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傀儡使いと獣耳少女の世界遍歴  作者: つくし
第ニ章 大魔道書『神々の終焉讃歌録』
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49 二種類の未来視

「……そういえば、アレンに聞いておきたいことがあったんだ。アレンなら分かるかもしれない」


「うん?」


 シルヴァの言葉に、アレンは片目を開けて意識を向けた。シルヴァはそのまま続ける。


「シアンのことなんだけど」


「私?」


 リンゴジュースを飲んでいたシアンは急に自分の名前を出されて、きょとんとした顔でシルヴァを見る。その視線を受けて、シルヴァは小さく笑みを浮かべながらも言った。


「未来視、といえばいいのかな。ゴルドと戦ってたときに、君が僕が戦っているのを見たっていうアレだよ」


「あぁ……」


 シーリングファンが静かに回っている。

 シルヴァの言葉にシアンは納得したようにうなずいた。シルヴァは彼女の理解を得たところで、アレンの方へ目を向けた。そして考える。


 恐らく、そのシアンの能力は今のところ任意で発動はできないが、通常の人間では見えないほどの遠くを視れるだけでも便利な能力である。加えて、未来も覗けるというのだから、その能力について冒険者として熟練者であるアレンの見解を聞き、できるだけ応用を利かせておきたかった。

 シアンは近いうちに冒険者としてシルヴァの隣で戦うことになるのだし、シルヴァ的にはそこらへんはしっかりとしておきたい。


 未来視、という言葉にピクリと反応したアレンは、テーブルに肘をついて応える。


「未来視、か。『未来を視る』という能力には大きく分けて二つの種類があるんだよね」


「二つ……? それって感覚で分かるのかな?」


 シアンは獣耳をペターンと傾げながら、そのまま首も傾げる。


「感覚で理解するのは難しいと思う。二種類ある未来視の内、見た内容でどちらなのか確認するのが手っ取り早いかな」


「……その言い草だと、もしかして未来視ができる人と会ったりしたことあったり?」


「勿論」


 シルヴァがふと呟いた疑問に、アレンは少し自慢気に笑って見せる。彼の力量からして、それもありえないと踏んでいたシルヴァであったが、実際にそう肯定されるとちょっと面食らう。こういう経験の差からも、アレンという存在の大きさがシルヴァの中に刻まれた。


 それからアレンはごほん、と咳ばらいをすると再び口を開いた。


「話を戻そうか。未来視には大きく分けて二種類ある、って話だったよね。その種類っていうのは『予測』と『予知』の二つだ」


 シルヴァとシアンの前で、アレンは右手の人差し指と中指の、二本の指を伸ばしてみせる。

 そしてそれから、左手で伸ばした人差し指を指した。


「まず『予測』による未来視は、まあ簡単に言えば『確定していない未来』を視る能力。現状の情報から未来を推測してそれを視る、っていう感じかな」


 アレンはそう言った後、次は左手を人差し指から離し、対木は中指を指す。


「で、もう一つの『予知』。『予知』による未来視は、『見た未来を未来として確定させる』能力……って感じ? こっちの能力の仕組みは分からないな。言うなら、こっちの未来視は本当の未来視って言えるかもね。見た未来が確実に来るんだから」


「……つまり『予測』によって見た未来は変えることができて、『予知』の方で見た未来は変えられない、ってこと?」


「うーん。まあ、そんな感じ? 正直、『予知』の方は希少なうえに危険だから、深くは分からないんだ」


「……そう。ありがとう」


 アレンの言うことに、二人はそろって手を顎につけて考える。


 シルヴァはその時のことを思い返してみて、シアンの未来視は『予測』と『予知』のどちらに当てはまりそうか考察してみた。


 シアンが未来視を視る前、最後にシルヴァとゴルドを見たのは、二人が直接戦う前だ。そしてその時点では、恐らくシルヴァはゴルドに勝てなかった。なぜならば、シルヴァの『支配』はゴルドとの戦闘中に成長し、それがあったからこそゴルドに勝てたのだから。つまり、シアンの持つ未来視は『予測』ではなく『予知』なのかもしれない。あの時点得られる情報から未来を構築し、それを視るとしたら、視れるのはシルヴァが敗北する未来だろう。


 いや、しかし。シルヴァは考えてみる。それからシルヴァはアレンへと問うた。


「『予測』は現状の情報から未来を推測する、って言ってたけど、その『情報』っていうのは具体的にどんなものなの……?」


「俺は未来視の力を持ってないからなあ……。『予測』の未来視能力持ちに聞いたことがあるだけで、具体的となると申し訳ないが……」


「いやいや、それだけ分かっても十分すぎるよ」


 ここでアレンを責められるほど、シルヴァは愚かではない。


 しかしその『情報』が具体的にどのようなものと分からないと、シアンの未来視の種類についての断定も慎重に行わなければいけない。


 もし、『予測』に伝われる情報に、普通の人では感じることのできないものが含まれているとするならば、シアンの未来視がシルヴァの成長性を(かんが)みて、シルヴァの勝利を視せたのかもしれない。

 まあそうなってくると、正直キリがない。普通の人が感じられることで『予測』の未来視が成らせるのならば、それは普通の『予測』に映像がついただけのものになる。


 それを考慮して、未来視の種類を考察するとするならば。


「『未来視』で視た未来を変えられるか否かで検証する、っていうのが一番なのかな」


「そうだね」


 シルヴァの言葉に、アレンも同意してお墨付きをもらった。そこでシアンが二人の会話の中へ入って行く。


「……実は私、ハーヴィンの戦ってるときも未来視? ができたみたいで……」


「え? いつ?」


「ほら、ハーヴィンにシルヴァが、ハーヴィンの姿を消す能力で後ろを取られたときだよ。ハーヴィンが何もないところから殴って、それをシルヴァが剣で受け止めるのが見れたの」


「……うーん」


 シルヴァは彼女の言葉を参考に、そのときのことを思い返してみる。


 確かそれは、シルヴァがハーヴィンの背後から剣を突き刺した後のことだった。シアンの『後ろに!』という言葉に気を取られて後ろを向いた瞬間に、ハーヴィンの姿を見失ったのだ。その後、彼はシアンの言った通り、背後の虚空から蜃気楼を利用して殴りかかってきた。


 結果的には、シアンのあの言葉の通りハーヴィンは後ろから姿を明かして殴りかかってきた。つまりシアンの未来視はそのまま現実となったということだ。


「あの時もそうだったんだ」


「うん。……この感じだと、私のは『予知』っぽいのかな?」


 シアンはそう言いながら、アレンの方を見つめた。アレンは彼女の言葉にうなずく。


「そう、だな。そう捉えるのに俺も賛成。……ま、確定はできないけどね」


 アレンはそういうと、目の前のグラス持って口に運んだ。

 その後、彼ははっとした表情になると、グラスをターブルの上に置いて席を立った。そして地下室の壁際に置かれているタンスのところへ行くと、その中から小さなビンと巾着を取り出す。


「そういえば、君らにお礼をするのを忘れてたよ」


 そう言いながら、タンスから出した二つをテーブルの上に置いて、再びイスに座った。

 紫色の巾着はともかくとして、小さな透明なビンは見る限り、中には透明な液体が入っているようだ。アレンは続ける。


「今回の件は、本当にありがとう。これは俺の感謝の気持ちだ。――特に、このビンの方は、世界に一つという代物なんだ。ぜひ、君たちに使ってほしい」


 と、アレンはそう言いながら小さなビンを手に持つと、なんとそのビンをテーブルの上にぶちまけたのだった。


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