第二十三話 真実の追跡
…灯来は道中、淡々と自分の感じた様々なことを、とうとう隊員に明かすのだ。今まで彼が秘密にしてきたことの一つである。彼らは、耳を疑った。
「…俺がまず最初に違和感に気付いたのは、最初の最初だ。…天音と出会った頃。」
「そんなに前なんですか。」
「そう。…最初は何故違和感を感じたのか解らなかった。…今思えば、あの時点で俺たちは巨大な罠に足をとられていたも同然だろう。…あの頃から俺たちは、八咫烏に…。」
悔しそうに唸る灯来に、思わず声をかける風輝。
「あの日から…って、かなり前からじゃないですか。」
「その通りでな。…愚かなもんだよ。」
灯来は拳を握る。革の手袋がギチギチと音を立てる。
「…どうして、気付けなかったんだろうな…。」
そう自分を呪い、深呼吸して告げた。
「あの日俺が感じた違和感は、とても言葉では表せない。…でも、何かおかしい。そう感じた。…直感でだ。第六感…とでもいうのかな。」
「それ、灯来さんですと、笑い話に出来ないんですよね。」
草の芽をよけながら歩く風輝が言う。
「そうかもな…。違和感の正体は結局、解らずじまいだった。その次の違和感は、連中の下っ端、猪狩組を狩った時だ。…〝信頼できんが、信用に足る〟女の正体…。こいつが、解らずじまいだったこと。ここに違和感を感じた。何故だか、何かに引っかかる鍵なんじゃないかと。」
灯来は歩きながら、あの日を思い返した。
「あぁ…そう言えば、そんなこと言ってましたね。長い事色々な事があって忘れてました。」
吹きは苦笑気味にそう返した。
「仕方ない…俺もしばらく忘れてしまっていた。」
灯来も、首を横に振った。
「でも、思い出した。…そうですよね?」
「その通りだ。そんでもって例の高校だ。…あそこも最終的には制圧し、色々と吐いてもらったんだが…警察に任せるしかなかったのが痛かったな。…あそこにもいたらしい。例の女の存在がな。」
「いたんですか⁈」
「あぁ。…それだけじゃない。…あの地下の大要塞の時もそうだ。…連中は高校の件で学んだんだろう…俺たちは、警察の行動を完全に制御できないという弱点を。」
「…だから八咫烏たちは、マスコミに情報を開示して錯乱させた…。」
「その通りだ。そう考えるとほら、合点がいく。」
灯来の頭の中で描かれていた蜘蛛の巣のようなイメージが、徐々に中心に迫っていくのを感じた。
「ここまでくれば気付けばよかったよ。…俺も馬鹿だな。」
灯来は、そう自分を呪った。
「しかたありません。…敵はかなり強かった。それだけの事です。」
灯来は、水を一口だけ口に含んだ。
「…俺の家が連中に侵入されそうになった日のことを話そう。…結局、侵入しようとしていた四人組も、依頼主は知らないと答えた。つまり、それなりの実力者とみて間違いない。」
「だから灯来さんはこう思い至ったわけですね。その依頼者も、例の女だと…。」
「その通りだ。」
風輝もこの話についてこれたらしく、時々言葉を交わしている。灯来の声が、少しずつ震えていくのを感じた。
「…あれはただの、威力偵察だったんだ。…俺が俺たちを…いや、天音を安全な、戦力と防御力を兼ね備えたこの基地に連れ込むと考え、それを実行させるために仕組んだ威力偵察だったんだろう。…それにまんまとハマった俺は、お前や天音を、この基地に移動させた。…その時、本拠地の位置を敵に知らせることにもなった。…俺はここの軍力を信じていたが、連中はそれをはるかに上回る戦力で攻め立ててきた。…勝負を付ける気だったんだ。」
「仕方ありませんよ。事実ここが一番安全でした。ここ以外でも破られてましたよ。」
「そう言ってくれると救われるが。」
灯来も、まだ考えが全てまとまっていないといった顔をしている。
「そして、彼らはこの基地を攻めた。圧倒的なまでの戦力差を見せつけて。」
「あれで、灯来さんは残された戦意の半分を折られてしまいました。」
「…まさにその通りだな。」
風輝が、どや顔を灯来に送って見せた。
「だから考えてなかったんだよ。…まさか、学校まで攻められるだなんてな!」
そう、学校とは、彼らにとって隠れ家。それなのに見破られ、一瞬で蜂の巣になってしまったこと。灯来は、この点に酷く腹を立てていた。
「すぐに気付けなかった。…俺の責任だ。」
そうとだけ言って、彼は告げた。
「スパイは、すぐそこにいた。…俺たちの高校の教師。…鍵沢穂希。」
「鍵沢先生が⁈」
「…天音に俺を紹介したのも彼女なんだ。…彼女は、俺の仕事内容をあまり知らない教師だったのにも関わらず。…そこが違和感だった。なのに気付けなかったんだ。」
風輝も目を見開いて、唖然としている。
「思い出してみてくれ。今までの事を。」
灯来は、天音と出会ったあの日のことを思い出した。
灯来は思い出す。天音と出会ったあの日の事を。
「…鍵沢先生から…です。」
そして灯来は、こう結論付けた。
「…緋居天音が鍵だ。」
風輝も、彼女と出会った頃を思い出していた。
「灯来さん、いつか、彼女は最後のピースになると言ってましたよね。」
「そうだったな。…まさに、彼女は最後の鍵だった。俺たちは、鍵穴を探していただけ。に過ぎなかった…。最初の違和感の話になるが。…あれは多分、鍵沢という教師が天音に、俺の存在を教えたことがそれだろう。鍵沢は、元々俺の存在には詳しくないはずなんだ。なのに、俺の存在を天音に教えた…。そこが、大きな違和感だったに違いない。彼女の父親が猪狩組の首領だったがために狙われた天音。そして、それを助けた俺。…八咫烏は、昔から長年探し続けた俺の存在を見つけられたんだ。連中の狙いは、天音を仲介させて俺を八咫烏どもと接触させる作戦に移行しようとした。…だが、連中にとって盲点だったのは、俺たちの行動が思いの他早かったことだ。…先手を打って、高校と地下要塞…二つの資金源を俺たちに潰されたから。…だから、制裁措置として、マスコミに情報を流して錯乱させたんだ。…俺たちの行動をより混乱させるために。」
今までの、様々な戦いが蘇ってくる。校長の自殺、マスコミへの情報漏洩で捜査が難航した地下要塞事件…。その多くが、灯来の頭の中で、一本の線へと整列していく。
「…待ってください。…鍵沢さんが、例の女だとするなら…。あの高校は…。」
「そう。…恐らく、彼女はただ雇われただけだ。…俺の存在は知らされていなかった。」
「雇われたって、彼女は雇われた上で傭兵を雇ったってことですか?ってことは、組織に情報が渡ったのは…。」
「そう…。最初のあの事件…生き残りがいたんだ…。クソッ‼」
そう言って灯来は、崩れて苔むした石垣の跡を殴った。
「でも…あの場所には通信設備があったみたいですし…。」
「…それで傍受していた可能性もあると…。」
「そうです。必ずしも、灯来さんのせいとは限らないはずですよ。」
「そう言ってくれると助かる。」
一泊を置いて、現状についての話を持ち出した。
「連中は俺たちの主戦力を奪おうとしたのは、彼らの主戦力基地となった地下拠点を制圧されたからだろう…。そこで彼らの恨みをかって、俺たちはまんまと罠にはまったんだ。…鍵沢の戦術か…。彼女は侮れない。」
「つまり、情報を整理しましょう。彼らは最上部の決定機関があり、彼らに雇われた例の女、鍵沢教諭は、傭兵を雇って集結させた戦力を私たちに制圧された復讐として、この基地を占拠した…と。」
「そう…彼女は、俺たちが落としてきた三つの組織の内の、一つを雇った傭兵だったんだ。」
灯来は、こう続けた。
「だが、彼らの最上部は、そんな彼女の働きによって浮き出てきた情報を利用して、ある作戦を思いついたんだ。…天音を人質に、俺をおびき出す作戦だ。」
「どうして…灯来さんを…。」
「さぁな。だが、連中が馬鹿じゃないことを考えると、天音を攫った理由がそれしかない。何故なら、彼らが鍵沢を仲介させて、俺たちの高校を攻める理由がない。リスクが高すぎる。こうやって種がバレる可能性もあったからな…。八咫烏。まだまだ彼らの真相は掴めないが、連中のターゲットが俺だと解った以上、鍵沢含め、いらない連中を始末しにかかるかもしれない。…仲間思いだとは思えないからな。」
そして彼らは歩き続ける。彼らの、基地を取り戻すために。
「…灯来さん。私、あなたのおかげで、伝説の謎…解けちゃいました。」
「…解りやすかっただろ?俺のヒントは。」
「えぇ…とても。でも、まだ解らないことだらけです。…大きな謎も残ってます。」
「…俺も、全てが解っているわけじゃない。…この件を片付けたら、そっちも解明してやろう。…そのためにも、早くここを落とそう。」
灯来はそう決意し直し、彼らと共に歩くのだ。
灯来は、目の前の巨大な建物を見て、こう呟くのだ。
「…見えてきたぜ。…兵器の宝物庫。第一格納庫だ。」
目の前に聳え立つのは、かなり巨大な格納庫だ。近所の体育館をそのまま巨大化させたような…迫力のある建物だ。
「…中には確か、小型の戦闘機が三機、大型のが一機格納されています。」
「…そういや、俺たちは戦闘機少ないな。」
「この作戦の後、追加しますか。」
「そうだな…海上隊も終結させるか…。」
「どこから技術者引っ張るんですか。」
「ご近所さん。」
「…自衛隊も、そろそろ私ら見捨てるんじゃないですかね。」
「バカ言うなって。」
灯来と風輝は苦笑しつつ言った。
「…内部の警備はかなり固いかと。…用心しましょう。」
「了解した、風輝。」
そして、その指示は訪れた。
「これより、重警備区域突入。総員、こころして潜入せよ。」
「「了解。」」
先頭班の一班長が指示をしたのだ。
「…いよいよだ。ミッションも残り後半…折り返し地点だな。」
そう、中はかなりの警備だった。ほぼすきはない。しかし、灯来は、三班にある指示をしていた。それが、功をなすか仇となるか。
「警備、交代しろとの指示です。」
「了解…所属は?」
「通信支部西棟、Cの三十三番です。」
「西棟…?」
「あ…いえ、本棟…でしたね。すみません、他地区の癖で…。」
「あぁ…はは、確かにあそこ、小規模だからな。本棟ってのも言いにくいかもしれん。」
「…やっぱり、施設が大きいと混乱しますよ。…とくに、ここなんか筆頭に。」
「解るぞ。職業病はおそろしいな。よし、ここは任せたぞ。」
「了解です。」
「よし、七班、移動だ。付いて来い。」
そして、彼らは移動していった。
「こちら駆真。聞こえるか別動隊。」
「良好です。」
「そちらに、五名、第一格納庫警備七班の面々が向かう。制圧できるか?」
「できます。余裕です。ですが、気を抜かぬよう、彼らを殲滅します。」
「頼んだ。」
「了解です。」
灯来は、少し考え込んだ。
「…今更だが、傍受されてたら怖いな。」
「我々の行動がバレていたらかなりまずいですよね。」
「あぁ。…まぁ、あんだけ隠密に行動していたんだ。バレていないとは思うが。」
「心配にはなりますよね。まぁ、バレてなければ傍受もされません。大丈夫ですよ。」
「だといいがな。それに、連中は戦力がある。端から傍受する気などないのかもしれん。」
灯来は、一歩前に出てこう全班に指示した。
「突撃。」
この一言で、どんどんLRPの隊員が格納庫内に広がっていく。彼らは、作戦前の会議での、灯来の指示を聞いていた。
「…格納庫は響音声が高い。…だから、外部への音漏れは少ないはずだ。あそこでなら、銃をバンバンすることができるだろう。が、全員サプレッサーを装着することだ。」
その言葉通りだった。一人が撃っても、外部に音が漏れることは無かった。彼らは走る。自ら鍛え上げた自分の強さを武器に、敵と戦うのだ。
「待ってろ…今、迎えに行く。」
そう呟く灯来もまた、愛銃スコーピオンを振り回していた。敵がこっちに顔を向けたら一発。顔面に撃つ。後頭部に撃つ。側頭部に撃つ。そして格納庫内には、死体が格納された。




