来ぬ状況に、二人は警戒しながら前方より近づく甲冑兵と対峙する。


 現れたのは、魚人ギルマンで構成されたテティシア国の騎士達だった。


 その数二十。

 サイカとリミナを見ても動揺しないことから、予め二人がこの場にいることを知っている。そして最初から武装しているところを見るに、平和的に事が進むわけはないと二人は予想した。


「ふむ……たった二人を相手に我らが呼ばれたのか。ずいぶんと舐められたものだ」


 魚人ギルマンの男はつまらなそうに吐きながら、三又の槍を構える。


「大人しく連行されるならば良し。抵抗するならば命はないと思え」


 騎士達は二人を取り囲むようにジリジリと迫る中。

 サイカは両手を挙げ、抵抗の意思はないと示しながら男に訴えた。


「待て、私達はアルミス様の付き人として来た者だぞ。それを知ったうえでこの狼藉を働くということは、セシルグニムへの宣戦布告と捉えてよいのか?」


 未だ騎士達は立ち止まることなく。


「さあな、団長からの命令だよ。ハイデル様の邪魔となる者は排除せよとのことだ」


 サイカの首元に刃を突き付ける。


「ハイデル……テティシア第二王子か」


「その通り、俺達にも派閥があってな、ハイデル様が次期国王となれば俺達の地位は安泰なんだ。あの方がどこまで考えているかは知らんが、俺達はただ命じられた仕事を実行するのみ。故に、貴様らの王女をダシに内乱を起こそうと企てているわけだ」


 と、その男の言葉に、サイカの目の色が変わった。


「どういう意味だ?」


 サイカが問うと。


「膨大なマナを内包しているアルミス王女を、研究所の魔力補給の糧として捕らえ、第一王子、アデル様にその責任を取らせるんだよ」


 ニタリと下卑た笑いを見せ、サイカを挑発する魚人。

 すると突然、サイカの中心から凍える程の冷気が放出され、周囲の地面が瞬く間に凍結した。


「な……なんだこれは?」


 足元が凍り付き動けなくなる魚人に向け、サイカは男の顔面を掴む。


「つまりは国のくだらない兄弟喧嘩に……姫様を巻き込んだということか?」


「ひ、ひぃいいいい!」


 サイカの殺気に、周囲の騎士達は身も心も凍り付く。


「ちょっとサイカ……その魔力はヤバイって!」


 エルフでなくとも感じ取れる程の魔力量に、リミナはサイカを止めるが。


「姫様はどこにいる? 吐け!」


「し、知らない! それは本当に聞かされていないんだ!」


「ならば用はない」


 サイカの殺気と魔力はさらに増幅し、フロア全体に滞る冷気が一気に爆発した。


「【永久凍土ペルマフロスト!】


 サイカがそう唱えた瞬間、彼女の周囲に巨大な氷塊が生み出され、二人を取り囲んでいた騎士達は全員氷の壁に封印された。


 幾つもの氷のオブジェを前に、リミナは安堵のあまり腰を落とし。


「……アタシも巻き添えくらうかと思った」


「安心しろ。頭に血が上っていても、敵と味方の区別はつく」


 広範囲の上級魔法を眼前で放たれた手前、そんな言葉は気休めにもならないとリミナは内心思う。


「この人達、死んだの?」


 そして凍り付けにされた騎士達を見ながらサイカに尋ねた。


「いや、ただ凍結しているだけだ。時がくれば自然に溶けるさ。それに、私の意思で解除することも出来る」


 リミナはほっと息を吐く。

 明らかな敵意を持ち襲ってきた魚人だが、上の指示で仕方なく、という理由であったならば命を取るには気が引けると考えていたから。


 そんなリミナの心を察し、サイカは「お前はそれでいい」とリミナに告げる。


「私が彼らを殺さなかったのは法的な理由だ。戦争以外で他国の兵士を殺めると国の責任になるからな」


「でも、躊躇なくアタシ達に武器を向けてきたけど?」


「実際私達は肉体的被害を受けてはいない。一兵卒の訴えなど証拠にはならんさ。だが、彼らの言う通り姫様に危害を加えたとあらば話は別だ。問答無用で両国は戦争に発展し、そして戦争になれば私も容赦なくこいつらの首を刎ねているだろう」


 法に従順なサイカに「さすが生真面目な騎士様だこと」と呆れながらも安心した様子で返すリミナ。


 そんな時だった。



「さすがは『氷姫の魔剣士(ひょうきのまけんし)』、この程度の数じゃ足止めにもならないわね」



 再び奥から複数の騎士が集まり、その中心には騎士団長であるミュレイヤが立っていた。


「貴女は、テティシア騎士団団長、ミュレイヤ・エル・ロックバード」


「お初にお目にかかるわ。セシルグニム騎士団副団長、サイカ・カザミ・ベルクラスト」


 顔を合わせたことはなかったものの、他国の情報が流れてくる際に、二人は互いの顔と名声を知っていた。

 それだけに、サイカは複雑な表情で彼女に問う。


「そなたのお噂は聞き及んでいる。長年テティシア領を守り抜いた、『大海の歌鳥(たいかいのうたどり)』と」


歌鳥人セイレーンのわりに歌は得意ではないの。だからその名はあまり好きではないのだけれど……そう、あなたに名前を知ってもらえて光栄だわ」


 クスリとミュレイヤは笑顔で返す。


「だからこそだ。そなたも……テティシア第二王子の側に付いているのか? アルミス様を捕えた者に」


「ええもちろん、私はハイデル様が幼き頃からの世話係だったのよ。ハイデル様が望むものはなんだろうと叶えてあげる。名声だろうと、愛玩動物キメラだろうと、他国の姫君だろうと。それが私の使命なの」


 サイカは軽く息を吐くと。


「ずいぶん過保護なのだな。……その甘さが第二王子に悪影響を与えたのか?」


 自分との相違の違いに、ミュレイヤの意志を真っ向から否定する。


「……なんですって?」


 すると、ミュレイヤは鋭い眼光をサイカに向け。


「撤回しなさい、私の愛を侮辱したその言動を」


 細長いレイピアを鞘から引き抜いた。

 そしてサイカもまた腰に下げた剣を抜き、切っ先をミュレイヤに突きつける。


「断る」





ご覧頂き有難うございます。

これから数話、サイカとリミナの話が続きます。

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