表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
傀儡使いと獣耳少女の世界遍歴  作者: つくし
第三章 コルマノン大騒動
76/124

74 一瞬の疎通

 男に促されるがままに廊下へと押し出されるシルヴァ。廊下に出ると、同時に隣の部屋から同じような状況のシアンが丁度出てきて、シルヴァは彼女と目があった。


「……」 


 暗い廊下で交わされる二人の視線。シアンはそっと顔のそばに右手を寄せて、すぐに下した。その一瞬の挙動の真意をシルヴァは刹那に理解する。


 右手の小指にはめられていた指輪――恐らくあれは『液状武装』だ。隣の部屋から大きな物音がしたわけでもなかったし、それを侵入者に明かしていないと踏んでいたが、今のシアンのほんの些細な動きでそれに確信が持てた。


 ――侵入者たちは、シルヴァの『支配』とシアンの『液状武装』、その両方の武器を未だ認知できていない。


「……奇遇だな、サラ嬢。まさかほぼ同時なんて。そっち行く手間が省けた」


「……ふん」


 暗闇でも分かる赤毛の女――サラは男の言葉に対して鼻を鳴らし、そのままシアンを突き動かして階段を下りて行った。男もため息をした後にシルヴァをつついて、階段を下りていく。


 一階を経て、ガラガラと店の玄関を開けて4人は夜の町へ繰り出した。町は閑散としていて、遠くに明かりと小さな人の音が聞こえるけれど、少なくてもドルフたちの店の周りは暗く静まり返っている。


「左だ」


 侵入者の二人はシルヴァとシアンを前にし、その後ろから二人を歩かせた。シルヴァとシアんの二人は抵抗せずに従う。


 シルヴァには男のナイフが後ろから突き付けられているが、シアンはサラと呼ばれた赤毛の女からは何もされていない。それでもシアンが彼女に従っているのは、シルヴァがわざと大きく叫んだ例の『僕たちは抵抗しない』発言に倣っているのか。それとも、サラは男のように物理的な凶器を添えずとも、シアンの行動を制限できるような能力があるのか。


「左」


 後ろで歩く男からの指示に従い、その通りに前を歩くシルヴァとシアン。シルヴァは男の指示通り、左へ道を曲がった。その際にちらりと、シアンの表情を窺う。後ろの二人に勘繰られないように、不自然なく。


 その隙を利用しようとしていたのはシアンも同じだったようだ。視線を密かにシアンに向けたシルヴァと丁度目があった。同時に、シアンは右手で眠そうに目をこする。


 その一瞬をシルヴァは見逃さない。(はた)から見れば、ただ左折するだけのなんて事のない一瞬。この一瞬を二人は意思疎通の貴重な時間として(あて)がった。


『次ノ角』


 シアンが右手で手をこすっている中、その小指にはめていた指輪がうねうねと動き、姿形が変わっていた。『次ノ角』という文字に変形したそれは、後ろの二人からは見えない角度で展開されている。そしてその瞬間は、左折の際のほんの一瞬のみ。後ろの二人がその密談に気づく余地すら与えない短い時間。


 1秒以下の意思疎通が過ぎて、再び普通の歩行に戻る4人。しかしシルヴァとシアンの心情には確かな変化があった。


 ――次に僕たちが曲がる角。そこを曲がった瞬間が、後ろの二人に仕掛ける時だ。


 心の準備は万端だった。後は『その時』がくるのを待つだけ。


 しかしそれは、突然顕現したイレギュラーによって、かき乱される。


「おい、止まれ」


 前を歩くシルヴァとシアンに、後ろの男が声をかけ、足を止めた。ピクリ、と二人の肩が震え、前を向いたまま足を止める。


「……」 


 背後から男にじっと視線を向けられているのをシルヴァは肌に感じていた。


 バレたのか……? いやそれは少しおかしい。この暗闇の中で、あの一瞬の意思疎通を見破れるはずがない。


 時間は刻々と過ぎていく。男は依然として何も喋らず、じっとシルヴァを睨みつけていた。


 その場の緊張に、シルヴァは息を呑んだのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ