63 妖美な
隣り合って座布団の上で正しく正座しているシルヴァとシアン。そしてテーブル越しに座るニーナであるが、その場にいる三人全員が気まずさを感じていた。
「……あの、お二人はどこから来たのです?」
「……え? えっと、『オルレゾー』で会って……」
「う、うん……そこから色々とあって……」
ニーナのギクシャクとした笑いが付随した質問に、シルヴァが曖昧に答えてシアンがそれに対し曖昧に肉付けをする。
それは本当にどこか空振り続けている会話だった。
ニーナの方も、若干の愛想笑いと話題作りに困ってきただろうというところで、丁度厨房の方から声がした。
「ニーナ! 料理を運ぶの手伝ってくれ!」
それはドルフがニーナを呼ぶ声だった。その口ぶりからして料理ができたのだろう。
それに対して、ニーナは表にこそ出さなかったが喜々とした様子で彼に返事をし、二人へ一言告げてから畳を出た。そして逃げるように厨房へと向かっていく。
「……」
残された二人。しかし当然なことながら、気まずさの中心である二人が残ったので、状況は変わらない。ただ、その中で部外者だったニーナがいなくなったところで、気まずいことには変わりないが、少しゆとりが生まれた。
ニーナがいなくなった後、少しの間だけ張り詰めた沈黙が流れる。
けれど、それはシルヴァのため息によって解かれ、そのまま彼は小さく言った。
「その、今言うことじゃないかもしれないけど」
シアンの視線がシルヴァに向けられる。シルヴァのその視線を感じながら、テーブルの何もない上を見つめて言った。
「さっきのは、すごく魅力的に見えたから、ちょっと混乱しただけで……」
「……え?」
目を丸くしてシルヴァを見つめるシアン。その視線についぞ耐えられなくなったシルヴァは、顔をぷいっと横に背けた。
「僕の見当違いな想いかもしれないが……。いつか……僕は……!」
シルヴァは覚悟を決める。
そしてシルヴァはシアンの方に体を向きなおし、そのまま身を乗り出す。シアンはそれにピクリと獣耳から全身にのぼって反応するも、彼から視線を反らさず体も引くことなく、彼の瞳を真ん丸な瞳で見つめていた。
再び見つめあることになる二人。今度身を乗り出しているのはシルヴァであり、その間に流れている沈黙もシルヴァの言葉によってすぐに放たれた。
「シアンに応えられるようになる……。だから、本当に恥ずかしくて情けないことだけど、少しの間だけ待っていてほしい……! いつかくる今度は、僕が――」
シルヴァはその言葉を最後まで言い切るつもりだったし、そこまでくればダメもとでも言ってやろうという心構えでいた。
けれど、それは白くしなやかなシアンの人差し指によって阻まれる。
シルヴァの口の前に立てられたシアンのその指と、それを実行したシアンの表情。獣耳をたらんと垂らし、瞳は心底暖かそうに細め、頬を少し紅潮させているその表情には、普段彼女からは見られないような妖美さに包まれていた。シルヴァは、その不思議な感じもあり親密さも感じる二律背反した感情に、思わず見惚れてしまったのかもしれない。
シアンは口を閉ざしたシルヴァに、ふふっ、と小さく笑うと、彼の口の前に立てた人差し指を自分の口の前に持ってくる。
そしてその表情でこち元を綻びさせながら、どこか楽しそうに、
「……待っててあげるよ」
と、言って見せたのだった。