プロローグ
闇に堕ちた世界、孤独な黒で埋め尽されたこの狭い箱の中で、どれだけの時間を過ごしたのだろうか。
お腹が空いたという感覚も、怖いという感情も、私にはもうない。
今あるのは、
「もう、死なせて……」
ただ、それだけだった。
涙も枯れ果てた。いや、最初から涙を流すほどの期待なんてものは、私にはなかったのかも。
だから、死が早く訪れるのを、今か今かと待っていた。皮肉にも、それだけが唯一の救いだったから。
瞳を閉じて、そして……
「……ざけんなっ、そんなに死にてぇんなら、一度だけ、俺のために生きてみろっ。それでも死ぬっつうなら、その時は、俺が……俺が殺してやるっ……だから、生きろっ」
必死に叫ぶ彼の言葉が、全てを閉し始めていた私の心の中に響いてきて。
その声に導かれるように、私は手を伸ばしていた。
----はい
音にならない声で紡いだ二文字に、優しく応えるかのように、彼は私の小さな手を強く握り返してくれた。
そして、一気に眩い光の世界へと導いてくれる。
期待をしてしまったのかもしれない。これから私が生きることを許された世界を、見たくなってしまったのかもしれない。
だから、瞳を開けてしまった。
私の瞳に飛び込んできた残酷なまでの緋色が瞼の裏に焼きついて、それはすぐに悲鳴へと変わる。
目の前にあった現実は残酷だった。それなのに、私の手が掴んでいる現実は優しくて。
立つことすらままならない私を受け止めてくれたのは、鎧に包まれた大きな体躯と場違いなほどに優しく漂うラベンダーの香り。
その優しさに包まれた瞬間、私は一瞬にして意識を手放した。
私は、孤児院襲撃事件の生き残りだ。