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しずかのうみで  作者: 村井なお
第八章 このうみにきっと
46/59

46. ずれ

「のどかはさ、知ってたんだよね。水の事故なんかじゃなかったって」


「うん。しずかに言わなかったのは、悪かったなって思ってるよ。でも、何て言ったらいいかわからなくて」


「いいよ。許してあげましょう」


「上から目線だなあ」


「お姉ちゃんですから」


「こんなときばっかり」


 苦笑いを浮かべたのどかは、ゆっくりと本殿を振りかえった。


「……僕は知りたかったんだ。あのときお母さんが何で帰ってこなかったのか。みちるさんは何をしようとしていたのか」


「もしかして、それで本読んだり勉強したり?」


「うん。うちの神社は歴史が古いから、昔のこととか神さまのことを知ったら何かわかるかもって思ったんだ。でも、お父さんには聞けなくて」


「ああ、うん」

 聞けるわけないよね。


「しずかはさ、あの日から他人のことばっかり考えるようになった」


「そうかな?」


「昨日、みちるさんの話を聞いて納得した。『みんなハッピー』って、あれはお母さんの言葉だったんだね」


 ぴんっ、と頭の中で何かと何かがつながった気がした。


「……そっか。そうだったのかもね」


「自分で気づいてなかったんだ」


 小さく苦笑いを浮かべるのどか。


「あの日のことは、やっぱり思い出せない?」


「うん。その場にいたわたしのほうが覚えてないだなんてね」


 あの日。


 お母さんについていったけど、その記憶をなくしたわたし。


 お母さんについていかなかったけど、大事なことを覚えていたのどか。


「わたしたち、あの日からずれだしたんだね」


「そうだね。しずかは、僕を置いて走っていった」


「やっぱりあせってたんだね」


 のどかが「ん?」とわたしの顔を見る。


「実は、夜中にのどかががんばってるのを見ちゃって」


 てへ! と笑ってみせる。


「……」

 のどかは顔がゆがませ、そのまま無言で歩き出した。


「ちがうって! 偶然だったの!」


 のどかの背中に抱きついて「ごめんって!」と必死にごきげんをとる。


 のどかが立ち止まり、振りかえる。


「今度あんみつもあげるから、許してよ。ね?」


「……」


 のどかは動かない。みずうみのほうをじっと見ている。


「……のどか?」


「ねえ、しずか」


「うん?」


「今朝からさ、まったく風が吹いてない気がする」


 言われてわたしもみずうみを見る。


 湖面はわずかたりとも揺れていない。


 のどかと顔を見合わせる。


 そしてわたしたちは走り出した。


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