表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/7

経営者の【夜逃げ】

 「志○けんが宇○宮中央病院で亡くなった」

という偽情報が流れた頃、

私は地方の塾で働いていた。

もう二十年以上昔の話である。


 「東京は暑過ぎる!」

という事で、

(夏の間だけ涼しい地方でも行くか?)

と思って。


 私は、

とある地方都市の責任者に、

その年の七月一日から就任していた。

 

 八月二十五日だったと思う。

夜九時過ぎに、

業務終了の電話連絡を経営者にして、教室を閉めて帰ろうとしたら、

突然、

経営者が「来る」と言い出した。

本部から車で三十分以上かかるので、

今まで、

一度も来た事が無い。


 そして、

経営者が到着すると、

いきなり二十五万円を渡された。

この給料を私に手渡しするために、

わざわざ来たのだそうだ。


 「今後も働き続けてくれるか?」

と、

その経営者に聞かれたので、

(ああ、

もう夏休みも終わるな。

地方の秋じゃ物寂しいから、

東京が良いか?)

ちなみに、

東京のアパートは借りたままだったので、

いつでも東京へ戻れた。


 そして、

「塾を買わないか?」

これにも、

私は答えなかった。


 それから三日後だったと思う。

いつもの様に午後一時に教室入りし、

エアコンの前で涼んでいた時、

本部から電話が架かって来た。


 「△△が逃げた」

△△は経営者の偽名である。

それに続いたのが、

「やっと、

【夜逃げ】してくれたよ」

電話の主は、名目上、私の上司だった。

でも、

その上司から指示された事は一度も無い。

「お盆の夏季合宿で、

数百万円集まっただろ!

それ持って逃げる様に奨めたんだけど、

何をトチ狂ったのか?

夏季合宿やっちゃって!

今頃、

やっと逃げてくれたよ」


 その上司は喜んでいた。

経営者が【夜逃げ】したのに。


 「どうも、

八月十八日に新入塾生が入ったらしい。

その金を持って逃げた様だ」

その塾は、

入塾金、授業料を一括で百十八万円払うと、

大学に合格するまで、何浪しても追加料金が発生しないシステムだった。


 電話は、それで切れた。

経営者が【夜逃げ】をしたという緊急事態なのに、

今後の指示とか、

全く無かった。


 ただ、

「東京へ戻る?」

と聞かれたので、

「もう少しだけ居ますよ」

と答えた。

『東京へ帰って遊ぶ』という選択肢も有ったのだけれど。


 理由は、


1 東京は、まだ暑い。


2 塾での労働は、

仕事とは名ばかりで、

実質、遊びだった。


 その塾では、

講義は行われず、

講師は生徒の質問に答えるだけ。

このシステムだと、

前もって予習するのは不可能なので、

その御蔭で、何も準備しなくて良い。

しかも、

質問に来るのは、

一浪の女の子と高三の女子の二人しかいない。



 話はズレるが、

この時代は、

女子高生のスカートが極端に短く、

スパッツの様な『スカートの中を見せても良い物』は、

当時の女子高生の感覚では、

「中坊みたい」

でダサかったらしい。


 私の様な親父が、女子高生と会話するためには、

『お金を払う』のが一般的だと思うが、

私は、

『お金を貰って』おしゃべりを楽しんでいた。

実際に、

とある女子生徒は、

近所の公園で一人でボーッとしていたら、

知らないオッサンに、

いきなり一万円札を四枚見せられて、

付いて行ってしまったそうだ。


3 展開に恵まれたら、

塾を乗っ取るつもりでいた。


 「塾を買わないか?」

と、

経営者に聞かれて、

何も答えなかったのは、

実は、

金の計算をしていた。

塾を買って利益を上げるための。

でも、

タダで手に入るのなら。

ちなみに、

この時は、

『居抜き』という言葉は知らなかった。

まさか、

その後に、

『朝鮮人と私~朝鮮人八人にボコられそうになりました、もちろん日本でです』の第十七話で書いたK君が、

『居抜き』で有名になるとは!


 そして、

その次の日、

教室のエアコンで涼みながら昼メシを食っていると、

また本部から電話が架かって来た。

今度は前日の上司とは、

別の幹部から。

「昨日も労基署へ行ったんだけど、

今日も行って圧力をかけるから、

応援に来てくれないか?」

そう、

前述の上司や幹部連中が経営者の【夜逃げ】を望んでいたのは、

この労基署が、

お目当てだったのだ。

 


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] こういう体験談はとても非日常的で面白い。 自分の身に危険が無ければなんかワクワクしますよね。 朝出社したら正門をトレーラーが塞いでたり。 倒産のどさくさに無茶苦茶やる人が居たり。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ