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傀儡使いと獣耳少女の世界遍歴  作者: つくし
第三章 コルマノン大騒動
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95 推測


 サラの身体を奪い取ったシェルムが、その黄色い瞳でバロットの方へ瞳を向け、じっと細める。バロットは息を整え、再び袖の中からナイフを滑らせ両手に掴んだ。


套賊(とうぞく)とはよく言ったものだな」


 バロットはそう言ってシェルムが新たに得た黄色い瞳をドス黒い瞳で見返した。


「『身体を奪い取る』――それがお前の能力だったはずだが、いつの間にか能力だけを抜き取れるようにもなってんじゃねェか」


「あァ~~? んなこと、さっきの一瞬で気づくかぁ普通?」


「発動条件は『接触』。武器同士による間接的なものも含まれてるな。接触時間が長いほど、多くの能力を抜き取れる……違うか?」


「……」


 バロットの言葉にシェルムがついに押し黙る。それから一つため息をこぼすと、手に取った刀を右手で遊ばせた。


「まァ。そういうことにしといてもいいんじゃねぇ~の?」


 面白くなさそうな面で手元の刀に目を移すシェルム。そんな彼をバロットは注意深く見張っていた。


 バロットによるシェルムの能力推測。それはいかにも知り尽くした風を装い発言されたが、それが正解であるという確証はない。シェルムの反応を見て、バロットの推測がどこまであっているのか答え合わせをする、または情報アドバンテージの開示による揺さぶりをかけるつもりだった。


 けれど、シェルムの反応がとても判断材料にしにくいものであり、バロットは内心で舌打ちをした。全く持って役に立たなかった反応というわけでもないのがせめてもの救いか。


 バロットの推測は半分ほど的を射ている。だが、どこかニュアンスが違う。シェルムの態度をもとにして、バロットが立てた解答だ。


 その場で立ち尽くし、勝負を一時中断しているバロットとシェルムの二人。その嵐の前の静寂を打ち破ったのは、先ほどの勝負を口を開けて見つめることしかできなかった、ステフだった。


「な、何をしている貴様ら!? 早くアイツを叩き潰せ! 数で押し込むのだ!」


 ステフと同じように、幻想が入り混じった三人の戦闘に尻込みしていた使用人たちに、そうやってステフは怒鳴る。その声にビクリと背中を震わせた使用人たちだったが、それと同時にバロットと対峙していたシェルムが割り込んでステフの方を振り向き、まさに鬼の形相ともとれる圧巻とした表情で怒鳴り返した。


「うっせぇぇええ! テメェらカスはすっこんでろ! こいつの相手は僕一人で――」

「――」


 それは圧倒的な隙でもあった。バロットは一瞬にして自身の体を透過させ、シェルムの懐へと駆けこむ。


「っ!」


 はっとしてシェルムはバロットの方へ視線を戻すが、すでに遅い。そこにはすでにバロットの姿はなく、代わりに自身の体を吹き飛ばす衝撃がシェルムを襲った。


「ぐっ……!」


 毒づくシェルムはそのまま屋敷の二階の窓へと吹っ飛びガラスをぶち割って、ガラスの破片と共に中へと倒れ込んだ。


 そのシェルムを蹴り飛ばしたバロットは、自らにかけた透過を解くとステフ率いる使用人たちをギロリと黒い(まなこ)で見返す。その深淵を想起させるような瞳孔に、ステフと彼率いる使用人たちは一斉にびくりと恐怖で顔が引きつった。


「俺は死体を積むことに疑念はない。……死にたい奴は出てくるといいさ」


 バロットはそう言って屋敷へと向かって歩き出す。その様子に使用人たちは手も足も出せず、一歩下がって歩くバロットを見つめることしかできなかった。使用人たちへ怒鳴ったステフでさえも、息を呑んでそれを見守っている。


 バロットはついに屋敷の目の前、すなわちステフが立つ前までたどり着いた。彼の両隣に構えていた二人のA級冒険者はすでに二歩ほど後ずさっており、ステフはバロットに対して一人で直面している形になっている。


 そんな状況で、バロットはステフの目の前で立ち止まり、手を顔につけて小さく笑う。


「――臆病者め」


 それだけ告げると、バロットは地面を蹴った。横に跳んで着地すると、もう一度地面を蹴って、今度はシェルムが吹っ飛ばされた二階の窓へと飛び乗った。窓の内側の縁を掴み、躊躇なく部屋の中を覗く。


「……」


 豪華な装飾の施された部屋の真ん中には、二本の足が折れて壊れているテーブルがあった。さらにその倒れたテーブルには真ん中にヒビが大きく入っており、恐らくシェルムはこのテーブルに背中を打ったのだろうと推測できる。


 部屋の目につく物はそれほどしかなく、肝心のシェルムの姿はなかった。恐らく彼はサラの異能である『幻惑』を使って、その部屋のどこかに潜んでいるのだろうか。けれど、その部屋と廊下を接続する白い扉はキーキーという音を立てて半開きの状態でかすかに動いている。それだけ見るとシェルムは急いで部屋を出たということもありえた。


 とりあえず、バロットは部屋の中へと足を踏み入れた。


「……さて」


 完全に待たれている戦況。バロットはナイフを両手に構えたのだった。

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