嘘廻り
"眼鏡を壊したのだ~れだ"
俺がベットで寝付けないでいるとそんな声が聞こえてきた。不思議に思い起き上がると枕の横に眼鏡を見つけ血の気が引いていくのを感じる。
=これってもしかして=
俺が今日寝付けなかった理由、それは親友の安弘に憤りを感じ眼鏡を壊してしまったからだ。彼は眼鏡を凄く大事そうにしていた。だから、憤りをぶつけるには彼の眼鏡を壊すのが最適だと思った。今だから言える、壊さなければ良かったと・・・。
それなのに何で目の前に眼鏡があるんだ、何であるんだよ・・・
俺にチャンスをくれるって言うのか?
俺がこれを見つけたと言えば感謝されるだろう、俺が壊したなんて思われないだろう。
本当の事を言わずに済むのだ・・・
でもそれで良いのか。
*********
俺は翌日安弘を校門の前で見つけ眼鏡の話を持ち出した。
「安弘...」
「ん、おお和也か」
安弘は、特に怒っている様子もなく普段通りの表情を浮かべる。その表情を見て、俺は自分が眼鏡を壊したことに改めて後悔した。胸が痛かった、なんであんなことをしてしまったのだろうか。
言わないと・・・
「その、眼鏡...」
「ああ昨日ちょっとなくしちゃったんだよね」
俺が壊したんだ・・・
「いやその...」
「俺がお前の眼鏡」
「俺の眼鏡?」
俺は気づかない内に自分のポケットに手を入れているのに気づいた。
「見つけといたよ」
「え」
俺はいつのまにかポケットに入っていた眼鏡を取り出し、いつのまにか安弘に見せていた。
いや、いつのまにかじゃないか・・・
眼鏡をポケットに入れたのは俺だ・・・
「おお!!サンキュー」
本当は眼鏡を壊したことを言うはずだった。だけど、安弘が嬉しそうな顔をして、俺は安堵した。
嘘をついてもバレなければ良いのだ。本当の事を言って傷つくよりもよっぽどましだ。
そう考えたら何故か楽しくなってきて、心の中で俺は笑った。
=安弘が馬鹿で良かった=
"あ~あ、だめだなぁ。そんなことしちゃう君にはお仕置きだね~"
「おい」
俺が優越感に浸っていると、安弘が声音を変え問いかけてくる。その声は酷く重く、俺の額からは汗が流れる。
「お前、俺の眼鏡壊しただろ」
俺は、全身から寒気を感じ、体を振るわせた。先ほどまで眼鏡のことを知らなかった安弘が、普段通りだった安弘が、突然得たいの知れない物に感じ、恐怖を覚えた。
「な、何のことだよ」
「俺はそんなこと・・・」
「正直に言え」
言えるわけがない。今の安弘に言ってしまったら、取り返しの付かないことになる。そんな気がしてならなかった。
「俺じゃない・・・」
「そうか」
「あ、ああ・・・」
「分かった」
安弘はそう言って、笑顔になった。それを見た俺は安堵する。
「じゃあ、死ね」
「は?」
いまなんて言ったんだ。聞き間違いだろうか。いま安弘は死ねといったのか。ははは、冗談だよな・・・
安弘がそう言うとそれに答えるように学校、住宅街、公園、近場のあらゆる所から人がよってくる。まるでゾンビ映画を観ているようだった。
「え・・・」
「な、何だよこれ・・・」
「なんなんだよぉおおおおお」
そのあまりにも異様な光景に俺は逃げることしかできなかった。
だけど逃げても逃げてもその光景は変わらない。俺はいつのまにか人に囲まれ、その囲いは加速度的に広がっていく。もう逃げることはできなかった。
「あ・・ああ・ああ」
嘘つき、嘘つき、嘘つき、嘘つき、嘘つき、嘘つき、嘘つき、嘘つき、嘘つき、嘘つき、嘘つき、嘘つき、嘘つき、嘘つき、嘘つき、嘘つき、嘘つき、嘘つき、嘘つき、嘘つき、嘘つき、嘘つき、嘘つき
俺を囲む人たちは皆嘘つきと言いながら俺に近づいてくる。
「お、俺が壊しました・・・」
「俺が壊しました!!」
「正直に言います、正直に言いますからぁ!!」
その異常な光景にただただ本当の事を漏らすことしか出来なかった。
それだけが唯一の救いだと信じて。
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい」
「嘘をつきました・・・」
しかし、そんな俺の言葉など聞いていないかのように、所々から何かを取り出す音が聞こえてくる。その音は金属が擦れるときと同じ音に聞こえた。よく見てみるとそれはカマ、包丁、鍬、鉈、様々な刃物に見えた。
彼らはそれらを持ち俺に向ける。
そして
「あ・・・ああ・ああああ・・」
「お、お願いします!!嘘をついてました、嘘をついていましたからぁあああああああ」
「命だけは、命だけはぁああ!!」
俺を八つ裂きにした。
*********
ガバッ
俺は思わず飛び跳ねた。そして、死んでないことに驚愕した。夢だったのか・・・
俺の枕の横には眼鏡がない。良かった、あれは夢だったんだ・・・
俺はそのまま朝食を取り、支度をして学校に向かった。そして安弘を見つける。
「安弘...」
「ん、おお和也か」
夢と一緒の、いつも通りの表情を安弘は浮かべる。夢を想像した俺は、軽い吐き気を感じた。
「その、眼鏡...」
「ああ昨日ちょっとなくしちゃったんだよね」
「いやその...」
「俺がお前の眼鏡」
「俺の眼鏡?」
「壊しちまったんだ・・・」
あんな夢を見て嘘なんかつけるわけがない。いくら誹謗を言われても八つ裂きになるよりはましだ・・・
それに、壊してしまったことは本当に申し訳ないと思っている。最初から素直に謝るべきだったんだ。
「やっぱりか~」
「え」
安弘の言葉に俺は驚愕した。そして、知っててなおいつも通りに接してくれてた事に胸が締め付けられた。
「怒らないのか・・・」
「ああ、怒らないよ。だって俺達親友だろ」
俺はその言葉に安堵した。安弘の笑顔を見て安堵した。自然と笑みがこぼれた。やっぱり嘘をつくのはいけないことなのだ。本当の事を言いづらくても、言わなければいけないときはあるのだ・・・
「だからさ、死んでくれ」
俺の胸にはいつのまにか刃物が刺さっていた。
*********
昔々、やんちゃで遊ぶのが好きな少女がいました。しかしその少女は自分の仲間に騙されて亡くなってしまったそうです。少女の死に方は凄惨でその姿を見た人はある言葉を言いました。
「ああ、なんて酷い死に方なんだ・・・。この子はこれから人間を呪う。それは、ずっと、ずっと、ずっと、終わることはないだろう・・・」
嘘をついている人、嘘をこれからつく人。その人達の中でも、嘘のせいで誰かを傷つけてしまうはずだった人はある夢を見るそうです。そしてその夢に共通することが一つ、それは「永遠と回り続ける」ということ。