第三話 繋がり
灯来は、会議に行くと告げて、会議室の外に天音だけを残し、無言で話し合いの場に向かった。
「…集まったな。この件では、LRPの警察任務への介入、検察任務への介入、この二点において文句はあるか?」
「?変な物言いだな。あんたら警察の仕事より早かったろ。検察だって無駄に時間がかかるだけだ。効率的だったと評価してほしいね。」
何とも言えない空気が漂った。
「…まぁいい。今回、ごく一般の女性からの依頼だったわけだが、ここで集まったんで、依頼料についても話し合いたいと思う。」
「え?お前、あいつから金取るのか?」
灯来は惚けた声を出す。
「当たり前だろ。仕事は仕事。ちゃんと料金は払ってもらう。」
「その割にはお前ら、猪狩組とかいった組織、何年も前から追っていたらしいじゃないか。その情報を周りに提供することもせず、一人でチマチマチマチマと…。これはその温さが生んだんじゃないのか?もっと自分を戒めるべきだ。お前らの情報は確実だぞ。なんなら、証拠を上に押し付けても十分通るくらいのだ。だからこの件は、確実にお前ら公務員共と俺たちの失態にある。それなのに彼女に依頼金を請求するなんて、信頼無くすぞ?」
灯来は吹聴するかのように笑った。
「お前、いい加減にしろよな?」
誰かが声を上げた。
「感情的になるな。会議の意味がなかろう。それとも、ここで暴力沙汰を起こして、暴力罪と公務執行妨害で投獄されたいか?」
「ぐっ。くっ。だが貴様は公務員ではなかろう…。」
紅麗の言葉に、男はそれだけ言って収まった。三秒間誰も声をあげなかったため、灯来が口火を切った。
「…俺たちに罪はない。彼女に請求する金もない。議論はつきたか?話さねぇならこれでお開きだ。以上、解散。」
リーダーでもないのに灯来が言うと、再び誰かが声をあげた。
「逃げるのか?」
「は?議論のねぇ会議に出る義理は無いはずだが?」
「貴様!」
「止せ。彼の言う通りだ。本日はこれで終了する。以上、解散。」
議長がそう声をあげ、そこで初めて会議は終わった。灯来は扉を出る前に、ある人物にこう言葉を残した。
「学校内で彼女の行動に目を離すな。」
「御意。」
その誰かと一瞬の交錯。その後すぐに灯来は部屋を出ていった。
「あ、灯来さん。」
「悪い、待たせた。」
出ると天音が待っていた。当たり前だが、ここで待てと言われたことができる娘らしい。
「今は…もう八時かよ。ったく長引かせやがって。」
「せっかち直せよ。」
「俺は待てと言われたら待つさね。そこまで重症じゃない。そういや、紅麗。お前、飯は?」
「どっか適当に。」
「あじゃ奢るよ。」
「んじゃ有難く。」
「天音は?」
「え?」
「え?」
本当に灯来と天音の会話は噛み合わない。何故だか、滅多にちゃんとした会話が通ることはない。
「私もいいの?」
「いいよ。ここまで時間を長引かせたのはこっちの責任だし。」
「んじゃ有難く。」
紅麗がジト目で睨みつけてくるのを灯来は感じた。解るよ、お前の声より天音の声のほうが可愛く聞こえるって。そう目で送ってやった。そしたら、マジの目で睨まれた。こいつ、いかついだけに睨み顔は恐ろしく、まさに鬼瓦である。
「どこ行く?」
「適当にファミレスでよくね?」
「うーん、まず俺は着替えていいか?」
天音と紅麗の会話に割り込む灯来。
「流石にボロボロ血だらけで町を歩く趣味は無い。あと、品川近辺にしてくれ。」
「解ったよ。天音もそこ近辺在宅なの?」
「ええ、まぁ、一応。」
「ほぅ。いでっ⁈」
変なこと考えている気がした。灯来の肘打ちが紅麗の横腹に炸裂した。
「てめよくも。」
「なら心を清らかに考え改めよ。」
「…すまん。」
急に素直になりやがって。気持ち悪いっての。
結局灯来は一人家に戻ってから指定のファミレスに行くことになった。制服とパーカーを脱いで、ウェポンラックにスコーピオンを飾り、上下半そで半ズボンに上ジャージという、夏の服に着替えた。
「悪い、遅れた。」
「遅いぞ、お前。」
「気にするな。」
「あ、先食べてます。」
「ん、あいよ。」
灯来は淡々とメニューを告げ、水をすすった。
「その、まだ整理がつかないんですが、灯来さんって、一体何者?」
「聞きたいか?」
「はい、とても興味があります。…灯来さんが嫌でなければ…。」
「俺は構わないが、だいぶ壮絶な話になるだろうよ。」
「…じゃ、じゃあ、今度あの旧教科準備室で聞かせてください。」
「解った。」
頼んでたものが来たんで、灯来も食べ始める。
「あ、そうだ。お前、この町に古くから伝わる伝説、知っているよな?」
「はい…。ここら辺は昔港で、外国の人や旅人が度々口にしたという、あの…。」
「そう。四大騎士の内三人が大賢者の元暴れ狂うが、最後の一人、裏切者のライが彼らを打ち取るっていうあの伝説。興味を持ったことない?」
「はい。あまり、研究が進展した内容を聞いたことがなかったので。」
「だよなぁ。俺もそう思ってる。」
「確かあれって、〝前世まで語り継がれる〟っていう一文があったな。」
「その通りだ、紅麗。俺も最近、興味があって調べてみたんだ。…前世までは語られないよな。」
「えぇ。タイムリープやらなんやらが使えれば別ですけどね。」
「一説じゃ、大賢者が残した言葉で、奴ぁ過去戻りが出来たんじゃねぇかとか言われてた。」
「大賢者なぁ。四大騎士ってのも気になる。」
「興味があるからちょくちょく調べようと思う。お前らも、何かあったら情報をくれ。」
「解った。」
「了解。」
灯来はそれだけ言って、会計ボタンを押した。…結局灯来が全額負担した。
帰り道。完全なる夜道。灯来は、思い出したように天音に聞いた。
「そういやお前、家どうすんだ?」
「あ。」
そう、天音の家は今銃弾で開けられた穴だらけなのだ。おまけに、未だ鑑識が調査中とのことで、関係者すら立ち入れない。
「ホテルでも探す?金なら負担するけど。」
「うぅ~。」
暫く唸ったあと、天音は口を開いた。
「なんか、良い案ないですかね?」
「家に使ってない部屋が一つと、ベッドがある。紅麗の家も同じ。ホテルは開いてるか解らないが。他に何人か友人に押し付けるって手もある。」
「え?」
「え?」
再び噛み合わない二人の会話。
「あの、どうにかなりません?」
「どゆこと?」
「その…信用してない…もとい、であってすらない人と暮らすのは、気が引けるというか。」
「じゃどうすんの?お前が紅麗を信用してるなら今から連絡するけど。」
「それだけは止めて!」
おうおうおう、嫌われてんな紅麗。
「じゃどうすんの?家来る?」
「ホテルと家ならどっちが安い…ですか?」
「確実に家だな。」
「なら…その、家が見つかるまで…いいですか?」
頬を赤らめながら言う。
「いいよ別に。金なら惜しまんからホテルのスイートでも許可するつもりだったが。」
「そ、そこまでお金のお世話になるわけには‼」
「いや、お前は少なくとも被害者なんだから。もう少し公務員に頼りな。確かにあいつらは信用ならねぇが、誰もが全員、そうってわけじゃねぇ。信用なるやつもいるってことだ。それを見極めることができるのが、人間の特権。上手く使いな。」
「…信用できる人間はどうすれば見つかりますか?」
「…お前も辛かったんだな。その質問をしたいのは解る。だが、自分で見つけられるようにな無ければ意味がない。最初は少しずつ探してといい。」
「でも、一体誰を信用すればいいか⁈」
「なら、俺を信用しろ。そこから始めればいい。俺が無力と理解したら見捨てて構わん。」
「…ありがとうございます。」
「え?」
「信用していいんですか?」
「…お前はどうしたい?」
「それは…。」
口ごもる天音。
「怖いか?人を信用して、落ちるのが怖いか?」
彼女は無言で頷く。
「リスクを恐れるな。そんなもん恐れてたらなにもできやしない。」
「で、でも―」
「あの時、リスクを恐れていたら俺は顔を出さず、投げ込められたグレネードでお前は死んでいた。だが、俺はほんの少しの勇気を糧に、奴らに攻撃した。だからお前は今、生きている。少しずつでいいから、勇気を出す練習をすればいい。数こなせばじきなれる。」
それでも彼女は不安そうな顔をしていた。
「大丈夫だ。少なくとも、俺はお前を見捨てる気はない。」
頭を撫でてやった。すると、うっすらだが頷いた気がした。
それから無言で、彼女は俺の家まで荷物を持ってやってきた。ベッドは使われていないのが二つある。両親のものだったが、あんな出来事があったんだ。生きてはいない。それを言うと事故物件みたいなんで言わないが。
「部屋は二階奥にあるから使ってくれ。」
「あ、はい。」
俺は真っ先に武器庫へ向かった。自分専用。この家は一軒家で、そこそこ広い。親が死んで財産が全部俺に渡って…こんな仕事までやってたらいつのまにか金が底なしになってた。ってなわけで、家に地下室を作ってみたが、用途がない。二部屋の内一部屋は武器庫、もう一部屋の方は音楽スタジオだ。他は出来ないがギターくらいなら弾ける。逆にその他はまったくない。ベースギターはぎりぎり置いてあるが、キーボードやらドラムやら、自分が使えない楽器類は一切合切置いてない。仕方ないよね、出来ないんだから。先ほど適当に置いたスコーピオンを取り出し、武器庫の机の上に置いて、分解させ、パーツの点検をしていく。そこそこ使っていたため、バレルが焼け気味になっていた。フルオートでマガジン何個も撃ってたら焼けるのは当たり前だろう。俺はバレルを交換してスコーピオンを戻した。そして、先ほどかけたラックとは違う、別のラックに飾った。実際これが定位置である。
武器庫と地下室に二十の鍵を閉め一階のリビングに戻ると、天音が水を飲んでいた。
「あの、風呂入っていいですか?」
「いいよ。向こう側にあるから。」
俺は風呂場に指さした。
「ありがとうございます。…あの、」
「覗かないから安心して入ってこい。」
「あ、はい。」
んー、ぎこちない。こう、敬語苦手なのかね、この娘。無理して敬語にしなくてもいいのにな。まぁいいか。
数十分後、天音は風呂から出てきた。その間俺は怪我の治療をしていた。




