78 二対一②
サラはその場で黙って刀を構えなおす。シルヴァは左腕の激痛が遠のいていくのを感じながら、じろりと後ずさった。
このまま戦っていれば、シルヴァ達に勝利はない。まだサラしか戦線に復帰していないが、倉庫の中に吹っ飛ばした男も時期に復帰してくるのだろう。そうなってしまえばもう打つ手なしだ。
だから、そうなる前に身を隠す必要がある。
「……っ」
シルヴァは今更になって、『支配』の力を左腕の傷に行使した。その力で無理やり流血を止めれば応急処置ぐらいにはなる。少なくても、これで出血多量で死ぬことはなくなったはずだ。
ろくに頭が回らない中、シルヴァはじっとサラを見つめる。彼女は二人へ交互に視線を向けながら、隙のない姿勢で立ち尽くしていた。
彼女からすると、自分からリスクを課してシルヴァ達に攻撃する必要性もないのだろう。満身創痍のシルヴァはすでに戦力にならず、戦える残りはシアンだけ。さらに味方には直にあの男も介入してくる。
状況は簡単に言って最悪。『支配』の力で吹っ飛ばそうにも、杜撰な延命処置にしかならないだろう。それに、シルヴァの本能がそれを何となく嫌悪していた。『達人には同じ技は二度も通用しない』という言葉を聞いたことがあるが、それに通ずるものだ。尤も、『支配』の力をどうにかできる術など考えられないが。
いや、『支配』の対象はその体だけに取る必要はない。一旦引けるだけの隙があればいいのだ。つまり、逃避の手段を潰す武器を潰せれば良い。
「あっ……」
現場の緊張とは程遠いサラの声が小さく響く。シルヴァの『支配』が彼女の持っていた刀に作用し、それを手から弾いたのだ。
「――っ」
サラの手から武器が失われた瞬間を狙い、シアンはサラに飛びかかる。槍に変化させていた『液状武装』を襲撃の形式に合わせて鎌へと変換して、サラの体を上からぶった切る勢いでそれを振り下ろす。
サラは今度は消えることなく、軽い動きで後ろに跳んでそのまま回避した。シアンの振った鎌はそのまま空をかいて地面に突き刺さる。その威力を物語るかのように、砕けた地面の破片が辺りに散った。
それを見逃さず、シルヴァは飛び散った地面の礫を『支配』し、サラに向けて放つ。それは着地する寸前の彼女に向かっていき、その体は空中にあるために回避もできず、見事に命中して体勢を崩させて地面に落とした。
「一回退くか……っ!」
シアンと合流したシルヴァは彼女にそう言うも、同時にシアンの獣耳がピクリと揺れる。シルヴァにもその気配は何となく感じていて、すぐに男を吹っ飛ばした倉庫の方へ振り向いた。
そこにはこちらに向かって駆け出してくる男の影があった。サラと戦っている間に、男が復帰する時間に到達してしまったようだ。
「いや、問題ない……!」
しかし、今サラには石の礫を命中させて一時的にではあるがダウンさせたため、実質対処しなければならないのは男一人のみ。これだけならば、シルヴァの『支配』で対処できる。
シルヴァは向かってくる男に腕を上げ、『支配』を発動した。そして『支配』の力で男の体を絡めとる。
「これで……!」
「……ふ」
完全に『支配』が入った。男はシルヴァの『支配』のもと、完全制御に陥ったはずだ。
なのに――シルヴァは自分の本能が感じ取っていたことを忘れていた。『彼らにこれ以上支配の力を行使してはいけない気がする』という、本能からの忠告を。
「ぐ……は……っ!?」
その瞬間、シルヴァは吐血した。