9話 とある酒場で2
外見にコンプレックスを持つ女性は、ポロの発言に怒りを露わにする。
「上等じゃないこのガキ! アタシはこれでも成人してんのよ、これを見なさい!」
と言って席を立つと、彼女が取り出したのは一枚のカード。
これは冒険家の経歴が記された証明書である。
そこにはしっかりと年齢の欄に二十歳と記入してあった。
「へえ~見た目によらずお姉さんなんだね。何々……リミナ・ハルチェット。種族は人間、冒険家ランク……えっ?」
その文字にポロは一瞬目を疑った。
「S!? Sランクって最上級の冒険家だよね?」
「ふふん、これで分かったかしら? アタシは大人の女性でしかもトップランカーの冒険家なの。分かったら今しがた抜かした発言を撤回し――」
と、リミナの説教が始まろうとした頃。
「お待たせ、高山ヤギのミルクと岩石猪の炙りベーコンだよ」
「あっ、ありがとうございます」
ここぞというタイミングでマスターが料理を運んできた。
「聞けよコラッ!」
ガブリとベーコンをかじりながら、ポロはリミナへ振り返る。
「ふぇ? あ、もめん、ひょうどりょうりがひたはら(あ、ごめん、丁度料理が来たから)」
「食いながら喋んな!」
リミナに怒られ、ポロは静かに咀嚼。そしてミルクを味わいながら飲みこみ一息。
「ふぅ~、それで、なんの話してたっけ?」
「アタシを子供扱いしたことについて謝罪しろって言ってんの!」
謝罪しろとは言っていなかった。
「ああ、それね、けど元はと言えば君が僕の注文にいちゃもん付けてきたのが原因だし、別に外見で人の優劣は決まらないから気にしなくていいと思うよ」
わりと的を得た言葉と、絡んだのは確かに自分だと改めて思い、リミナは口をごもらせながら席に戻る。
「……知った風な口利くじゃない、ところであんたはいくつなの?」
「多分十三くらい」
「多分て……」
自分の事なのに曖昧な回答を出すポロに呆れた声を漏らす。
「僕、幼少期の頃の記憶がなくてさ、親の顔も分からないんだ」
だが、続けて言ったポロの身の上話に、リミナは少しバツの悪い表情を浮かべた。
「記憶喪失ってやつ?」
「うん、なんか僕の生まれ故郷の村が戦争の被害に遭ったとかで、その影響で記憶に障害が出たんじゃないかってお姉ちゃんが言ってたんだ」
「お姉さんがいるんだ」
何気なく聞くと。
「血は繋がってないんだけどね。猫型獣人のお姉ちゃんが僕の面倒を見てくれたんだ。……まあ、もう随分前に亡くなったんだけどね」
寂しそうな笑みを浮かべながらミルクを飲むポロに、リミナは先程まで抱いていた怒りはいつの間にか消えていた。
「……なんか、ごめん」
「謝ることじゃないよ。あ、マスター、溶岩鳥のモモ肉フライ下さい」
そして、話を切ったポロに少し安心しながら、リミナも追加でエールを頼む。
それからしばらく、二人は雑談を交わした。
「なんだ、ポロってば飛行士になる前は冒険家やってたんだ」
「一年間だけね。Bランク止まりだったし、稼ぎも安定しなかったから今うちにいる同僚と一緒に飛行士の資格を取ったんだ」
「たった一年でBランクまで上がるのも相当な速さだけどね。勿体ない」
などと話していると。
「ちょっといいかしら?」
突然、ポロの右隣に座る女性が話に入ってきた。
「二人の話を聞いてたら少し興味が湧いちゃってね。私も混ぜてくれない?」
魔導士風の黒いローブを羽織った、どこか大人びた女性。
彼女はニコリと笑みを零しながら二人に尋ねる。
「二人共あまり見ない顔だけど、この町へは観光で来たの?」
彼女の質問に、国王からの依頼ということを伏せて返答した。
「仕事です。物資の運搬でこの町に寄りました」
と、事を荒立てずに終わろうとすると。
「アタシは国の依頼で来たの。貴重な魔鉱石を運搬する為にね」
「貴重な魔鉱石?」
「そう、『世界の支柱』って呼ばれる場所があるでしょ? あそこの最深部にデカい魔鉱石があるらしいから、それを採掘して来いって内容でね」
リミナは隠すことなく公に国の依頼を口走った。
「ちょっ、リミナ……それ機密情報……」
と、ポロが小声で言うと、「はっ!」と口を押さえ冷や汗を滴らせる。
「え、っていうかポロ、それを知ってるってことは、まさかあんたが輸送係なの?」
「だから機密保持しなよ……」
もはやごまかしの効かない発現に再び口を押さえるが、黒服の女性はニコリと笑顔を見せ「大丈夫」と一言。
「少し驚いたけど、私口は堅いほうだから安心して。……それにしても、『世界の支柱』にねぇ……」
一安心する二人だが、それを聞いていた人物は他にもいた。
その男は突然ポロのリミナの背後へ回ると。
「なんだなんだ、お前ら『黒龍の巣穴』攻略部隊だったのか! 実は俺もそうなんだよ」
ポロとリミナの肩に腕を回し、二人の間に顔を近づけパーソナルスペースを脅かす。
彼は竜人と呼ばれる種族。
基本的に外見は人間と左程の違いはない。ただ竜の尻尾と翼が生えており、他種族よりも身体能力が高いことが特徴的である。
その男は場の空気などお構いなしで二人に笑いかける。
「俺はバルタ・スルト、嬢ちゃんと同じSランク冒険家だ。よろしくな!」
ボリュームを抑える気のない竜人の男に、黒服の女性は苦笑い。
そして二人は青ざめた表情でその男を見つめた。
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