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小鳥よ早く喋って  作者: 人柱
1/1

釘を打つだけ

カーン。

カーン。

カーン。

単調な音、数時間金属ハンマーを振るとさすがに腕がいたい。

それでも俺は必死に打つ。

目の前には若い女。白いシャツに黒いズボン。化粧っけがなく、髪もボサボサだが、その笑顔は魅力的だった。

今日は蒸し暑い日なのに地下室で作業するのは、結構しんどい。

「そう、泉近くのラベンダー畑。あそこも最近観光客で賑わってるんだよ。」

彼女は目を輝かせながら話す。

殺風景な部屋には俺と彼女の声、そして金属と金属がぶつかる音だけが響いていた。

粗末な椅子に座る彼女は、母親に今日あった出来事を話す子供のようにはしゃぐ。

「ラベンダー畑って見に行くほど面白いか?女の人が行くにならわかるけどよ、男が行ってもつまらんだろ。香りがいいだけの草じゃん。」

カーン。

「そんなことないよ。ラベンダーのお茶も美味しいし、アロマオイルや化粧水にもできるし、あと、パスタにも入れる。」

「そんなもん男になんの役に立つんだよ。」

カーン。

「ラベンダーって肌荒れにも効くんだよ。他にも加齢臭でしょ、あと抜け毛。ーーさんも気になる歳何じゃない?」

ニヤける彼女。

「俺はまだ26だっつーの!そもそも2年くらいしか違わないだろ俺たち!」

カン。カン。カン。カン。

さらに金属ハンマーを激しく振った。

「ふーん。禿げるのは早いってうちの親が言ってたよ。」

カーン。

「……最近薄くなって来たような気はするけどな。」

カーン。


しばし、静寂。


「で、《アレ》について話す気になった?」

「いやまったく。」

「そう。」

カーン。

俺は1本の釘を、彼女の右手に金属ハンマーで打ちつけた。

彼女の手からは血がだらだらと流れ出していて、椅子にまで到達している。

そして、釘は彼女の腕にびっしり、ところ狭しと並んでいる。

常人なら、泣きながらやめるように懇願するシーンだ。出血の量からして意識が混濁してもおかしくない。

彼女は特に気に止める様子すらなく、抵抗すらしない。

俺はため息をつき、箱からさらにもう1本釘を取り出そうと、手を伸ばす。

「あーあ、釘なくなった。」

空になった箱を持ち上げて、彼女の頭を殴った。

「計画性もなく打つからじゃない?」

しかし、彼女は痛みなど感じていないかのように振る舞う。

「そうだな、だいたいの奴はこの箱にあった釘の量が3分の1減るまでには喋るんだ。そして、残りの奴は死ぬ。」

「私もヤバいかも。今、腕真っ赤になるほど流れてるじゃん?」

「ヤバいならさっさと《アレ》について話してくれ。」

「じゃあこのままでもいい。」

律儀に口だけは堅いようだ。俺は、釘抜きを取り出す。


俺は殺し屋だ。この女の尋問を任されている。

この女とその仲間たちはある組織の「宝」を盗もうとした。

「宝」は一部持っていかれ、この女以外には全員に逃げられた。俺は「宝」が何か知らないが、組織にとってはかなり重要なものだったらしい。

しかし、この女は仲間どころか自分の情報すら一切もらさない。

俺の尋問にここまで耐えれる人も珍しい。

もしかしたら、どこかのエージェントなのかもしれない。

俺はため息をつき、一言。


「ま、今日はいいや。飯にしよ」







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