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傀儡使いと獣耳少女の世界遍歴  作者: つくし
第三章 コルマノン大騒動
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92 背負う結果

「ディヴィさん、役所にも自宅にもいなかったらしくて、今父さんが探してる。私はシアン達が帰ってくるかもしれないから、ってことでここに残ってたんだけど」


 ディヴィとは、昼頃『彩食絹華』でライニー家のアホ息子とシアンが遭遇した際に、そのアホ息子の案内役をしていた男だ。この町の役人であり、ライニー家に何か動きがあれば知らせてくれる、と約束してくれた味方でもある。


「……探ってるのがライニー家にバレた、ってことかも」


 シルヴァは舌打ちと共にそう呟く。今日の襲撃も、ディビィは掴んでいたのかもしれない。それを知ってしまったことが原因なのか、はたまた違う原因なのかは定かではないが、それ故にディヴィはライニー家に捕らわれたという可能性も否定できないだろう。


「……どっちにしろ、こうなった以上は僕らも腹をくくらなきゃいけないか」


 少し考えた後に、シルヴァはそう言って立ち上がった。彼女ら二人の視線が立ち上がったシルヴァへと向けられる。


「今からライニー家に行く。もう遅すぎるかもしれないけど」


「遅すぎるって……」


 シルヴァの言葉にニーナが反応した。シルヴァはその返答をあえてせず、ただニーナに視線を返す。そこでシルヴァの『遅そすぎる』といった発言を生み出した最悪の推測を彼女も察したのか、少し視線を下へ向けて押し黙った。


 ただ、その推測できる最悪の結果というのは、本当に『最悪』の場合であって、それが現実であるとは限らない。しかしシルヴァはもうこのところ、何だかよくない選択ばかりをしている気がしていた。無責任に困っている人達(ドルフたち)に入れ込んで、その結果が今だ。


 果たしてその今が、『シルヴァ達が関わらなかった、もしもの今』よりもマシになっているのだろうか。ふとそんな思いが、シルヴァの脳裏に湧き上がってきていた。


「そ。じゃ、行こう」


 シアンも立ち上がり、シルヴァよりも少し低い視線から彼の瞳を見つめる。そしてニコっと笑ってみせた。


「私は君についてくよ」


「……」


 彼女の笑みを見て、シルヴァは不意にみぞおちの深くに冷たいものを押し付けられた感覚に陥る。そしてそれが、自らが背負っていた責任感であると理解して、密かに唇をかみしめた。


 シアンを『オレルゾー』から連れ出したのは紛れもなくシルヴァ自身であり、そしてこの場所でライニー家と対立することになったのもシルヴァに直接的な原因があるのではないだろうか。


 それはシルヴァがシアンに押し付けたものではなく、シアンが自ら決めたことであり、その選択による現在の状況に対する責任はシルヴァにあるとは言えないかもしれない。


 それでも、シルヴァは考えてしまった。


 ――もし、シルヴァがシアンを連れ出さなければ。


 こうなってはいなかった。

 殺し屋もどきを送ってくる人達と、危険な対峙をする必要もなかった。


 結局のところ、シルヴァは尻込みしていた。初めての経験ばかりだった。


 自らの意思で、生と死の境が見えるような不明瞭な今を選択すること。

 そしてその選択には、シアンという一人の命が付いて来ること。


 『支配』の力が成長する前はこんなことはしなかったし、そもそもできる立場でもなかった。脆弱な冒険者時代は同じ弱い立場の冒険者とパーティを組んで、小さく細々と生きていた。


 そこに危険と隣り合わせな選択を迫られる機会はなかったし、結果が自己の判断に直結する場面も極めて少なかった。


 『傀儡使い』という役職で生きてきたけれど、今考えてみると対して何も考えずに生きていた過去の自分自身こそが、面白くもない傀儡(にんぎょう)だったのかもしれない。


「シルヴァ?」


 立ち上がり、急に押し黙っているシルヴァにシアンは不安そうに首を傾げる。


 その仕草を見て、シルヴァは口元を緩ませた。


 こんなシアンの姿は、彼女があのまま『オルレゾー』いたら一生見られなかったかもしれない。


 恐怖のストッパーがかかり、言葉を言うことでさえも不自由だった、牢獄にいたシアンの姿が、目の前にいるシアンの背後にうっすらと浮かび上がった。しかしそれは今のシアンとは似ても似つかないもので、その二つの面影が重なることはない。


 ――これも結果だ。シルヴァは拳を握りしめる。


 今の状況がたとえ好ましくない結果を導くことになるかもしれないけれど、まだ結果は確定していない。その未来が来るかは、今次第なのだ。まだ変えられる範疇にある。


「行こうか」


 シルヴァはシアンの手を取り、彼女の青い瞳を真っすぐと見返した。


 彼女こそが、彼女をあの町から連れ出したシルヴァの結果。無感情な少女が、今では表情をコロコロと変える年相応の少女となった。それは本人の心情の変化や努力もあってこそだけれども、シルヴァの働きかけがあったこそであると言い切っても、(おご)りではないだろう。


「……うん」


 いきなり手を握られたシアンは恥ずかしそうに俯き、小さな声でそう返答した。小さなランプの明かりが、微かに赤らめたシアンの頬を照らしていた。


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