最終話 英雄は砕かれ、英雄は輝く
目を覚ますと、そこは病院だった。そとは真っ暗。真夜中だろう。体は起きなかった。色々な医療器具が体中に取り付けられている。何より、力が入らないのだ。だが、右手に重いものを感じた。…天音だった。俺の右腕を枕の様にして寝ている。…疲れているだろうに、看病してくれていたのだろうか。…ありがとう。そう言わなければいけないな。俺は今ある体中の意識を集中させ、全力で左手を起こした。そして、そっと天音の頭をなでてやるのだ。ありがとう、と。お前のお陰で、俺は怪物を倒すことができたんだと。そう、感謝を込めて、俺は天音の頭をそっと撫でてやった。
翌朝。結局、俺は眠っていたらしい。目覚めた時、天音は俺の顏を覗き込んでいた。
「…天音。」
不思議と、声がでた。前回起きた時より確実に体力が戻っていた。
「と、灯来!灯来‼」
そう叫ぶ天音。
「起きた…。やっと、やっと帰ってきてくれた。よかった!」
そう言って、天音は灯来に抱き着いた。
「おっおい…お、重い重い!」
「ご、ごめん。…でも、お帰り。」
頬を赤らめながら彼女はそう言った。
「ただいま。ったく、負傷者に抱き着くなよ。痛いだろ。」
「ごめんなさい。」
「いんだよ。ありがとうな、天音。」
そう言って、灯来は天音の頭を撫でた。その中で、彼女は少し頷いたように感じた。
覚醒して数日がたつ。この日、灯来は医師に、自分の状況を伝えられた。
「…頭部の破片ですが、奥の方まで刺さってしまっています。引き抜くことも可能ですが、無理に引き抜くと脳細胞を刺激してしまう可能性もあります。幸い、欠片は脳まで届くことはありませんでしたが、引き抜くことはリスクを伴うでしょう。」
「引き抜かなくていいよ。俺はこのままでいい。」
「…解りました。それと、あなたのその目…。」
「あぁ。」
「今の話についてでてきた石片ですが、これによって完全に眼球が潰され、機能しなくなってしまいました。そのため、機能をなくした潰れた眼球を摘出しました。右目は見えることはありませんが、生活に支障はありません。問題なく生活していけるでしょう。」
全身の包帯は、怪我の処置らしい。五百以上の怪我があったそうだ。また、倒れたのも貧血が原因らしい。傷がある程度治り次第退院らしい。
そして、灯来が退院した日。天音を連れて、灯来は本拠地に来ていた。病院でもらった白い布の眼帯をつけ。ここに、多くのLRP隊員や〝仲間たち〟がいた。
「同志所君!本時、この場に集ってもらえたことに感謝する。今日この時、我々を最後まで導き、敵を倒した英雄、駆真灯来が退院した。彼の働きによって、武装組織、八咫烏商会所を完全に無力化、日本の治安を守ってくれた。だが、その作戦には大きな代償と共に、我々の特に優秀な同志を失う結果にもなってしまったことを悔やむ。今日はそのことで皆に集ってもらったが、まずは彼の言葉を聞いてくれ。」
紅麗がそう言う。すると、灯来が前に出てきて、紅麗からマイクを受け取った。
「久しぶりだな。俺だ、駆真灯来。まずは諸君らに謝っておきたい。作戦前、俺は多くの隠し事をしていた。君らに、多くの嘘を吐いていた。どうかそれらを許してくれ。そして、俺たちの力不足で、多くの人材を失ってしまったことも悔しい。俺は、そんな彼らに、戦死していった彼らに、敬意と遺憾の意を証し、ここで黙祷を捧げようと思う。」
そう言って、間を置いた。
「天音。君もやるかい?」
「…うん。やる。」
そう言って、天音も灯来と同じ立ち位置に立った。
「黙祷‼」
灯来がそう叫んだ。まだ痛むだろう体の傷をこらえてでも、死んでいった彼らに大声で贖罪するのだ。一分間。その一分間の黙祷だが、灯来にはそれが、一時間、一年のように長く感じた。彼らの無念、死んでいったことへの自分の無念。そして、彼らの死を利用して、皮肉にも八咫烏に勝てたことの報告も込め、灯来は黙祷を捧げた。
「黙祷、止め‼」
そう叫んだのは紅麗だった。
「駆真灯来。彼は、間違いなく英雄だ。そこに違いはない。だが、死んでいった彼らもまた、英雄だ。この作戦成功の裏には、そんな彼らの奮闘もあったことを胸に刻もう。」
そう紅麗は締めくくった。
翌日。学校に来ていた。灯来も長い事眠っていたため、残り一週間で夏休みといったところだ。本当にギリギリだった。その日は、病院でもらった眼帯ではなく、天音がかってきた黒の眼帯だった。
「うん、よく似合ってるよ、灯来。」
「ありがとうな。」
天音にそう言われ、素直に感謝した。灯来は、久しぶりにみる、平穏な世界に安堵していた。まだ学校は、渡り廊下が使えなかったりと、工事中ではあるが。授業は再開したらしい。でも、平穏だからこそこの生徒たちはみな、何も知らないわけで、そんな彼らは問題を平気で起こしていくわけで。
「…その眼帯。笑うんだけど。なぁ。剥がしてやろうぜ!」
そう、簡単に言えばガキである。
「そんなことしなくても、見たいなら見せてくれって言えばいいじゃん。」
そう言って、灯来は眼帯に手をかける。
「は、お前調子に乗ってんじゃねぇぞ。」
そんな言葉は無視し、灯来は眼帯を外した。黒曜石のもっと澄んだ黒をした石片がささり、潰れてしわしわになった瞼が露わになる。女子の一人が奇声を上げる程に。
「そんなに見て面白いものじゃないぞ。そもそもだが、お前らの言う、笑い事ではない。」
そう言ってまた眼帯を付ける灯来。
「これのどこが調子に乗っているんだろうね。」
「はぁ⁈」
彼はかなりイラついていた様子だったが、灯来にはそれも滑稽に思えた。何より、今までが極限状態だったので、学校自体、かなり緩いなと感じている。
「ね。確かお前は、親の財産を理由にテストの点数改竄して、堂々と嘘ついて見栄貼ってたやつだったか。ここ、退学処分になったらしいな。」
「な、何故それを‼」
「いやだから…俺はただの一般生徒じゃないんだよ。お前らと違って。」
「俺が…一般…この俺が。」
そう聞いて逆鱗に触れたのか、男が殴りかかってきた。それをひょいとかわし、左手で受け止めたあと、彼の背中にまわり、あらぬ方向に曲げようとする。
「いででっ‼て、てめぇ‼」
「生き方がダサすぎるんだよ。親の権力にばっか頼って、本人は人に暴力をふるうクズだ。」
「く、クズだと‼」
「そうだ。」
「…ハハハッ。」
自棄を起こしたそいつが再び殴って来るが、それをかわした灯来は、余裕想にそいつを背負い投げした。
「強い奴は強いんだよ。お前みたいに、自分は強いと錯覚しているやつに限って弱いがな。」
そう言って灯来は、そいつに手を伸ばした。
「だが、俺たちにはやり直しがきく。お前も、今から変わるので遅くない。だから…。」
そいつは、灯来の手を握る。灯来は彼を起こしながらこう言った。
「だから、変わってくれ。」
その瞬間、授業が始まる鐘が鳴ったのだ。
そして、彼には最後にやらなければいけない事があった。紅麗は、伝説の原文を旧教科準備室で洋紙に筆で書き記していた。灯来は原文を彼に教えている。
「…俺、まだ疑問なことがある。」
「なんだ、紅麗。らしくもない。」
「あの時、お前が雷に打たれた時。…お前、どうやって復活した?」
「…時間を戻した。」
紅麗は言葉が出なかった。
「自分の体だけ時間軸を戻したんだよ。記憶だけ残す形でな。でも、魔力の消費が激しく、死なないようにと調整したら、この目が戻ることはなかった。」
「ってことは、今なら。」
「あぁ。完治する。」
一瞬の沈黙が、二人の間に続いた。
「でも俺は、戻す気はない。これは、あいつらが戦った証で、俺への戒め。なにより。」
灯来は珍しく言葉を詰まらせた。
「何より、天音を守ると誓った、その証だ。」
紅麗は深く頷いた。深く深く、何度も。
「あぁ、そうだな。お前…それが刻まれている限り、最後まで彼女を守るんだな。」
「いいや、刻まれていなくてもだ。…依頼を全うする。それだけだ。」
そう言うと、灯来は書いた原文を筒にしまった。
「そう言えばよ。…ホルンの杖って、結局はなんなんだ?」
「…やつの本体だった。」
「本体?」
「あの巨人…ホルンは、親父の体を持っていた。その親父の体、彼の脊髄が、ホルンの杖だ。」
「脊髄…。」
「なんせ、あの巨人の動力源でもある、魔力は親父から注がれていたんだからな。」
そう言って灯来は、完成した原文を掲げた。
「こいつを、俺が傷を治したのと同じ要領で、過去に飛ばす。これが、伝説の全てだ。」
「いいだろう。俺たちが伝説を作った。そういうことだな。」
「そうだ。…ありがとう、紅麗。」
「こちらこそ、ありがとう。」
放たれた魔法陣は、筒を吸い込むようにして時間を転送した。
外に出ると、LRPの皆が待っていた。そこには、天音や風輝、千夜の姿までもがあった。
「紅麗…これって。」
「勝利のパーティ。やってなかったろ?たまには楽しめよ。」
「灯来!こっちこっち‼」
「ほら、愛しの花嫁が呼んでるぞ。」
「まだちげぇって。」
そう言いながら、灯来は彼女のもとに向かうのだ。だが、そらは曇ったままだった。
「…親父が新の英雄だ。俺はあいつに影響されたのだから。英雄は、この剣、砕剣で砕かれた。だからこそ、俺は今こうして、輝けているのかな。」
手に取った砕剣を、彼は天高く掲げる。その瞬間、不思議と雲は晴れ、美しい夕日を拝みながら、彼らはお祝いの夜に更けっていった。
この世界に、英雄と呼ばれる者がいる。
そしてこの世には、大賢者と呼ばれる者もいる。
双方が双方を取り合い、
勝利を勝ち取った英雄は、世界を変えた。
今、この世界に、三権分立が確率された新たな国が現れた。
日本。それは、昔から多くの産業でにぎわう島国。
この島国では、昔から三権分立されたと嘘を吐かれそれが内戦を呼んだ。
だが、その内戦も、一人の英雄によって救われた。
彼の名は、ライ。偽りだ。
人々を騙すことで人々を楽しませ、
人々を救っていた彼は、偽りを正すことも得意だった。
大賢者との争いに勝った英雄は、
日本を変え、その影響で世界中までも。
影響度はかなり強くなっていったのだ。
英雄ライは、伝説を残した。前世に伝わる伝説を。
それは、時間のループの輪を外れ、
伝説そのものの、新たな価値観を作り出し、
何にも干渉されず、何にも影響されない、独立的な伝説になった。
この伝説は、今も語り継がれている。
ライは、ある時は辛いと、ある時は痛いと、
またある時は、死にたいとまで言った。
彼は英雄だ。だが、追い詰められることは誰にでもある。
例え英雄のライでさえ、弱音を吐いてしまうのだ。
それは仕方がない。
弱音を吐いてしまうのは、人間だからだ。
だが、ライは諦めなかった。
その、ライを救った少年がいるからだ。
その少年もまた、ライに救われた
人を救えば、その恩は帰ってくるのだ。
だから、人に恩を与えなさい。
そして、最後まで生きなさい。
どれだけ相手が強くても、
どれだけ相手が憎くても、
どれだけ自分が憎くても、
死んではいけないのです。でも、これだけは覚えていて。
必ず、やりとげれる。必ず、ハッピーエンドは掴めるってことを。




