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傀儡使いと獣耳少女の世界遍歴  作者: つくし
第一章 傀儡使い、獣耳少女と出会う
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7 終わりは唐突に

 シルヴァは両手を広げ、辺りの塵を操り、鋭い刃へその形を変えていく。


 シルヴァと距離を取れば、支配の能力にかかることはなくなる。しかし、ゴルドもゴルドで攻撃手段が皆無になるのだ。


 彼の戦闘スタイルはどう見ても超近接タイプ。拳を武器に、敵を粉砕していくのが主。


 遠距離での攻撃の選択としては、道具を投擲するぐらいしかないはず。


 何より、シルヴァには成長した能力で物質を操れるようになっていた。超能力(テレキネシス)のように手に触れず物質を動かせるのは朝飯前で、塵を合体させて簡単な武器などを作り出すのも可能なのだ。


 これを能力で造った武器を飛ばせば、遠距離でも戦える。


 そして、さらにシルヴァは高所を取っていた。ゴルドの動きが上から丸わかりだ。これでは有利は動かない。


 シルヴァは建物の三階にできた穴から、注意深くゴルドを見つめていた。


 が、次の瞬間、彼の影が一瞬にして消えた。否、高速で移動したのだ。そして、その方向とは、


「あ、あの野郎……ッ! 本気か……!?」


 シルヴァがいる建物の一階。ゴルドは、この建物を崩壊させて、近づかずにシルヴァを地面に叩き落とすつもりのようだ。


 そんな滅茶苦茶なこと、できるできない以前に、普通の頭なら思いつかない。


「いかれてる……」


 ぐらりと揺れ、その後ドンドン壁が割れて崩壊していく部屋の中で、シルヴァは呆れて呟いた。


 まだ建物の中には人がいるはずだ。こんなことをしたら、生き埋めになること間違いなしであろう。それに関わらず、ゴルドはこれを実行した。


 このことから、ゴルドは人の命を私欲で散らせる人間であるということ。


 このままちんたら戦えば、もっと被害が出るだろう。


 シルヴァもシルヴァで、人のことを言えたことではないが、無駄な殺生については大反対だ。脱獄の際に何人か気絶させてしまったが、それでも無駄な殺しには嫌悪感を持っている。


 とにかく、だ。このままこの建物の崩壊を待っているわけにはいかない。


 さっきまで塵で作った刃を放棄し、シルヴァは自らが入ってきた穴から、下へ飛び降りた。


 どんどん落下していく中、空中に舞っている砂の一粒一粒を配下において、砂の翼を形成する。そしてそれを背中につけて、鳥の如く緩やかに着地しようと試みた。


 しかしそれには強烈なぁ痛みを伴う。重力が体を地面に吸い寄せ、それに抗う砂の翼。翼と体の接合部分である背中に重力の全ての力がかかり、それはまさに皮を剥ぐ勢いだった。


「……っ!」


 シルヴァは歯を噛みしめ、痛みに耐える。そのまま落下スピードを調整しながら、なんとか地上へ着地した。


 着地した瞬間、役目を果たした砂の翼が塵と化す。


 直後、何かがこちらへ突撃する気配を感じ取った。すぐさまその辺の瓦礫をを集め、盾を作成した。刹那、ゴルドの拳がさく裂し、その力に盾が割れてシルヴァは再び吹っ飛ばされた。


 今度はほとんど地面と平行に吹っ飛び、壁をかすめて大通りに吹っ飛んだ。そこにはちらほらと人がいて、屋台がいくらか並んでいた。シルヴァはその屋台のうち、ひとつぶち抜いて、壁に激突したところで止まる。


 今回は壁を貫通するようなことはなくてよかった、と服に付いたススを払いながらシルヴァは立ち上がった。


 すると、


「あっ」


 見覚えのある三人が、あんぐりと口をあけ、茫然としてシルヴァを見つめていた。


 シルヴァはその三人を見て最初に思ったことは、


 この三人にぶつからなくてよかったなあ。


 という、慈悲の入ったものだった。しかしその顔を見るに、どこか見知った顔であると首を傾げる。


 そして、思い出した。


 この三人、僕に放火の罪を押し付けた奴らだ。戦士の男と魔術師の女と弓持ってる女。間違いない、顔に見覚えもある。


 そう確信すると、なんだか怒りが込み上げてきた。この三人のせいで、こんなことに巻き込まれることになったといっても過言ではないのだ。


 シルヴァが一歩、彼らに近づくと、


「ひィっ!」


 と、彼らは一歩後ずさる。

 彼らは完全にシルヴァに対して恐怖を抱いていた。


 あの時は、シルヴァのことを弱気な傀儡使いとかいう、よく分からないマイナー職業の落ちこぼれ、といったように彼らは思っていたのだ。


 それが今では、考えられないほどの力を前にしても、このようにピンピンしている。彼らもあの闘いの一部始終を見ていたのだろう。


 その事実と、そんな化け物に、自分たちが放火の罪を無理やりに押し付けてしまった、という絶望。シルヴァが三人に友情を感じていないことは、明らかだった。


 戦士が震えて蒼白な顔になり、魔術師は泣きべそをかきながらその場で腰が抜けて動けなくなり、弓使いは立ったまま動かずただじっとシルヴァを震えながら見つめていた。


「君たちですか」


 シルヴァの言葉にビクッ、と体を震わせる三人。シルヴァを直接的に冤罪へ追い込んだ魔術師に至っては、恐怖故に失禁までする始末。


 その脅え切った姿に、なんというか、シルヴァは呆れしか出てこなかった。大きなため息をつくシルヴァ。

 そして――。


「――ッ!」


「……今、無駄話をしてんじゃねえ、って思いましたよね? ゴルドさん」


 高速で不意打ちを狙い、殴りかかったゴルドだが、その拳がシルヴァに届く残り数センチのところで完全に硬直していた。遅れて、その移動の際に発生した風圧がシルヴァと、あの三人を襲う。


 そんな強風に見向きもしないシルヴァは、能力で完全に支配下へ置いたゴルドに対し、たった一言だけ残した。


「貴方のような狂人と、仕事はできません」


 そのままゴルドを動かし、自らの腕で自らに拳を振らせ、気絶まで追い込むと、シルヴァはふうと息をはいたのだった。

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