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傀儡使いと獣耳少女の世界遍歴  作者: つくし
第三章 コルマノン大騒動
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87 隣に立っている

 シルヴァとシアンは倒れ込んだサラの前に立つ。サラは視線を目の前の彼らに向けなおすと、立ち上がって刀を構えなおした。


 サラの背後は『支配の箱ヘルシャフト・カステン』で遮られている。つまり、この状況は物理的にサラを追い込んでいるといっても過言ではなかった。あと一押し、という感じだけれど、まだ彼女に対して与えられた明確な攻撃は肩を魔弾で打ち抜いたことのみ。


 詰めにはまだ足りない気がする。しかし、追い込んでいることには変わりがない。今このチャンスを逃すわけにはいかなかった。


 そうやって切羽詰まった表情をしていたシルヴァを悟ってか、サラはニヤリと笑って見せる。


「本当に、そう思う?」


 シルヴァの思考を推測したのか、シルヴァははっとしてサラの顔を見つめた。微弱ながらも色気のある表情で、彼女は背後の『支配の箱』に手を伸ばす。


 本来ならば、『支配の箱』は『支配』の力によって不動となった四方の壁が、その手の行き先を遮るのだろう。さっき、サラが吹っ飛ばされたときにその壁に激突して体が止まったことを考えても、それは明白だ。


 しかし、今回は違う。サラの伸ばした腕はそのまま『支配の箱』の中へ突入し、中にいるバロットへと伸びていった。


 それを見てシルヴァは慌てて『支配の箱』の作動を確認する。それを実際に理論的にこうであるとか説明することはできないが、シルヴァの感覚だと確実に『支配の箱』はこれまで通り作動していた。バロットの周囲を空間は、確かにシルヴァの支配に屈してどんな変化も許さない空間となっている。


「どうして腕が箱の中に……っ!」


 思わず口に出た疑心の言葉。ここでシルヴァはサラの能力の正体に気づき、すぐさま『支配』を発動させて、足元の水を空中へと舞い上げた。


「シルヴァ……?」


「分かったぞ……貴女の戦術が!」


 そして舞い上げて空中で霧散する無数の水滴を今度は『支配』を付与する。その目に見えないほど小さな水の粒すべてを『支配』し、感知モードに移行した。


 ――案の定だった。水滴で物理的に感知できた彼女の位置と、視界に映る彼女の位置が明らかに違う。さっきもそうだったように。つまりこれは――。


「後ろだ! この人は、僕らを視覚的に欺いてるんだ……! 言うなればっ」


 シルヴァは振り向き、水滴によって感知できた本来の彼女の位置に向かって『虚無の短銃(セフル・ラサーサ)』を放つ。


「――僕らは今、幻覚を見ていることになる!」


 放たれた魔弾を不可視なる彼女はしゃがんでかわしたようだった。水滴による感知はすでにシルヴァの感覚になじんでいて、彼はその位置を完全に把握できている。


 しゃがんだ彼女に向かって駆け出すと、シルヴァは血刀を振り下ろした。次の瞬間、二つの刃がかち合う音と共に幻は消え去り、目の前に刀で血刀を防ぐサラの姿が戻る。同時に、バロットのそばで『支配の箱ヘルシャフト・カステン』に腕を入れていたサラの姿は消えた。


「――ッ!」


 シアンもそれに乗じ、シルヴァの血刀を受け止めているサラに向かって、鎌を振るった。サラは少し厳しそうな表情をしながらシルヴァの血刀を弾き、刀を縦に構えてシアンの鎌による横降りを受け止める。


 自分の太刀筋を防がれたシアン。しかし彼女の表情に浮かんでいたのは、攻撃を防御されたときに見せるような浮かない表情ではなく、攻撃が成功したときに見せるような小さな笑みだった。


「それ、失敗だったね」


 サラがシアンの表情と状況の噛み合いのなさに何か勘付くも、すでに遅かった。


 シアンの鎌が急に稼働し旋回して、サラの横腹を切り裂いた。目を見開くサラは慌てて刀で鎌を薙ぎ払い、後ろに跳んで二人と距離を取る。切り裂かれたサラの横腹からは血が滴り、彼女は舌打ちをしながらそこを手で抑えた。


「『変幻自在』なんだよ。……ようやく私も、コツが掴めてきた」


 そういってニヤリと笑うシアンは、苦渋の表情を見せるサラに対して再び鎌を構える。シルヴァも彼女に倣い少しニヤつくと、『虚無の短銃(セフル・ラサーサ)』の銃口を彼女に向けた。


「……"二"対一だ。貴女に、これを突破できるのかな」


 シルヴァは胸の中で生まれた、得体がしれないけれどどこか嬉しい感情に浸りながら、そう宣言したのだった。


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