第九話 全知全能
灯来が武器を手にすると宣言してから、一週間が経った。それでも、何事もなかったかの様に、水面下の争いは無くなった。彼らLRPが敵視していた存在が、ここしばらく姿を現さなかった。それでも、灯来は敵がどこにいるのかを炙り出そうとしていた。
パソコンを前にして、灯来は一人唸っていた。
「うー。」
「おーい、うーうーうーうー煩いよ~?」
「そうか、悪い…うー。」
「反省しろやい。」
天音が灯来に突っ込む。ここ三日、パソコンに向かうとずっとこれだい。最近思うのが、灯来は絶対病院いくべきだということだ。疲弊し過ぎだ。
「…う?」
一瞬、灯来の動きが止まり、パソコンを凝視した。
「…こいつぁ、チャンスってやつなんじゃないんかね。」
「どうしたの?テストの点でも上がった?」
「何を言ってる。俺はこれ以上点が増えても追い越せる人がいないから勉強を放置してるだけだ。」
「え…?もしや灯来さんがテスト首席?」
「今更…?」
天音は愕然とした。
「こ、こいつがー?」
「おいこら、失礼だぞ。」
今度は灯来が突っ込む。
「って違う違う。もっと大切なもんさ。」
「テストより大切と申すか…。」
「勿論さ。」
灯来は、いつもの準備を終え、玄関に向かった。
「そいじゃ、ちょいとばかり行ってくる。」
「んー、あいよ、いってら。」
灯来は家を出た。
「確証が出たって、本当か、紅麗?」
『本当も本当。もしかしたら、奴らの首根っこを押さえることにもなる…。』
「そんな情報転がってるもんなのか⁈」
『まぁ、来れば解る。』
「了解、本部に出頭する。」
灯来は急ぎ足で本部に向かった。
指令室に入ると、扉の向こうには、紅麗と風輝が待っていた。
「こいつだ。」
紅麗がそう一声上げて、机に広げられた紙を指さす。
「…地形図?」
「そう…。以前見つけた情報が不確かかもしれんという話をしたろ?」
「ああ、されたな。」
「だが地形図と合わせてみたらはっきりした。見てみろ。」
以前灯来も受け取った情報が印刷された紙を地形図のある地点に置いてみる。
「ここには、坑道がある。その坑道の裏ってことだ。」
「…座標軸があっている。…確かに、確証はあるのかもしれん。」
「いかがいたしますか、灯来さん。」
「そうだな…。とりあえず、挨拶に行ってみるか。」
「了解。」
「早急に準備に移ります。」
「頼む。」
「久しぶりの進展だな。」
「あぁ、安心した。機動隊連中も仕事をさぼっていないみたいだからな。」
「お前が一番さぼってらーい。」
「俺は学生だ。」
「…お前が言うか?」
「失礼な、俺だってちゃんと仕事してたさ!」
「…知ってるか?後になって立場を変えるほど、信用できんものはないって…。」
「準備、完了しました、精鋭部隊なら、いつでも編成できます。」
「いや、いい。俺たちだけで行こう。精鋭班はここで待機。指示を待て。」
「了解。」
「よし、行くぞ!」
灯来が一声上げ、彼らは指令室を飛び出していった。
数分後、車に揺られてしばらく。たどり着いたのは、坑道だった。
「今日中には帰れそうにないな。」
「この距離だ、学業は我慢願いたい。」
「それに関しちゃ問わねぇ。むしろ退屈していたところだ。」
「家で待ってる奥さんにはちゃんと連絡しておけよ。」
「何で天音が俺の奥さんになるのかね?お苦さんの間違いだろ?」
「止めてやれ、お前の冗談は本当に重いから。」
「そうか?」
その間、優秀にも風輝だけが敵陣を偵察していた。
「突破口は一つだけ。非常に計算された人員配置をしていますね。」
「一つでも突破口があれば、計算されているとは言えない。」
「まったくだ。潜入する側にもなってみろってな。」
「あんの…あなたがたはどっち側なんですか…。」
風輝が呆れて二人に問う。
「「仕方ないだろ、つまらないんだから。」」
二人の答えはこれだった。
「ゲームじゃないんだから!お家で某金属の歯車でもやっててください!」
「あれ楽しいよな。主に三作目。」
「あぁ、主人公の歴史が解る奴か…。解る。」
「いいからさっさと行きましょう!」
風輝は苦労性である。
例の突破口まで走った灯来。目の前の門番を見張った。
「紅麗、脇にそれろ。上から行く。風輝、頼む。」
「あれ怖いんですよ?知らないでしょうけど…。」
風輝が愚痴りながら敵兵の前に降りた。今は天井裏に隠れている状態である。
「誰だ⁈」
「動くな‼」
同時にアサルトライフルを構えた警備〝兵〟が叫んだ。その背後に、音もなく着地する二人の影。
「君ら、公務員じゃないな?」
「銃刀法違反…ついでに、殺人未遂かな…。かなり重い刑罰かもしれんなこれは。」
「突き出す暇があれば突き殺す。残念ながら俺はそういう生き物だ。」
「灯来、お前今度殺人で逮捕しようか?」
「そしたら俺は、死刑は固い。こいつら如き、どうやって始末しようか、何通りも浮かぶ。」
「悪魔だ…。」
「そう言ってくれるな風輝。これでも、趣味は最低限にしているんだぜ?」
「敵兵を拘束しながら駄弁るのも趣味か?」
「違いないね。」
瞬間、二人は同時に背負い投げをした後、肘をあらぬ方向に曲げて、銃のグリップを頭に当てて気絶させた。
「「二丁上がり。」」
二人は同時に声をあげ、ねじ伏せた二人を見下す。
「やはりここでも、傭兵がいるか…。」
「そうみたいだな。どう処理する?」
「精鋭班に伝達。精鋭部隊を編成し、ここで待機。」
「了解、精鋭班に伝達します。部隊編成及び、指定位置にて待機してください。」
風輝が連絡を入れた。
「さて、先に進むか。」
灯来がスコーピオンを取り出した。
「待て、殺る気か?」
「いいや。」
灯来はマガジンを外して見せた。
「麻酔弾さ。」
「なんつか、本当に某金属の歯車になってきたな。」
「いいじゃねぇか。これより、アーミーズイーター作戦を開始する。」
「止めろ、それ以上は色々と引っかかる。」
「…もうアウトだと思いますが…。」
他の二人も、各々麻酔弾を入れた銃を装備した。
「…⁈」
気配にいち早く気付いた灯来が、手を奥に押し出す動作をして、二人を壁際に寄せた。散開の合図である。
「紅麗…前方三人。増援だ。武器は突撃銃。」
「了解。一人を捕虜にしよう。」
「合点。最後に来たのを、俺が捕える。」
「承知。」
二人は一斉に飛び出した。
「ぬ⁈」
敵兵の独りが、驚いた声を出して突撃銃を斉射した。それを横によけ、二人は銃を取り出す。灯来のスコーピオンが一人の睡魔を爆発させた。同時に紅麗のUZIが火を噴き、一人を眠らせた。その間、灯来は右手にナイフを持って、もう一人に向かって走る。
「んな、化け物か⁈」
戦い慣れしていないのが一目瞭然だった。後ろにまわり、ナイフを首に突き立てる。
「ちょっとお話があるんですがねぇ。」
最後の一人は、終始訳が解らず混乱し、終いにはその場で座り込んだ。
「お前らは何だ?」
「…。」
「黙秘権か…。面倒なことを。」
「その銃…ブラックライフルじゃないのか?」
「本当だ。米兵の旧式ライフル。」
少し前までは現役だったが、今や米ではカービン銃が定着している。
「M4よりはいいと思うがね、この銃。」
「…言えてる。お前ら、立ち回りは見事だった。傭兵経験は?」
「三年前に一度。」
「その後はどこで訓練を?」
「沖縄基地。」
「出身は?」
「日本。渡米してから米兵に工作員として編入した。」
「スパイだったのか…。紅麗、日本はそんなにアメリカと仲悪かったっけ?」
「そんなことはない。むしろ最近は、冷戦時以上にかなり友好的なはずだ。」
「つっても、冷戦時って上だけ仲が良かったんじゃ…。」
「まぁな。庶民側は日本の車が気に入らなかったって話よ。」
「今はそれ以上に仲がいいことを考えると…。」
「アメリカに逆がいるってことか…。」
「雇い主について答えろ。」
「し、知らない。顔も知らされていない。」
「司令官からの指示か?」
「そうだ。司令官の指示で、依頼人の元に行った!」
「やっぱ依頼人がいたのか。…これじゃ、傭兵ビジネスだな。」
「あぁ。軍隊を持たない国じゃ傭兵は高くつく。アメリカが手を貸すのも解らんでもない。」
「灯来、どうする?」
「紅麗、そこの柱にそいつを拘束しておけ。風輝、精鋭部隊の到着はどのくらいだ?」
「あとに三分もすれば地上に到着するかと。」
「よし、風輝、ここまで道案内してやれ。紅麗、俺たちはここで待機。敵を止める。」
「「了解。」」
二人は声をあげ、風輝が地上を目指していった。紅麗が声をあげた。
「ところで、お前は何でこんなところを探していた?」
「傭兵がいるってのも理由の一つさ。」
「でも、それだけじゃないんだろ?」
「当たり前だろ。」
灯来はスコーピオンを手の中で回す。それを天に放り投げ、右手でキャッチ。それを背中で投げて、左手でキャッチした。
「何事にも始まりはある。伝説、宗教の始まりは、いつも奇跡。あとは…。」
精鋭部隊が向かってくる足音がした。
「精鋭部隊、編成及び到着いたしました。」
「報告、精鋭部隊、三班構成格十名となっております。」
「ご苦労。解るか、紅麗?いつも、存在しているのは、神…全知全能の存在さ。」
灯来は、歩き出す。精鋭部隊を後ろに従えて。敵兵の元に、歩いていく。




