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英雄は砕かれた  作者: 大空界斗
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第二十話 信頼関係

「右舷よし。」

「左舷よし。」

「前よし、後ろよし、前進。」

先頭班の素早い行動により、どんどん前進していく。

「…いきなり敵の警戒が厳しい地点を通過することになりますね。」

「あぁ…通信支部だな。食糧庫もここだ。備蓄は少しだがある。」

「回収していきますか?」

「そうしよう。各班、この先通信支部を制圧した後、食糧庫にて食料を調達する。」

「現在の装備で十分じゃないんですか?」

「そうだろうがな。各班に二つまで回収を可とする。それ以上は荷物が多くなる。最低限に。」

灯来は、無線で各班に指示をだした。

「こちら駆真。紅麗、聞こえるか?」

『良好だ。こちら悔朱。』

「これより通信支部の制圧を開始する。制圧後、別動隊の一部を見張りに置いてくれ。」

『了解。規模は?』

「別動隊、生き残りは何人だ?」

『ざっと五百人はいる。』

「…了解。二百人を借り出してくれ。」

風輝がそれに反応した。

「それ、うちの軍では小隊規模ですよね。」

「まぁな。別動隊は中隊規模ではあるが、流石に全員寄越すわけにはいかない。」

「…確か、生き残りと全国のLRPを集めると、師団並みには人数は集まります。」

「…軍団までいかないあたり、戦争は無理そうだな。」

「ですね。」

灯来と風輝は、前陣に続いて支部に到達。二人も扉をくぐる。ここからは、声を出してはいけない。しかし、速いのだ。制圧速度がとんでもなく速い。見る見るうちに制圧されていく。すでに一階の制圧は完了したのだ。

 …暇だ。いくら見張りとは言え、暇だ。こんな夜遅くに…眠い。敵なんてくるのかよ。こないだろどうせ。こんな見張りなんて、何の役にも立たない。そんな愚痴を心中で呟いていた。銃をぶら下げながらほっつき歩いていた。直後、音もなく侵入した誰かによって、俺は壁にぶつけられ、後ろから銃を突き付けられ、こう言われた。

「動くな。」

俺は従うしかなく、持っていた銃を床に下ろしたのだ。

「…もう制圧したのか。」

「はい。支部東棟は完全に制圧しました。」

…こいつら…何者なんだ。


「…よくやった。一階渡り廊下に隠れて待機。陣形を整えておけ。」

「了解。」

「さて…他の連中は悪いが殺させてもらった。残っているのはお前だけだ。解るな?」

男から無言の返答が帰ってきた。

「お前は、どこの所属だ。」

答えなかった。ボキッ!いやな音が響く。男の叫び声は、灯来が口をふさいだことによって響かなかった。

「答えろよ。叫び声とか出したら殺すけど。…さっさと答えな。」

「お…俺は、傭兵だ!日本近海を本拠地にしてる、傭兵…訓練も受けてる!」

「よし。…雇ったのは誰だ?」

「し、知らない…リーダーしか!」

「リーダー?」

「…リーダーなら、出入口の警備にいる。」

「そらそうか…。連中、意図してこの陣形にしてる可能性があるな。」

「それ以外は何も知らないんだ!頼む、助けてくれ‼」

「解ったよ、今、楽にしてやる。」

「はぁ?」

彼が呆けた声をあげたと同時に、灯来はその男の口を手でふさいだ。右手にナイフを手にして。そして、彼の首を切ったのだ。

「仲間のもとで…安らかに眠れ。」

そう言葉を残して、灯来は主動隊と合流するために、階段に向かった。

「おっと…。」

灯来は、何かを思い出したかのように、四階、最上階にある通信施設に向かった。

「こいつを忘れてた。…プレゼントだ。」

C4爆弾…これをシステムのサーバーに設置した。

「これで、起爆すれば通信網は半分ダウンする。」

そのまま、階段に向かった。しかし、道中こう呟いてしまった。

「後で修理するのが面倒だが…まぁ、増援との連携を断てればいいか。」

そう思い直し…いや、言い直し、彼は部隊と合流したのだ。

「これより、通信支部本棟への潜入を開始する。」

先頭班が説明をする。

「この先食糧庫だが、制圧後の回収となることを忘れるな。突撃。」

その合図で、全体が動き出した。

 …そうだ、思い出した。いつか、俺は味方に、〝伸ばす鼻はない〟と嘘をついていた。俺は、嘘ばかりついている。味方さえも騙している。今更だが、思い出せた。…でも、お前らは…いつも俺を信じてくれた。だから、これからも頼りにしてるぞ。

「灯来さん…。」

俺は、堂々と渡り廊下の真ん中に立っていた。風輝が俺を呼ぶ。

「風輝、ここからお前らが出立したら、俺はゆっくりと歩く。お前らは、通常通りの潜入を試みてくれ。」

「何をするつもりですか?」

「…この廊下を塞ぐ。」

「たった一人で…ですか?」

「そうだ。ここを塞いで、別動隊の前進を支援する。」

「了解です。」

そう言って、風輝は前の隊員の肩に手をやった。俺は彼と目を合わせる。そして、息を合わせ、二人は同時に軽く頷いた。

「待ってます。」

「すぐ追いつく。」

そう言って、俺は進行方向に目をやる。

「指揮は頼んだぞ。」

「お任せください。あなたの腹心として。…最後までやり遂げます。…前進。」

そう言って、再びポンと、前の隊員の肩を軽くたたく。これが、先頭まで伝わるまで十秒かからないほど。指揮官が真ん中にいるため、情報が伝わりにくい中、素早い行動である。

「頼んだぞ…お前ら。」

俺は、さっそく動き出すのだ。

「…俺たちが真ん中?今までの陣形では考えられないな。」

俺は、作戦会議の直前、紅麗に告げられた言葉を思い返した。

「そうだろうがな。…お前は、隊の中でも最も若い。…死なせるわけにはいかないんだよ。」

「俺が死んでも次がいる。俺はあくまで指揮官だ。指揮官は皆を指揮し、失敗したら死ぬ。」

「違うだろ灯来。…お前はそう簡単に死ねないはずだ。違うか?」

「…。」

答えられなかった。図星だから。俺は無言を返すのだ。悔しげに左手で拳を握りながら。

「お前は依頼を全うしろ。」

「だが、その為だけに多くのLRP隊員が犠牲に―」

「なるかもしれないだけだ。…もう少し俺たちを信用してくれ。」

「信用…?」

「お前は、人を信用することを恐れている。…そうだろ?」

紅麗の目は、睨みに近かった。彼の恐ろしい目が、ギロリと俺を射抜いている。

「天音は…彼女も、人を信用することを恐れていたな。」

「…解ってたのか。」

「見てれば解る。…まるっきり俺のことを信用してなかった。」

「それだけ?」

「命の恩人をあぁまでもあからさまに避けるか?」

「…それもそうだが。」

「お前は彼女に言ったんだろ?俺を信用してくれって。」

俺は目を見開いた。

「何故…それを。」

「お前の言いそうなことさ。…これでも、何年警察やってきたと思ってんだ。」

そうだ。コイツは…もう、十年近く警察をやってきたベテランだ。今でこそLRPに移籍して長いが、コイツは警察としても長い。…当時の勘は、今も現場で生き、俺たちを射抜いていたのだ。コイツも、只者ではない。

「ならさ…お前も、信用しないとダメだろ。」

「信用はしてる。」

「…あぁ、ごめん。語弊があったな。…俺たちをもっと信頼してくれ。」

「信頼…してるよ。」

「もっと頼れ。確かにお前はかなり強い。多分、警察でもお前に勝てる身体能力を持った人材はいない。LRPでも同じだ。お前だけズバ抜けている。…でもな、だからって、俺たちが弱いからって、信頼されないのは仲間としてどうか。…頼られないのはどうか。…少し、俺や風輝にも、悔しい部分があるんだ。…お前が俺たちを強く信用してくれているのは、感じる場面がある。だが、頼られていない。お前は、周りが死んでしまうかもしれないリスクを恐れているのか、自分でやる方が確実だとでも思っているのか、俺たちをあまり頼っていない。責めたいわけじゃないんだ。だが、理解してくれ。俺たちは、頼ってほしいんだ。頼られたいんだよ。俺たちにとっての、上官でもあり英雄の、駆真灯来…お前に。」

俺はしばらく、言葉を呑み込んだ。

「…英雄なんて、言い過ぎだろうが。」

「今までの功績じゃ、ライも驚きの戦果だぞ。」

「…奴には頭が上がらないがな。…俺にとってもライは英雄さ。」

「なら…お前は、LRPのライだ。誰もが認めるってな英雄…。」

「いや俺は―」

「なってるよ。お前は、もうすでになってる。お前はもう、英雄なんだよ。」

「英雄…かよ。こんなに、無様に敗北ばかりしてる俺が‼」

「英雄ってのはな。」

紅麗が、俺に詰め寄った。

「一度は敗北するもんなのさ。」

思わず、俺は一歩後退る。紅麗の真面目顔は、かなりの迫力だ。

「シグルズは暗殺に合い、アーサーは謀反に合う。ライだって、籠城まで追い詰められて。」

紅麗は、ますます俺に詰め寄る。

「敗北無しに死を遂げた英雄なんていないんだよ!」

俺は後退ることをやめ、紅麗の言葉を聞き入る。

「お前が弱くてどうする。お前以外で、誰が代役を勤められる?誰が彼女を救える?」

彼は、怒声にも似た覇気で、こう灯来を叱った。

「変わりなんていねぇんだよ‼彼女の!天音の心を埋め合わせられるのは、お前だけなんだよ‼あの依頼をこなせるのは、全人類でお前だけなんだよ‼」

物凄い覇気だった。俺は、彼の覇気に感服していた。

「…ったく、うるせぇんだよ、どいつもこいつも。」

そう言って、俺は紅麗の目を睨みつける。

「ありがとうな、叱ってくれて。…俺もいい加減、強くならないと…もう、あの日の二の舞はごめんだ。次はない。この機会に必ず、必ず、逃がさず奴らを…八咫烏どもを。」

「おせぇよ。…お前はお前の仕事を全うしてくれ。」

「了解した紅麗。お前のおかげでまた一つ、目が覚めた。枷が外れたよ。」

「切り替えが速いんだお前は。普通時間かかるもんだぞ。」

「いいだろ…それが俺、駆真灯来なんだから。」

「そうだな。…俺たちは俺たちの仕事を全うする。俺たちの仕事は、お前の死守だ。」

紅麗はそう言って、皆を集める。

「作戦会議を始めるぞ、全員集合してくれ‼」

俺は紅麗に疑問を投げた。

「死守?それ、どういうことだ?」

「俺たちを頼ってくれ。」

俺は目を瞑り、深呼吸をして紅麗にこう告げる。

「…やり遂げてみろ。お前なら…いや、お前らならいける。」

そうだ。俺はそう言葉を残した。

「これより、本拠地敵占領区画への潜入作戦の説明を、紅麗より受ける‼」

 一人、残された灯来は、壁になる障害物を形成していく。

「紅麗、別動隊を出してくれ。お前はそこで待機だ。」

そう紅麗に指示を出す。より入りにくく、より入り組んだ壁を。迷路のような壁を用意していく。さほど高くはしない。崩れたとき不利になるからだ。崩れないように、壁を形成していく。完成したそれは、本当の意味で迷路の障害物だった。完成したタイミングで、別動隊が来るのだ。

「お疲れ様です、灯来さん。」

別動隊の面々は、ここで待機。そこから少しずつ人員を各地に回す方針だ。灯来は、今までにない使命感と、絶対的な戦意を持っていた。喪失することのない戦意を。志を。

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