100話 解放と逆襲
ポロの精神体を呼び戻し、本体の意識を覚醒させた後。
エキドナ、アラクネ、スキュラの三人は常闇の空間で彼を憂う。
「さて、エキドナ、スキュラ、この肥大した闇をどう思う?」
「闇魔法を使い続けた代償ね。あの子自身無自覚だけど、精神は徐々に浸食されてる」
「先程もワタクシ達が迎えに来なければ、あのまま奈落よりも深淵の闇に飲まれていたでしょう」
三人は思い思いにポロの精神状況を説く。
「闇属性はその強力さ故に諸刃の剣。並みの胆力では精神がもたんじゃろう」
「はい、使い続ければいずれ心が壊れ、自我を失う恐れがございます」
と、心配する二人に。
「その為に私達がいるんでしょう?」
エキドナは微笑を浮かべ、自分達が何故彼の中にいるのか、その役目を二人に再確認させる。
するとスキュラとアラクネも同調し。
「ええ、もちろんです。簡単に主様を闇堕ちさせたりなど致しません」
「そうじゃな。短き人族の人生、その命尽きるまで、しばしの間わしらが面倒を見てやるとしようぞ」
ポロの支えになろうと、永き時を生きる魔人達は彼の中で再び眠りにつく。
いずれ彼の闇が浄化され、真に自分達が彼に弔われる日を願いながら。
三体の魔人の助力により、死の淵から生還したポロ。
パチリと目を開け周囲を窺うと。
状況は左程変わってはなく、変化と言えばただ一つ、この場にパルネがいないことだけ。
だが、それが一番の問題だった。
「目が覚めたか? 坊や」
ふと鉄格子の奥から聞こえた声に振り返ると、リノが安心したようにポロを見つめる姿が。
「急に倒れたからヒヤッとしたよ。命の恩人に目の前で死なれたらいたたまれないからね」
「お姉さん……」
「リノだよ。さっきはあーしらを庇ってくれてありがとね」
と、信頼の目を向けるリノに。
ポロは思い出したようにピッキングツールをポーチから取り出し、鉄格子の扉を解錠した。
「驚いたね、坊やは盗賊なのかい?」
「ううん、僕は飛行士。船長のポロだよ」
ポロは首を横に振ると、「ちょっと失礼」と言いながらリノの背中によじ登り、彼女に装着された拘束具の鍵穴もカチャカチャと弄り解錠する。
「昔お姉ちゃんに色々仕込まれたんだ。何かあった時一人でも生きていけるように」
「そりゃ弟思いだこと……。ふぅ、ありがとう。これで自由に動けるよ」
長い時間拘束されていた体をコキコキ鳴らしながら、他の仲間達の拘束具も解錠するポロに礼を言うと、自分の体を見ながら魔法を唱えた。
「とりあえず服がないと格好がつかないな……【幻影装甲】」
そう唱えると、突然彼女の体から霧が生まれ、それは徐々に鎧の形に変わり。
自分と仲間達に、動き易さを重視した軽装のドレスアーマーを身に纏う。
「うん、一先ずはこれでいいか」
そして全員が解放されると、リノはポロに尋ねた。
「ポロって言ったね? あんたはパルネの仲間なのかい?」
「成り行きで一緒に行動してるんだ。セシルグニムの王女の護衛として」
と、自分で言いながら、ふと今の状況を思い出す。
「そうだ! パルさんとアルミスを助けなきゃ。リノさん、僕どれくらいの間眠ってたの?」
「小一時間くらいだね」
「ヤバイ結構時間が経ってた! リノさん、みんなを地上まで送ってあげたいけど、先にやらなきゃいけない事があるから僕はもう行くよ。敵は出来るだけ僕が惹きつけるからその間に上手く逃げて」
そう言って彼女達の元から離れようとした時。
「待ちな」
リノに呼び止められ、ピタリと足を止めた。
「パルネを助けに行くならあーしも行くよ」
と、ポロへの協力を申し出る。
「いいの? せっかく自由になったのに。それに……さっきの話ぶりから、パルさんとあまり仲が良くない感じに見えたけど」
「ああその通りさ。鈍くさいし気弱だし、助けに来た挙句にまんまと自分が捕まるし、ホント迷惑な奴だけど……まあ、あーしらのリーダーなら、きっと同じようにしただろうからね」
溜息を吐きながら、「それに」と続けて言う。
「憎めないんだよ。あいつの優しさは本物だから」
「……そっか」
リノは本心からパルネを拒絶していたのではない。
心配だからこそ、この場から早々に逃げてほしいという思いがあったのだと、ポロは思った。
「いいね? みんな。今から姉御に代わってあーしが指揮をとる。まずはパルネの救出、そしてポロのアシストだ。くれぐれもこの子を死なすんじゃないぞ!」
「はっ!」
リノが指示すると、他の者達は同時に敬礼する。
「さあて、どうせ無駄死にする命だったんだ。せいぜい暴れ回って、あの男に報復してやるか」
と、自分らを拘束したゴルゴアとメイラーに向け復讐心を燃やすリノ。
一同はポロを中心として、パルネとアルミスの救出に向かった。
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ようやく100話を迎えました!
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