第二十八話 開戦
「負傷者の手当を優先してください。生きている者は外部へ避難。制圧前の仮拠点に向かいましょう。」
風輝がそう叫んだ。
「LRP第五師団の〝仲間たち〟に連絡します。あなた方も同じように、外部に避難してください。」
〝仲間たち〟と呼ばれた第五師団。灯来が彼らを寝返らせ、砕剣として機能させようとしていた師団だ。結局、使わずじまいだったが。
「移動環境整いました。」
「了解です。それでは、主動隊上半分の班は負傷者を運び、余りはその護衛を。その後、下半分、精鋭隊、別動隊、外部班、増援の〝仲間たち〟の順で、陸路での移動とします。」
そう指示を出す。灯来さんのお陰でここまで人を動かせるようになった…。風輝は、灯来に尊敬と感謝をしていた。
「移動、開始してください!」
その一言で、何人もの隊員が動き始めた。
「司令官。あなたは?」
「…私はここに残ります。紅麗さんや天音さん…灯来さんを待ってないと。…ここで待ってられるのは私だけですから。」
「…了解しました。ご武運を。」
「こちらこそ。ご武運を祈ります。」
「ハッ!」
そう言うと、隊員は一歩下がって、隊に戻っていった。そして風輝は、清々しそうな表情で、どこか安心した声でこう一人ぼやいた。
「…涼しいですね風が。こういう日は、一人でゆっくりと。…そう。」
バァン!直後、床が陥没して、爆発音が響いた。
「夢を見れれば…良いんですけどね。」
風輝は表情を変え、真面目な見相で床が抜けた方向を観察する。双眼鏡を取り出す。
「あれは…なんでしょう。何かのガス…。あんな動き、するもんでしたっけ⁈」
驚愕する。明らかに、あれは巨人のような形をかたどっていた。
「…おかしい。現実じゃない。…何かの夢?…いや違う。違いますよね。」
辺りはだんだんと、青くなっている。夜が明けようとしていた。
「灯来さん‼」
双眼鏡が、彼を捉えた。
「…行かないと。」
風輝は双眼鏡を仕舞い、足早に灯来の元に向かった。
「…本当に、何なんですか…あれ。」
瓦礫を階段状にしたことで、上りやすくなってる。この作戦は成功だな。
「ほれ天音。もう少しだ。」
俺は天音に手を差し伸べる。
「ありがとう、灯来。」
今更だが、最近彼女は、俺の事を呼び捨てるようになっている。前まではさん付けだった気がするが。…それだけ心を許してくれたってことだろうか。
「紅麗。まだ任務の先は長いみたいだ。」
そう言ってまた手を差し伸べる。
「みたいだなっ!っと。ありがとよ。」
そして後ろを振り向く。
「…化け物だな。移動しよう。走るぞ。」
灯来は天音を抱えた。
「えっひゃっ!」
「黙ってくれ天音…。」
「…やるぅ。」
「紅麗。あとで内臓もぎ取ってやるから覚悟しとけ。」
そう、お姫様抱っこである。それから、三分近くかけて一キロ近く巨人から距離をとった。そして、天音を下ろす。
「灯来さん‼」
「風輝か‼」
叫んだのは風輝だった。
「…その目。よく帰ってこれましたね。」
「俺が簡単に死んでたまるかよ。…急で悪いが、お前にも当事者になってもらいたい。」
「?」
「天音、こっちに来てくれ。」
合流して早々だが、灯来は天音をよんだ。
「…解りました。」
察したのか、目の事には触れずに、風輝が押し黙って灯来の言葉に耳を傾ける。
「これは先ほど地下で起きたことになる。俺は、生涯通して天音を守りきる。…そう誓う。」
「解りました。…その言葉、しっかりと受け取りました。反故にしないでくださいね?」
「解ってるよ。」
「これは、私からの依頼ですので。これなら、灯来さんも反故にできませんよね。」
「ったく、しょうがねぇな…色んな人から同じ依頼されているが…。」
灯来は頭を抱える。だが、風輝に向き直ってこう言った。
「その依頼、確かに承った。」
真面目な顔でそう返すのだ。
「まずは物理的な攻撃から試してみよう。機関砲があったな。」
「目の治療は?」
「あとでいい。優先すべきはそっちじゃない。」
「…了解です。すでに計三十門、奴を射程に捉えた距離に配備してあります。」
「流石風輝。仕事が速くて助かる。」
彼の案内で、灯来たちは機関砲の前に立った。
「一人で十門です。」
「そ、そんなに⁈」
天音が隣で驚く。
「あぁ。機関砲は、連続で打ち続けると、機関が熱くなってしまう。それを冷却する時間が必要なんだが、その間に他の機関砲を使えば連続で撃てるってことだ。」
「でも十門は逆効果なのでは…?」
「んまな。俺が実際に使うとしても、はせいぜい三門を使いまわす程度だ。」
「じゃぁ、他は無意味?」
「いや、そうでもない。弾切れになった時のカバーだ。」
「なるほど。」
説明し終えると、灯来は機関砲で構えた。
「…天音。耳壊したくなければ下がっておけ。」
「あっうん!」
天音が後ろに下がったことを確認した灯来は、三人に向かって指示する。
「胴体、頭部、下半身のどれに弱点があるのかを炙り出す。俺は頭部を狙おう。」
「了解だ。俺は腹部…胴体を。」
「解りました。下半身中心に狙います。」
「撃て‼」
もはや発砲音で全てが聞こえなかった。
その弾は確かに、巨人の頭、腹、腰に命中した。
「…だめか。」
斉射を停止した灯来が言う。
「やはり、実弾じゃどうにもならないか…⁈」
「手ごたえが全くない。どうする、灯来?」
「正直、こいつで全斉射は弾がもったいない気もする。」
「同意見だ。風輝、武装は他にあるか⁈」
巨人は移動をしており、広場の中心で停止した。
「先ほど、灯来さんが仕掛けていたTNTを回収しました。使わなかったのですね。」
「使う機会が無かったからな。よし、それで行こう。紅麗、四駆持ってこい。」
「了解。」
紅麗は小走りで去っていった。灯来と風輝は、テープとガムテを持っていた。そして小細工を少し。そこで、紅麗が戻ってきた。
「これで行けるか⁈」
「問題ない。ありがとよ。」
そう言うなり、二人は用意していた仕掛けを四駆に取り付け始めた。
「こいつを作動させれば、こいつはガソリンの限り延々と走り続ける。用意はいいか?」
「いいだろう。」
「万全です。」
「よし、作動。」
勢いよく走り出す軍用の四輪駆動車。
「こいつで操作できるからいいよな。」
「えっそれ、ラジコン?」
「そう。ラジコンを改造した。…ここにある四駆は全部、このリモコンでも操作可能だ。」
「…ハイテク。」
灯来が操縦したその四駆は、怪物目掛けて走る走る。そして彼の左手に、TNTの起爆ボタンが用意された。
「点火したら五秒後に起爆するから…そろそろか。」
ボタンを押した。
「そんな適当でいいの?」
「目分量は大切だよ。」
そして、車は怪物に近づいて。…直後、一気に爆発。爆発音が響いたのは、四人が燃え盛る炎を見てからだった。
「ジャストヒット!」
喜ぶ灯来。しかし…。
「…ダメなのか‼」
そう、怪物には何ひとつきいていない。それどころか、こちらの存在に気付き、歩き始めていた。それに反応した灯来は、右手の指を広げて地面につけた。
「止まれ‼」
そう唱えた瞬間、辺りの地面に大きく青白く光った魔法陣が展開された。それは稲妻が走る様にして地面を渡り、怪物の足元で再び魔法陣として展開。怪物の足を止めた。
「やはり…魔法は効くんだ。」
そうこぼす灯来。天音はこう言う。
「灯来の魔法とやらで、あれを石像みたく出来ないの?」
「俺はそっち系はあまり得意じゃないんだ…。俺のは身体能力系。それに、魔素が固まるかどうかってとこだよ。」
そこで、魔素の弱点を思い出そうと追憶した。
「…ホルン…お前。」
悔し気に敵の名を口にした。
「落ち着け、灯来。」
声をかけたのは紅麗だった。
「お前には、アイツの倒し方が解ってきただろ?」
「…まぁな。何となく察しはついた。」
「なら俺たちはそれを全力でサポートする。…奴には攻撃は当てられないがな。」
「あぁ…。俺はお前らに助けられてばかりだが…どうやら最後は、俺一人の仕事みたいだ。」
灯来はおもむろに立ち上がる。
「右目、見せてみろ。」
「あぁ。」
「…そう言えば、激戦で忘れてましたが…。目、大丈夫なんですか?」
「大丈夫だ。…痛いが、何とかなってる。」
「だめじゃないですか…。」
「完全に眼球が潰れているな。」
そう言うと紅麗は、灯来の片目を手で覆った。
「見えるか?」
「見えない。」
「光は?」
「それも解らない。片方の視野角が失われ、完全に片目だけしか見えていないみたいだ。」
「そうか…。」
灯来は諦めたようにそうこぼす。
「これで良し。応急処置で怪我全てに包帯巻いといた。あとでちゃんと病院行くぞ。」
「ありがとうな。」
そう言って灯来は身を翻し、巨人の方向へ向きなおした。
「…まだ拘束されてやがるのかノロマめ…。」
「待って。どうするつもり?」
天音が灯来の歩を止めた。
「…奴と一対一の戦いだ。…実力勝負。大丈夫、必ず帰って来るさ。」
「灯来‼」
灯来は、天音の方へ振り向いた。
「生きて帰ってきて‼」
その叫びが、灯来の耳に届いた。
生きて帰る。そう、必ず生きて帰ると心に決め、俺はホルンの元に向かって行く。何もできなかった自分への贖罪も含めて。




