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英雄は砕かれた  作者: 大空界斗
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第十八話 絶望が講話する

 鉛色の雲が、この空を飽和している。そして、勢いを増して強く地面に叩きつける雨は、風輝と千夜をずぶぬれにした。そこに響く、一つの発砲音…風輝は、自分の愛銃、MP-5を天高く掲げ、その銃口からは微かな煙が…直後、雨によってそれはかき消された。灯来は、驚いたような表情で、風輝を見る。

「何やってるんですか、灯来さん。あなたの死が、一体どれだけの人を失望させると思ってるんですか。私は、とてつもなく重いものを背負いながらも、一人戦っているあなたを尊敬していたんです。なのに、最後は自殺ですか。なんですかそんな終わり方…納得できませんよ。…身勝手ですが、私はあなたに期待しているんです。この…弱い私を今まで導いてくださった。そんなあなたに、身勝手ながら期待しているんです。紅麗さんだってきっと同じです。決して弱いと言える人材ではありませんが、少なくとも灯来さんに期待を抱いています。彼ら、八咫烏とかいう大きな敵を倒してくれると。それは、天音さんだって同じでしょう⁈依頼は反故にはしないんでしょう⁈なら、最後まで灯来さんらしく戦ってくださいよ‼負け戦はしないでくださいよ‼必ず、勝ってくださいよ‼」

「…風輝。」

灯来は、ゆっくりとスコーピオンを下ろした。

「そうだ…何やってんだ、俺…馬鹿言う暇あったら、頭動かして行動しろよ…。」

そう言うと、灯来はゆっくりと、おずおずと立ち上がる。

「ありがとう、起こしてくれて…こんなところで、へこたれてる場合じゃない。」

「そうです。…灯来さんらしく、敵を一掃しちゃってください。」

「そうだな…そろそろ借りを返してやらないと…。」

そう言うと、灯来は二人にこう言った。

「早く屋根のある所に。風邪ひくぞ、着替えて風呂でも入ってこい。」

そして、こう続けるのだ。

「…次はこっちから仕掛けるぞ。」

そう言う灯来の目は、闘志に燃えた戦士の目だった。

「灯来さん、あなたの体温のせいで、当分風邪は引けそうにないです。」

「んで…風輝、お前ってナンパの趣味あったっけ。」

人見知りをして風輝の背中に隠れている千夜を見てこう言った。

「あぁ…っと、先ほど渡り廊下の倒壊で落ちそうになりまして、そこを救いました。」

「やるじゃねぇか。お前も強いよ、俺を起こしてくれたし、彼女を救いもした。」

未だ陰に隠れている千夜に目を合わせてこう言う。

「駆真灯来だ。よろしくな。」

「…紫月千夜…なのです。」

千夜もおずおずと答えた。

「よし、体育館に移動しよう。とりあえず、濡れない場所に。体を冷やすな、走るぞ。」

灯来のその指示で、二人も走り出した。灯来もスコーピオンとMP-5を拾い、走り出す。灯来は、通信で紅麗と繋げるのだった。

「聞こえるか紅麗。」

『ギリギリ良好だ。どうした。』

「状況は伝わっているか?」

『高校が連中…八咫烏にやられたんだろう。』

「そうだ。それで、天音が連れ去られた。恐らく、人質にするつもりだ。」

『なんだと⁈』

「あれだけの大部隊だ。跡が残らない訳がない。別動隊を派遣して、連中を追ってくれ。」

『了解した、すぐに派遣する。』

「助かる。」

この会話の内に、体育館にたどり着く。

「風輝、俺はここの全校生徒たちは小体育館に避難しているんだったな⁈」

「そうです。」

「なら、そいつらを帰宅させる旨を伝えてくる!お前はここに、主動隊を集合させろ‼」

「了解です‼」

そう言って、灯来は扉の向こうに消えていった。

「紫月さん、あなたも、帰宅してください。」

「…解ったのです。」

「風邪をひかないよう、気を付けてくださいね。」

「あの…。」

「?」

風輝が、振り向いた。

「…ありがとう…なのです。」

「…あぁ、こちらこそ。」

千夜も、走って扉の方に向かった。

「こちら風間。至急、主動隊を招集します。体育館棟四階、体育館に集合してください。」

風輝は、さっそく動き出した。

「繰り返します。至急、主動隊は体育館に全員招集。急いでください。」

そして、風輝はステージの上に立ってメンバーを待つのだった。


「現在、紅麗率いる別動隊から、今回俺たちの敵、〝八咫烏商会所〟の軍隊は、俺たちの本拠地を占拠したあの日から、あの場所を彼らの寝床として使っているとの情報が入った。こうなった以上、連中に手を出すためには、自らの寝床を自ら荒らす他ない。…苦悩な戦いになるだろうが、皆の健闘を祈る‼」

「「ハッ‼」」

集まった二百もの主動隊が、灯来の言葉に耳を傾け、彼の言葉に了解の意を示した。

「これより、風見の示した班構成で行動してもらう。各班、班長の指示に従って冷静に対処せよ。俺は特殊班の指揮を取る。同時に、この小隊の指揮も取ろう。一班、二班はホッとゾーン突撃、敵視認と同時に支援射撃。同じく三から十班までが前衛と交代で支援。そのほかは十一から十五班は中衛、残りの五班は後衛の守りを固めて、前衛の交代を援助、支給等で動きにまわれ!」

「「ハッ‼」」

威勢のいいメンバーの返答が届いた。

「よし、これより、作戦展開地域へ部隊を展開する。移動急げ、解散‼」

「「ハッ‼」」

その声を合図に、一斉に部隊は一糸乱れぬ動きで体育館を後にした。

 紅麗は、基地を見渡せる高台から本拠地を見下ろしていた。敵地偵察である。

「…紅麗。」

小声で灯来が話しかける。

「早かったな。…何とかなったか。」

「あぁ、風輝のおかげでな。あとで銀星勲章な。」

「それ、銀星章じゃなかったっけ?」

「勲章の方がかっこいいだろ。」

「そこは個性だろ…。風輝、交戦したのか?」

「いや、俺を助けてくれた。」

「それシルバースターの使い方間違えてないか?」

「気にするなよ。…状況は?」

そこでようやく、灯来は本題に入った。

「警戒態勢はまだ薄いようだ。だが、連中銃を肌身離さず持ってるようだ。そういう訓練をされているんだろう。…注意しろ。」

「偵察感謝する。スニーキングポイントを指定してくれ。」

「…この先、高台を下った先に、水道管がある。そこを伝って内部に潜入できるはずだ。」

「エンジンルームからのスタートになるな。了解した。総員、指示まで待機!十分後に出立する‼」

灯来は、彼らの返答を聞いた後、風輝の元に向かった。

「今日は、お前は特殊班だ。よろしくな。」

「え…私が、ですか?」

「おう。」

「…よろしいのですか?私のようなものが最も安全な地帯にいて…。」

「あぁ、その方が望ましい。お前も十分に強くなった。」

風輝は、未だ申し訳なさそうにしていた。

「あの時、俺はどうしようもない暗闇に独り捕らわれたようなイメージを持った。どれだけ叫んでも、誰の耳にも届くことはなく、誰からも相手にされない。そんな、真っ暗闇な孤独の感覚を覚えた。それが今でも怖い。こんな短期間でトラウマってのができるもんなのかと、今でもぞっとしてる。だが、それでようやく気付けた。お前の銃声を聞いた時は、自らの死を覚悟したよ。でも、死ななかった。だから驚いて、お前の音のする方を向くとさ…真っ暗闇で、誰なのかも解んないのに、聞きなれた声で叫んでるんだ。それがお前だと理解するのに時間がかかって…俺はその暗闇の中で、光を見た。お前の言葉…とりわけ、お前の叫びとなった声が、その振動が、暗闇では光として俺の元に届いた。あれが、希望なんだな。あの暗闇は、どうしようもない絶望。後悔、不安、失敗によって積み重なった負の感情…とりわけ絶望だった。そんな絶望が、深い闇が…奈落の暗黒が照らされるほどの強い光を見たんだ。絶望が教えてくれたよ。これが希望だって、講話してくれた。それが、希望だって気付いたのは、お前に目を覚ましてもらえたからだ。お前が、俺が負け戦をしていることを叱ってくれなければ、あのまま俺は奈落に落ちていただろう。だから、救ってくれてありがとう。」

「…そんな、壮絶なことをあの、たかだか二、三秒で繰り広げていたんですか…ますます人間離れしてきましたね、灯来さん。」

「そんなにか?」

「ええ、そんなにです。灯来さんが普通の人間でしたら、今頃LRPなんて存続してませんよ。」

「…だと良いがな。」

風輝は、天を見つめながら灯来にこう語るのだ。

「灯来さん、いつか言ってましたよね。伝説や宗教の始まりには、必ず神が存在するって。私は、実はあの話を聞いて、ずっと困惑してたんですよね。…でも、ようやくその意味が解ったような気がします。もしかしたら灯来さん…あなたが、伝説の神なのかもしれません。」

「どこの伝説だよ。」

「この、八咫烏狩り伝説ですよ。」

「…狩りの伝説には必ず、頭のキレる神とアホの神、そして、馬鹿で無敵な獣がいるもんなのさ。残念ながら俺と紅麗はいるが、どうも連中、馬鹿ではないらしいからな。」

「アハハ、灯来さんは頭がキレるんですね、納得です。紅麗さんは納得できませんが。」

「何言ってる、紅麗以外適役がいないだろうが。」

そう言って、灯来は身を翻す。そして、コーヒーを一杯すすった。

「特殊隊…一番安全とか言ったが、そんなに甘い任務じゃないぞ。」

「解ってます。…必ず、生きて帰りますから。」

「そうしてくれ。彼女のためにもな。」

「は、はぁ。」

風輝は、戸惑いつつもそう返答した。

 作戦直前、灯来は全員を集めて、紅麗の説明を聞かせた。作戦会議だ。

「まず、本作戦のスタート地点だ。ここ、この丘を下った先にある、水道管から各班潜入してらう。ここを先に進んだ後、この基地最も南東にある、エンジンルームに到着する。そこから、陣形を散開しつつ、敵にバレないように尽くしつつ移動をしていく。万が一敵に戦闘態勢を取られた場合、こちら外部班及び別動隊からの支援はあてにならない旨を伝えておこう。」

「エンジンルームには、別動隊が待機してもらう。ここに、支援物資を用意してもらい、作戦展開中はここを主な拠点として陣形展開を試みる。食料、水、弾薬等必要なものはここで補充をしていく。」

そう灯来が細くした。

「エンジンルームには、各部の照明、電気設備の切断が可能だが、敵に警戒態勢に入られてしまう可能性があるため、切断行わないでの決行となる。そのため、暗視ゴーグルの使用は無しだ。装備軽量化のため、暗視ゴーグルの装備は禁止としよう。このエンジンルームから、施設最北東にある指令室及び管制塔を目指す。が、施設中央には残念ながら装甲車及び戦車部隊が待機状態で陣形展開しているため、通ることはできない。また、エンジンルームから管制塔を最短距離で結ぶこのルートも、敵による妨害工作か、銃座が全十丁双方向に向けて設置されており、ここも常に動ける状態で待機している。そのため、このルートも無理だ。残されたのは、残念ながら施設最南東から際南西、最北西を通っての最北東になる。最も遠いルートとなる。今までのどの作戦よりも最も辛く、そして厳しい戦いになるだろうが、みな、心して挑んで欲しい。」

そして、灯来が続けた。

「全員に、こいつを配った。電源を起動させてみてくれ。」

各々、配られた端末の電源を付けた。

「今作戦における、基本的な交戦規定及び各ルートの地図を乗せた。だが、命の危険に侵されたなら、交戦規定なんざ無視していい。必ず生きて帰る事だけを優先してくれ。」

話は、紅麗に戻った。

「途中、地上ルートを通る個所がある。ここは、一部滑走路になっており、見通しも良くかなり危険だ。そのため、ここでは各方面に散らばりつつ、班長の指示に従って移動してもらうことになる。最悪は匍匐前進することになるだろう。また、途中様々な施設を通ることになるだろう。食糧庫や武器庫も途中にある。そこでは、それぞれの物資確保を可とする。が、喧嘩防止のため、食料は二つ以内、武器庫では、必要なものを必要な分だけ。まぁ、この部隊で喧嘩なんて聞いたことない。そんなことは起こらないだろうが、なんせ極限状態にまで追い込まれることになるんだ、心しておけ。俺は君らを信じているよ。」

「総員、突撃用意‼これより、本部奪還作戦を開始する。…健闘を‼」

今、彼らの反撃が始まった。作戦会議が行われていたテントに、虚しい風が吹き抜けた。

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