第二十六話 人の影
その命令に従い、銃を向けるLRPの隊員たち。
「構え‼」
紅麗の号令で、彼らは銃を向けた。
「撃てーー‼」
その一言で、一斉に発砲した。
「撃ち方止め‼」
再び紅麗が号令し、彼らは発砲をやめた。
「どうだ…⁈」
思わず声をあげる灯来。しかし。
「目標、見当たりません!」
「死体は⁈」
「駄目だ、何もない‼」
「してやられた!畜生‼」
灯来は悪態をついた。
しばらくの間、沈黙が続いた。その沈黙を破ったのは灯来だった。
「…こいつら、八咫烏商会所は、日本の憲法で分けられているはずの、三つの権利。これを一つにまとめようとしたんだ。行政権、立法権、司法権。この三つを。そう、俺は思っていた。でも違った。…最初から全て、こいつらによって支配されていたのだ。…ここの軍の連中、日本語がやけに流暢だと思ったが。恐らく連中、傭兵でもあり、現在の日本軍でもあるんだろう…。そう、元から日本国憲法の権力よりも強い権限を持った連中が八咫烏商会所。それに気付いたのも…。単調だった。さっきの奴の言葉…やけに落ち着き払って、単調な口調だった。だから敵の接近に気付けた。のはいいのに…結局何もできなかった。」
灯来は己を呪った。
「俺の親父は…そんなことが起こらないように行動を起こしたんだ。…親父が、自ら創業した商店で八咫烏商会所の動きを制約するような経営をしていたのを知ったのも最近のことだ。だからこいつらに摘発されて、罪なき罪で社会から葬られた。…こいつらの力を侮ってはいけない。」
そう言った頃には、周囲に敵が群がっていた。
「まさか、貴様らここまで愚かとはな…。」
背後には、天音がいた。天井から縄でつるされている。
「クッ…人質があの位置じゃ…手の出しようがない。」
紅麗はそう言う。
「天音…。」
灯来が力なく言う。
「灯来…私は、灯来のことを信じる。彼はそんな愚かじゃない。」
目を覚ましていた。学校の制服を着たままだった。
そうだ、彼女はあの部屋で休んでいたまま、ここに連れ込まれて…。
「天音!」
俺は思わず叫ぶ。
「お前はこの男の何が信用できるってんだ?こいつの何を知ってる?こいつの行動の意味か、それとも目的か⁈」
「その全てを教えていない。」
答えたのは俺だった。
「そうら見たことか。お前は無知なんだよ。そんなん、でしゃばるんじゃない。」
「知ってる‼彼の好物や、生活のリズムとか。他の誰も知らないようなこと、知ってる。」
天音は敵兵の一人に反論した。
「天音、お前は…⁈」
「…まぁいい。こいつと交換だ、灯来。こいつと貴様の首をな。」
「そいつぁ、お願いか?」
敵兵の一人を睨みつける灯来。
「命令だよ。」
「悪いね。」
俺は本当に申し訳なさそうな顔をして言った。
「俺は、依頼以外は承らない主義なのさ。」
風輝をそっと地面に寝かせ、そのままゆっくりと立ち上がる。
「貴様‼」
「灯来!」
「天音、もうお前は…。」
「言わせてやれ紅麗。」
俺は紅麗の言葉を遮るように言葉を紡ぐ。
「依頼があるの。」
「行ってみろ。」
彼女は、少し顔を赤らめながら言った。
「私を…。私のこと、一生守って‼」
「条件は?」
辛辣な態度で返す。
「私も、灯来のために尽くす。」
暗闇で怪しく光ったのは灯来の歯だった。見苦しい笑顔を浮かべる灯来。そして、こう呟いた。
「交渉成立。その依頼は確かに、承った。」
その言葉を最後に、彼は隠すことをやめたのだ。
瞬間、敵には何が起こったのか理解できる者はいなかった。一瞬の交錯の中で、彼は天音をつるす紐を切断して天音を人質から救出し、目の前の敵が持っていた拳銃を通常分解してスライドを取っていた。
「そしてもう一つ…。依頼はそつなくこなす主義でもある。」
解ってるさ。…今まで、自分の無力でその主義を達成できず、何度も後悔したってな。左右からの殴りをかわし、その腕を引っ張って二人の大男を一人ずつ丁寧に叩き落す。乾いた音が辺りを反響した。
「それでも、人並み以上の情けは持っている。」
戦う。そこに意味はない。だが、人を守る。天音を守る。その硬い意志を糧に、灯来は再び拳を握る。
「誰も俺の本性に気付けなかったのが落ち度だったね。普通の人間ならそこまで強くはない。だが、俺は違うんだな。天音、思い出してほしい。あの日、超能力について聞いたろ?お前は超能力を信じるかって。」
「は…あの、時も…。」
「嘘ついてごめんな、天音。ここから脱出する時もそうだった。」
「お前は飛べる。どこまでも行ける。」
そうだ、あの日、そう言われた。天音はそれを思い出し、はっとした。
「超能力…あれは本当にある。実在する。それを持った者は全部で四人。全員が、騎士と呼ばれるべき者だった。だが、そんな連中の中でも、その輪に入れない者もいたんだ。」
「おい待て灯来。それって、それって‼」
「これは魔法だ。科学じゃない。非科学なのだ。だが、残念なことにその原因を作ったのは科学。つまり、科学が非科学を作ってしまったんだ。俺も詳しい原因は知らない。だが、ある人物にその現象が起こってしまった。彼は、彼の最も信頼していた人物四人に、彼の持つ力の一部、魔法そのものを分け与えた。」
灯来は止まらなかった。早すぎて目でも追えない。
「俺は主に、瞬間移動、光速移動、力量増加や浮遊もできる。自分の身体能力を飛躍的に上げる。そんな力を得意とする魔力の持ち主だ。」
「速い‼」
「灯来…さん…本当の化け物に…。」
「人の影を持った化け物さ。それが俺なんだ。天音にも大分嘘を吐いたな。俺は三人兄弟じゃない。本当は四人兄弟だ。隠していた。すまない。」
敵の数は数えきれないほどにいた。何千、何万の敵がこの空間に目掛けて押し寄せてきていた。だが灯来は止まらなかった。
「俺が全員殺す。全員下がれ。」
灯来が一言そう言うと、全員が立っていたその地面に、水色っぽく発光する巨大な魔法陣が描かれていた。
「魔法使うのにこれが描かれるの不便でさ。…天音、君に使った時は大きさを最少にしてたんだ。もしかしたら、これみたく、足元が青白く発光していたのを見れていた。」
戦いながら、灯来は語った。
「風輝、お前は全員をこの外に避難させろ。ここは俺一人でいい。」
「…了解です。」
少し休み、再び立ち上がった風輝にそう言った。
「紅麗‼お前は天音を守れ‼」
「それはお前の仕事だろうが。」
そう文句をいいつつも、紅麗は天音を庇うように構えた。ほとんど素手だ。銃を抜く機会はほとんどなかった。灯来は、ほとんど体術や素手の殴り、蹴りで敵を無力化していた。
「灯来、十秒耐えろ‼」
瞬間、彼は手榴弾を投げた。
「引け‼」
その合図で、灯来は思いっきり後ろに身を引いた。
「紅麗…。」
「お疲れさん。…こんなでかい事、隠さないといけなかったのか…。」
「その通りだ。今まで隠してて悪かった。」
「いいさね。お前のことだ…もう慣れた。」
「おいおい…。それより、天音は?」
「…気を失ってるみたいだ。」
「流石に冗談がきつすぎたか…。」
「…というか、恐怖で気を失ったんじゃ。」
「かもな。」
灯来と初めて目を合わせた紅麗が目を見開いた。
「お前…その目…。」
「あぁ…。両目に魔法陣が刻印されてるだろ?」
「…ほんとだ。俺が気になってるのは、水色に光ってることだよ。」
「科学と魔法の違いを教えてやるよ。」
灯来がそう一言言った。
「…違い?」
灯来は、手に意識を集中させて目を瞑った。
「んなっ⁈」
ボッという音と共に、彼の手の数センチ上に炎が現れた。
「これだ。」
紅麗が、恐る恐る炎に手を近づける。
「…熱い。」
「そう。正真正銘の炎だ。科学は、有から複雑な事象を形成する。魔法は、無から単純な事象を生成する。これが大きな違いだ。だからこの、魔法と科学を組み合わせれば。」
「環境に害のない新たな人間資源を獲得できると。」
「ああ。だが、人間が触媒になることと、それによって世界各国の大手発電会社が一気に倒産して市場が狂う事が懸念されていて、そんな研究結果はとうの昔から消し去られているんだ。これが人間なのさ。」
気配だ。何か、今気配を感じた。
「…俺には、二つ名があるんだよね。…ほら、出て来いよ、兄弟。」
先ほど消えた三人と同じ少年が現れた。彼らの背後に、若い男性の様な人が座っているのが見えた。
「ホルン…。まさかここまで廃れちまうとはな…。」
瞬間、また戦いが始まった。
「炎の使い手…ソール。影移動の使い手…ルナ。読心の使い手…イシュタル。」
一人一人の名前を呼んだ。
「セイッ‼」
その一言で、一気に近づいてきた三人を蹴り飛ばした。灯来は戦う。戦いながら、続ける。
「俺は、真の裏切者だ。俺こそが、四人の騎士最後の一人。超能力者。」
天音が目を覚ました。
「んっうっ…。と、灯来…。」
灯来は溜めていった。
「俺の名は、偽り[Lie]だ。」
感じる。周りの人々、味方までもが息を呑んで驚愕しているのを感じる。
「さぁ…悪党さん。我が兄弟よ。日本のすべての上を行く貴様らが、日本の最下をちょこまか逃げるネズミ共…俺たちに勝てるかな?」
「ライ‼…やはり貴様が…なんの真似だ?」
「貴様もこちら側のはず…。」
「この…裏切者が。」
灯来は薄気味悪く言い放つ。
「兄貴共…あんな連中を操って、心までイカれたか愚か者め…。」
「貴様…。」
「殺す…。」
「おい、消えろよ。」
一本のナイフを抜刀する。そして、天音に手を差し伸べて、庇う動作をしながら言うのだ。
「…貴様らの本気とやらを…見せてもらおうか‼」




