表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
傀儡使いと獣耳少女の世界遍歴  作者: つくし
第ニ章 大魔道書『神々の終焉讃歌録』
35/124

33 束の間の

 揺らぎぼやける視界。何かが軋む音。ぶわりと痛みの広がる頭。


 シルヴァは薄っすらと砂埃が舞う中、顔を上げた。どうやら生きているようだ。腕の中のシアンも、何とか生きている。


「けど、これは……」


 周りを見回すと、そこに家はなかった。視界に映るのは散乱した瓦礫と、なんとか残っている家の骨組み。緑の芝生は壊れて飛んだ家の材木に隠れ、辺りは姿を変えている。


 まるで、何かが爆発した後のようだ。――いや、十中八九そうなのだろう。

 白髪の男から出ていた青白い光。あれを放っていた何かが、爆発を起こした。そう考えるのが妥当だ。仕組みは分からないが。


「やばいな。すぐにアレンたちと合流しないと……」


 砂埃の中で目を細めるも、辺りに人影はない。アレンたちが心配だ。


 ふと、腕の中のシアンがやけに静かだという疑問が頭の中を過ぎ去る。

 もしかして、大けがを負ってしまったのか思い、彼女を揺らした。


「シアン! 大丈夫!?」


「……うん。大丈夫だよ……大丈夫……」


 シルヴァの声に、シアンは腕を上げて反応すると、彼の腕の中から出て、自らの足で立ち上がった。

 その少し淡々とした様子に心配になったシルヴァは、シアンへ問う。


「どうしたの? どこか痛んだり……?」


「……ううん。違う、違うの」


 シアンはシルヴァへ顔を向けると、元気のない笑顔を見せた。それからすぐに、自分の頭を両手で抑える。


 それを見たシルヴァはすぐさま立ち上がり、彼女の手をどけて、その獣耳のついた頭を優しく探った。しかし、どこにも怪我は見つからない。


 外部に怪我はない。ということは、内出血とかしているのだろうか――と、青ざめるシルヴァをシアンは制する。


 そして、小さくぼそぼそと言った。


「シルヴァ。私、こんなときになっても、頭から離れないの……」


「何が……?」


「……カレンだよ」


 シアンはそのまま優しく、自分の頭からシルヴァの手をどかした。


「……見ちゃったんだ。……言いたくなかったんだ。アレンが、魔導書を開いたとき、あの魔力にシルヴァも私も圧倒されてた。でも、」


 シアンは目を伏せて、獣耳をしゅんと垂らす。


「カレンは、あんなに近くにいたのに、平気そうな顔をしてた」


「……え」


 シアンの言葉をきっかけに、シルヴァもその時のことを思い出す。しかし、自分の意識は魔導書に集中していて、あの時カレンがどうしていたかなんて、覚えているはずもなかった。


 けれど、シアンの言葉が本当ならば、それは確かに気になる。シルヴァでさえ圧倒されたのに、あのカレンが平然としていたなんてどう考えてもおかしい。


 シアンは続ける。


「……さっき。アレンがすごい殺気みたいなのを私たちに向けたとき、あったよね……?」


「……もしかして」


「そう。……私、その瞬間に魔導書のときのことを思い出して、ちらっとカレンの方を見たんだよ……そしたら」


 シアンの声が徐々に震えていくのが、シルヴァには分かった。


「――カレン、笑ってた」


 瞳から涙を流し、そう言ったシアンの言葉に、シルヴァは自分の背筋がいつになく凍り付くのを感じていた。













 なあ。僕にならできるはずなんだ。


 僕には力がある。だから、少し性質を変えるぐらい、簡単なはずなんだ。


 ……そのはず、だったんだ。 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ