表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
しずかのうみで  作者: 村井なお
第十章 二人ならできること
56/59

56. もういいよ

 お父さんが鳥居の前に車を停める。


 鳥居の横に『多賀神社』と看板が出ている。


「いるかな?」


 お父さんがあたりをうかがう。見える範囲に人影はない。


「うん。いるよ、お父さん」


 ずっと糸は目で追っていたし、もっと明らかな証拠も見えている。


 鳥居の向こう、境内から赤黒い幽気が立ちのぼっている。


「黄泉醜女はここにいる」


 のどかはさっきから目をつぶって黙っている。呼吸が荒い。


 わたしは、のどかを起こさないようにそっと膝から頭をおろした。


「ここまで来たらもう平気。お父さん、のどかをよろしく!」


「あ、しずか!」


 お父さんの声を背に、車のドアを開けて駆けだす。


 激しい風にのった大粒の雨が、全身を横なぐりにする。水干も袴もあっという間にずぶ濡れになる。


 鳥居をくぐり、参道を走る。


 出発する直前、みちるさんが言っていたことを思い出す。


『黄泉醜女の呪法には時間がかかる。嵐が起きている間は姫神さまの神気かむきが満ちているから、思うように幽気をつむげなくなる。そのときがチャンスよ』


 手水舎ちょうずやを過ぎて、拝殿が見えてくる。神社のつくりはどこも似ている。


『ただ、ずっとみずうみを放ってはおけない。この嵐はバランスが崩れて起きた天災だから、御鎮めしないといけない。わたしと姫神さまはギリギリまで待ってから御鎮めする。それまでに何とかしなさい』


 幽気は拝殿の向こうから立ちのぼっている。


 やっぱり本殿にいる?


 ううん。もっと奥からだ。


 社殿の横を走る。


 本殿の屋根の向こうに大きな樹が立っている。


 その根元に……いた!


 雨風をよけるように、茂った葉の下に黄泉醜女は立っていた。


 そのすぐ横に、ニオが寝転がっている。


 ……ニオっ!


 布都御魂剣のさやを払い、声をださず、足音をたてず、一気に距離をつめて。


「やあああああ!」

 思いっきり剣を振る!


 重い手応え。


 黄泉醜女は腰をくの字に曲げて草むらにふっとんでいく。


「……いったぁ」


 両手がしびれた。ソフトボールのバットで芯をとらえきれなかったときの、あの感じ。


 忘れていた。この剣、日本刀とは逆に、刃は反った内側についているんだった。全力全開でみね打ちしてしまった。


 とはいえさすが神器。わたしの力でもふっとばせたし、黄泉醜女に触れてもきれいなままだ。


 うん。とにかく結果オーライ。


 このすきにニオに駆けよる。


 ニオは樹の根っこの上で倒れていた。真っ白な髪の毛が広がっている。


「ニオ! ニオ! 目を覚まして!」


 青白いほほをたたく。


 黒に血の朱色をたらした幽気が、束になってニオに絡みついている。


 たまひきの術だ!


 何本?


 今、何本結ばれてる?


 ひ、ふ、み、よ、いつ……。


 ああ、もう! 結び目、ぐちゃぐちゃ!


 それでも十には届いてない。


 ついさっき教わった。わたしたちは今数え年で十二歳。だから、まだもう少しはだいじょうぶ。


「……しーちゃん?」

 ニオがようやく目を開ける。


「ニオ! よかった!」


 赤黒い風が吹く。


 遠くの暗がりで影が動いた。


「やつが動きだした! 時間ないからおとなしくしててね!」


 布都御魂剣で幽気の結び目を御解ししていく。


 刀身がニオの体を傷つけないように、一本ずつ、一本ずつ。


「……しーちゃん。逃げて」


「何言ってるの!」


 一本、また一本。


 切っても切っても、幽気のひもはすぐに絡みついてくる。


 それでも御解しするほうがちょっと早い。さすが神器!


「だいじょうぶだから、ちゃんと間に合うから!」


「もういいよ」


 ニオは、そう言って弱々しく笑った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ