第八話 裏世論
「いいだろう、貴様の勇気をたたえていいことを教えてやる。」
そう言って例の学校長は話を切り出した。
「銃刀法違反って知ってるか?」
「ナイフを持っている奴が言うな。いいことを教えてやる。俺は第四勢力。権力で言えばトップだ。犯罪偽造くらい容易い。日本の裏事情を全て引き受けているチームさ。」
「…すごいんだな。貴様は。」
「いいだろう、出て来いよ。」
「は?」
UZIとMP-5をそれぞれ持った紅麗と風輝が出てきた。
「これで今お前がどういう状況か解ったか?」
「う…。」
「これでも裏を取ってから来てやっただけマシだと思えよ。」
「それって、どういう?」
「警察にもグルがいるのさ。令状の一つや二つ、簡単に取れるさね。」
「き、貴様ら…一体?」
「LRP…日本の最低部を管轄する第四勢力、三権分立の権力外の組織さ。」
「NGO…。」
「そうとも取れるが、残念ながら憲法には関係していてな、厳密にはNGOじゃない。」
驚いた様子でこちらを伺う校長。
「さて、大問一だ。お前の学校から警備〝兵〟を雇っていた形跡が発見された。これと貴様の関係を簡潔に述べよ。尚、段落構成は不問とする。」
「…知らない。」
「なら条件を追加しよう。紙面じゃないのがいいところだね。条件一、必ず自分の知っている情報を開示すること。条件二、必ず吐け。」
「吐けって…どこの私立でもそんな論文書けっていう受験問題はないね。」
「これは俺が作った問題だ。問題の内容は不問とされている。」
「都合のいいことだな。」
灯来はスコーピオンのマズルを校長の顔面に近づける。
「第何条だったかな、どっかの法律に、拷問は刑事的証拠の対象外とするっていうのがあった気がするんだが…。」
「俺は刑事でも警察でもない。残念ながら適応外だ。」
「そうか…。確かに奴は俺が雇った。だがな、新米…覚えておけ。」
どこから取り出したのか、奴は銃を手にしていたことに、気付かなかった。
「誰も、自分の秘密を話したい者などいないことをな…。」
「んな⁈」
一笑い、そして彼は、自分の頭を打ち抜いた。
「ぐっ。」
「そんな⁈」
「野郎っ⁈」
灯来は貫通弾をもらわないように、一瞬で飛びのいたが、ベチャっと、返り血を浴びる。
「くそ…。」
灯来は銃をしまい、自分の左頬についた血の跡を左手でさすりながら悪態をつく。
「自分を犠牲にしてまで証拠を隠滅しやがった…。」
「連中、完全に俺たちの行動を制約しに掛かってるな…。」
「あぁ、間違いない。」
「どうします…?」
灯来は携帯を取り出した。
「あぁ、俺だ。場所は例の会議場の地下駐車場。しくじった、後処理を頼む。」
そして他の二人に振り向く。
「全員、帰還する。翌朝にでも警察の令状を取り付けて例の学校を捜索させる。」
「「了解。」」
地下を動く三つの陰は、一斉に移動をし始めた。
それにしても予想外のことが起きた。これでは、LRPの行動を制約せざるをえない。灯来は車に乗る前に、服を脱いで別の服に着替えた。脱いだ服は捨てて。
「畜生…次はしくじらない。」
「灯来…お前…。」
今まで見たことのないような険悪な顔で、灯来は自分のミスを呪った。このとき、他の二人は初めて知った。いや、以前から知っていたが。彼は、只者ではないと…今まで以上に知ることになった。
夜。灯来は家の扉を押し開けた。
「あ、おかえり…⁈」
口を手で押さえた天音が驚いた目つきで灯来の左頬を凝視した。
「あぁ、ただいま、天音。」
廃れた笑顔でそう返す灯来。
「灯来さん…、その頬、大丈夫なの?」
「あぁ、大丈夫だ。問題ない。心配かけてごめんな。」
疲れ切った声で言い、天音の頭を左手でそっと撫でる灯来。
「大丈夫そうにない…けど。」
「心配かけてごめん。…少し疲れた、休ませてくれ。」
「解った…ごめん、時間とっちゃって。」
「いいよ、お前が謝ることはない。」
そのまま灯来の部屋のドアはバタンと絞められた。
「大丈夫…かな。」
天音は心配そうにドアの向こうを覗き込む。無論、見えることはないのだが…。
「…意味ない…か。」
そう諦めて、自分もベッドに身を投げ出した。
俺は布団の布を握りしめた。
「…いいかげん、出てきてもいいよな…三人の騎士共…。」
第二次世界大戦。それは、全ての行政機関、司法機関、立法機関が統一された国家が行ってきた戦争だ。その歴史は、原爆というあまりにも悲惨なラストで幕を閉じた。あれから少なくとも、百年は経った。今や、戦争の話をしようと言い出す輩は消え、世の中は完全に戦争の記憶を失った。だけど…。
「親父は言い残した。戦争の記憶を語り継ぐ。二度と悪徳独裁国家は繰り返すな。って。」
悪徳独裁国家…。親父はそう表現していた。…奴が動き始めたら、確実に悪徳独裁国家になってしまうだろう…死んだ親父の遺志のためにも…俺の〝目的〟のためにも…次は、二度と…二度としくじらない。…神に誓って…次は命に変えて、成功に導く。それだけだ。
翌朝。灯来は朝起きて、顔を洗ってから着替えて、朝食の支度をしていた。
「ふぁ~。おはよう。」
眠そうにあくびをしながら天音が降りてくる。
「おはよう。」
「休めた?」
「まぁな。何とかなりそうだ。ありがと。」
「…ならよかった。」
そう言って天音は笑顔を零した。
「ほれ、朝飯。」
「ん、ありがとう。」
数十分後、学校。
「天音、今日から一週間、俺は学校を休む。だからあまり俺の事を口外しないでくれ。」
「え…?」
「急ですまんが、頼む。」
「じゃあ何故ここに?」
「〝集合場所〟だからさ。」
「なるほど…解った。頑張ってね。」
「おうよ。」
そう言って天音と別れた。
〝集合場所〟となっている旧教科準備室に灯来は現れた。
「時間通り…だな、紅麗。」
彼の気配を察知した灯来が虚空に向かって呟く。
「お前も、のようだな。灯来、風輝。」
「おはようございます。本日はどうなさいますか?」
「〝武器〟を取りに行く。」
「〝武器〟?」
風輝が聞き返した。
「そうだ。奴らを打ち取れる〝武器〟だ。名を…砕剣という。」
「「砕剣…⁈」」
二人が同時に聞き返す。
「そう…砕剣。その正体が何なのか…解るか?」
「例の伝説における、勇者が手にした剣のはずだ…。」
「その正体は…?」
「…さぁ。」
「悪いな、俺は知ってて隠していた。アレの正体を。」
「アレ?」
「そう。俺が知っている者たちの間では、それは〝切り札〟とされていた。」
「切り札って、何の?」
「後で話す。さぁ、付いて来い。」
「「…了解。」」
「いいか、よく覚えておけ。人にはな、裏の顔ってのがある。その裏の顔を露出させ、意見を話し合う裏世論ってのが、現実の裏に隠れている。それをどうするか…君らには解るかな。」
「裏世論…?」
「時期に解るさ。さ、移動しよう。」
「あ、ああ。」
その間、風輝はずっと考え込んでいた。
その日の夜。
「ただいま。」
「おかえり。」
いつも通り、帰宅すると天音が出迎えてくれる。
「大丈夫だった?」
「勿論だ。」
「っていうか灯来さん、聞いたよ?」
「何を?」
「あなたさ、学校で伝説についてインタビューしてたんでしょ?」
「は?」
訳の分からんことを言い出す天音に、惚けた声を出す灯来。
「例の伝説について、意味不明な質問を投げつけてきたって言ってたよ、皆。」
「いや、あれは理由があってだな。」
「どんな理由?」
「今は国家機密だ…。」
「そうなの…。あのおかしな質問にそんな深い意味が…?」
「お前はどんな質問を想像してんだ…。あ、でも、お前にもしたじゃん。」
「え、そうだっけ?」
「ほら、俺たちが初めて出会った日の夜。レストランで聞いた…。」
「あぁ、あったあった。あの質問⁈」
「そうだけど…?」
「なーんだ、そう言ってよ。」
「いや、解るだろ。」
呆れつつ灯来はリビングに向かった。
「飯は食った?」
「まだ。もうお腹すいちゃった。」
「もう八時か、無理もない。別に先食ってても良かったのに。」
「いいじゃん、ご飯は皆で食べたほうがおいしいに決まってるよ。」
「…だと良いがな。」
「え…?」
悲しげな声色で灯来がそう呟いた。
「お前、揚げ物って食べる方?」
「むっさ好物。」
目を輝かせてこっち見てきた。
「おおう、なら今からから揚げ作ってやるから待ってろ。」
「うん、楽しみだね。ってか灯来さん…女子力高いな。」
「何か言ったか?」
「あ、いや、何でもない。でも憎いよ、灯来さん。」
「は?俺なんかお前にしたっけ⁈」
「何でもない。」
「は、はぁ…。」
訳が分からんとでも言わんの如く、灯来は料理に専念した。
「でも、いつもありがとうね。」
「…あの事件は俺たちの失態でもある。本当にごめん。」
「ううん。ありがと。」
その後、灯来たちはから揚げを大量にたいらげた。




