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傀儡使いと獣耳少女の世界遍歴  作者: つくし
第ニ章 大魔道書『神々の終焉讃歌録』
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36 霊格

「アレン……っ!」


 シルヴァが囮として前に出た後、精霊鷹を飛び越え、シアンはシルヴァとは逆の方向にいるアレンとカレンのもとへ向かった。

 走りながらも手に持つ重く冷たい槍と盾が、シルヴァの隣に立つという『実感』をシアンに与えている。


「……」


「アレン……! カレンに何かあったの……!?」


 シアンが声をかけるも、アレンはうずくまるカレンの肩に手を乗せてばかりで、一向にこちらを見ていない。


 さらに心配になって、シアンはアレンの近くまで走り寄った。依然としてアレンはこちらを向いておらず、カレンの顔は長い金髪に隠れて見えない。


「アレン! 返事ぐらいは……」


 シアンはアレンのところに着いて、彼の顔が見える位置に移動する。


 シアンの青い瞳に、アレンとカレンの表情が映りこんだ。


「ア……レン……?」


 ――片眼を赤く染めたアレンが、顔中に亀裂の入ったカレンを押さえつける姿がそこにはあった。











 シルヴァは遠距離ながらも、青いサラマンダーを率いるハーヴィンと対峙していた。サラマンダーをよく見ると輪郭が若干ぼやけており、恐らくあのサラマンダーも精霊なのだろう。


「悪いけど……魔導書は渡せないよ」


 シルヴァは辺りの瓦礫を宙に浮かせ、ハーヴィンに狙いを定める。


 魔導書の内容は未だ分からず、アレンが具体的に何をしているのかすら分からないが、それでもハーヴィンに渡すわけにはいかなかった。魔導書の獲得という私利私欲のために、部下を爆弾にして起爆したり、他人の家を爆破したりする奴には基本的に何も与えたくはない。


「フッ……てめぇの能力には見当がついてんだよ」


「……ふーん、で?」


 シルヴァを小ばかにして笑うような態度をとるハーヴィンに、シルヴァは態度を崩さない。ハーヴィンは続けた。


「俺はな、精霊と視界を共用できんだよ。それで、部下全員に小型精霊を密かにつけておいた」


「……」


「だからお前が部下にしたことは全て見ていたわけだ」


 ハーヴィンの言うことを整理すると、奴の視覚が使役する精霊のそれとリンクしているようだ。


 そういえば、とシルヴァは思い返してみる。

 視界の悪い砂埃の中での弓による正確な掃射。あの時、上空には精霊鷹が飛んでいた。奴の言うことが正しいのなら、ハーヴィンは精霊鷹が上空から見たシルヴァ達の位置を把握していたことになる。上空に精霊鷹という第三の『目』があったからこそ、あの矢はシルヴァたちを正確に打ち抜いたのか。


 しかし、


「どうしてそんなことを言う? 貴方にとって、自分の情報を渡す利点はない。不利になるだけだ」


「――簡単なことさ」


 直後、ハーヴィンの後ろに佇む青いサラマンダーの精霊が大きな火柱を上げる。その炎が放つ光に、シルヴァは目を細めた。


「もう、精霊は使わねぇ(・・・・・・・)


 サラマンダーがその火柱の中に消え、いつの間にか火柱は青い光の球体となった。そしてそれは天に向かって飛ぶと、一気に降下する。その先にいるのは、ハーヴィンだ。


「……何を」


 シルヴァはそれを見てぼやいた。ハーヴィンは満足そうに笑う。


 青い球体は目測通り、ハーヴィンに落ちた。落ちた瞬間、激しい風圧と共に、辺りは青白い光によって埋め尽くされる。

 シルヴァも目をつぶり、それでも貫通する光に、思わず腕で閉じた瞳を隠した。


 数秒後光が止み、シルヴァは薄っすらと目を開ける。未だ少しぼやける視界の中心には、青い人影が立っていた。恐らくそれはハーヴィンだ。しかしどこか様子が違う。視界が鮮明になっていくにつれ、その全容が明らかになっていった。


 背中の後ろに青い半透明な光輪を浮かせ、輪郭はそこで淡く小さく燃え上がる青い炎によってぼやけていた。黒い瞳は若干青く染まり、背後にいたはずのサラマンダーは姿を消している。


「これは……」


 ちょっと、やばいな。

 シルヴァは頬に汗を流して、肌で感じるプレッシャーに苦笑いをした。


 (たたず)まいだけも分かる。あれはヤバイ。本能がその存在を拒絶するかのように、体中に重い重圧をかけていた。胸が苦しく、この場から逃げ出したい思いがあふれ出てくる。


「――お前の能力は『何かを操る能力』。つまり、他の物質に直接干渉する能力ってことだ」


 ハーヴィンは深く息を吐きながら、右腕をシルヴァに向けた。

 シルヴァは思わず、少し後ずさる。シルヴァを捉える奴の眼光に殺意が孕んでいて、胃の中の酸が逆流しそうになった。それほどに、今のハーヴィンから発せられる威圧はすさまじい。


 うろたえるシルヴァに、ハーヴィンは続けた。


「干渉する能力っつうのは、いわゆる格上には通じねえんだよ。精霊を憑依して霊格を底上げした、俺みたいな格上にはな」


 その瞬間、シルヴァは周りに滞空させていた瓦礫を一気にハーヴィンに向けて放つ。それらは猛スピードでハーヴィンを砕くがごとく進んでいった。


 それを見たハーヴィンは小さく笑うと、シルヴァの方へ向けていた右腕を軽く振った。刹那、奴に向かっていた瓦礫が一瞬にして青い炎に呑まれ勢いを失い、黒焦げになってその場に落ちた。


「さあ。てめぇを殺って、魔導書を回収する」


 精霊を憑依させ強大な力を得たハーヴィンは、シルヴァに向かって一歩踏み出したのだった。

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