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空駆ける黒妖犬は死者を弔う  作者: 若取キエフ
第三章 水の都 海底に渦巻く狂乱編
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99話 姉達に囲まれて


 光のない常闇で、ポロは延々と宙を彷徨っていた。


 ――ここは、どこだろう?


 コルデュークに首を刎ねられた後、気づくとポロはこの場所にいた。


 ――僕、死んだのかな?


 そう思った瞬間、突然目の前が光出し。

 過去の情景が映し出された。






 荒廃した村。

 戦火の後の焼け炭の匂い。

 雨雲が覆う灰色の景色。

 その中にポツンと、小さな獣人は蹲っていた。


 ――あれは……僕?


 無表情で、無感情で、ただ一人廃れた景色を見つめる子供。

 幼き日のポロだった。


 ――ああ、僕の住んでいた村が戦争で滅んだ時か……。あんな顔してたんだ、僕。


 そんな過去の自分を眺めていると。

 一人の女性が幼いポロに近づき、優しく頭を撫でる光景が映し出された。


『君、一人? お父さんとお母さんは?』


 慈愛のある、優しい笑顔を浮かべた猫型獣人の少女。

 のちに、ポロの姉となるクルア・ミーアという少女だった。


 ――クル姉……。


 姉の顔を思い出し、心臓を締め付けられたように胸が痛むポロ。

 泣きそうになりながらも、ポロはその光景を見続けた。


『分からない……顔、知らない』

『そっか……』


 そう言うと、クルアはポロの隣に座り。


『ウチと一緒だね。ウチも親の顔知らないんだ』


『いっしょ?』


『うん、一緒』


 ニコリと笑いかけ、そしてクルアはあるお願いをした。


『ねえ君、ウチの家族になってくれない?』


『かぞく?』


『そう、ウチがお姉ちゃんで、君が弟』


『おねえちゃん……』


『うん、お姉ちゃんだよ』


 言いながら、クルアはポロを強く抱きしめた。


『これからは、ウチがずっと守ってあげるからね』


 その言葉と抱擁があまりにも優しくて、幼いポロは赤子のようにわんわんと泣き出した。


 何もなかった世界に、大事なものが生まれたから。

 すがりつくように、決してクルアを離さなかった。








 ――……懐かしいな。


 そう思った瞬間、プツリと情景は途絶え、再び常闇の世界へと放り出される。


 先程と違うのは、奥から何者かが近づいてくる気配があること。


 ――あれは……。


 目の前に映るのは、実態を持ったエキドナとアラクネの姿。


『ようやく見つけたわい。ずいぶんと深くまで意識を沈めていたようじゃな』


 ポロの元までやって来ると、アラクネは子を愛でるように彼を抱き寄せ頬ずりをする。


『ちょっと、なんでいつもあんたが先なのよ! 私にも抱かせなさい』


 と、エキドナとアラクネはポロを巡って取り合いが始まった。


 ――何、この状況……。


 軽く引いた様子で二人を見つめると。

 我に返った二人はコホンと咳払いをし。


『こうして会話をするのは初めてね、ポロ』


 くだらない戯れなどなかったかのように仕切り直した。


『ここはあなたの深層意識の中。あなたの本体は今、深い眠りについているわ』


 分かり易く説明をするエキドナにポロ尋ねる。


 ――エキドナ、僕の言葉が分かるの?


『ええ、もちろん。私達は意識を共有しているのだから』


 ――なんか、二人共前よりも理性ある雰囲気になったね。


『私達は元々魔人族よ。あなた達よりも長く生きている分知識があるの。ルピナスとかいう女に精神操作をされてなければね』


 と、ルピナスを思い出し怒りを露わにするエキドナ。

 そこにアラクネも話に加わり。


ぼん、お前が解放してくれたのじゃ。あの時の恩は忘れぬよ。それはあ奴も同じ気持ちじゃろうて』


 そう言って、アラクネは奥を指差す。

 すると、遅れて現れたのは、地下水路でポロと戦ったスキュラエンプレスだった。


 ――スキュラ?


『あの、この度はワタクシめの頼みを聞いて下さり心からの感謝を申し上げます』


 ――なんか、二人と違ってずいぶんへりくだった感じだね。


『あなたはワタクシの恩人です。ならば誠心誠意あなたに尽くすことが当然の礼儀。何卒、ワタクシを馬車馬の如く酷使して下さいませ』


 ――重いよ……別に僕は強要しないし。あとさり気なく君も僕の中に居座る流れになっているし。


『ご迷惑でしょうか?』


 ――いいけどさ。


 と、スキュラと話していると。

 エキドナは先程起きた出来事を告げる。


『それよりもポロ、あの男、パルネをさらって行ったわ』


 ――え、まずいよ。早く助けに行かないと。


 するとアラクネはポロを抱きかかえ。


『そういうわけでの、お前はとっとと目を覚ますがよい。わしらがちゃんと送ってやる』


 そのまま上のほうへと上昇してゆく。










 しばらく進むと、遥か上のほうから光が見え、自分の意識が目覚める時なのだと理解した。

 そして出口が見えた途端、アラクネはポロを上へ放り投げる。


『さあ行け。そしてもうひと頑張りしてくるがよい』


 三人に見送られ、ポロは光の先を目指し浮上する。

 その途中。


 ――ねえ、またみんなに会えるかな?


 ポロは三人を見ながら問うと。

 皆はクスリと笑い、アラクネはポロに返す。


『当然じゃろ? 何せ、わしらはお前の『姉』じゃからのう』


 その言葉に、ポロは満足気に頷いた。

 そして三人の姉達に見守られながら。


 ポロは光の中へ消えてゆく。





ご覧頂き有難うございます。

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